第59話 ラバーズ事務所を恐れぬ局

文字数 877文字


 マッキーの人気は再び沖縄から火がついた。ライブハウスから始めた彼の営業活動は、やがては沖縄各地のイベントや音楽フェスなどに広がり、そしてついには島内だけではあるが、ソロコンサートを開催できるほどに人気を取り戻していた。
 こうなってくると、放っておかないのがテレビ局であるが、民放各社はラバーズの威光を恐れてマッキーに手を出さない。海堂丈太郎からマッキーを使えばラバーズタレントをその局に出さないと脅されていたからである。
 スポンサー収入で成り立っている民放各社にとって番組視聴率は生命線である。人気アイドルのキャスティングを封じられると番組を作れない。とりわけ圧倒的支持を得ている男性アイドルを多数擁していたラバーズ事務所と対立することは絶対に避けたい。それは会社の滅亡を意味する。
 だから、いくらマッキーが沖縄で売れようが、民放各社は彼を起用しない。
 しかし、ただ1社だけラバーズ事務所を恐れぬ局があった。
 N放送局である。N放送局は視聴者から受信料を徴収している謂わば、準国営放送的なテレビ局である。そのためスポンサーを探す必要がない。つまり視聴率を気にせず番組を作れるわけで、仮にラバーズタレントを引き揚げられても会社収入には直接なんの影響もない。
 こうなると、沖縄で再ブレークし始めたマッキーをN放送局は遠慮なく使おうと考える。公共放送として全国各地の旬なものを取り上げることがむしろ役目であるからだ。
 マッキーにN放送局からオファーが来た。それも沖縄支局ではなく在京本社から。全国放送の歌番組への出演だった。三線の腕を披露して欲しいと。番組の中では持ち歌も歌うし、他のアーティストとのセッションもあるし、ポストアイドルとしてコメントも求められるとのことだった。かつての人気アイドルからの変貌ぶりを見せてくれと。
 マッキーは迷った。彼はご当地アイドルのままでいいと思っていたからだ。
 だが、何年かぶりの全国放送。心の奥でなにやら騒ぐものがあった。
 そこで彼は相談することにした。三線の師匠ではなく、ご当地アイドルをめざせと言ってくれたあの人に。
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