第37話 愛のレッスン

文字数 2,005文字

 窓際で夜景を見ながら寄り添う二人……。
 真一郎は窓の外の景色を見ている愛菜の背中を抱きながら、話しかける。

「君はあれの経験があるの?」
 しばらく間を置いて愛菜は恥ずかしそうに口を開いた。
「あっ……はい」
「それはよかった」
 愛菜には何が良かったか分からないが、大体の想像は付く。
「愛菜ちゃんを脱がせたいな。そのままでいいから、動かないで」
「えっ? あっ……はい」 

 その言葉の通りに、真一郎は愛菜の身につけているベールを一枚一枚剥がしていった。彼女の着衣は、するすると彼の器用な手で床に滑り落ちていく。珍しくドレスアップした、大人っぽいアシンメトリーなドレープ・ドレス。お気に入りのブレスレットが腕から外されていく。
 ネックレスやイヤリングも外され、彼女が身につけているものは香水だけになった。耳たぶに少しだけ付けた「愛の香り」……これを彼は気に入ってくれるかしら、と心配になる。

「あとで激しくエッチするとき、大切な物が壊れちゃうからね」
「優しいですね。とっても」
「そうかい」
 こんなところにも気を遣ってくれる彼がますます好きになっていく。
「可愛い下着だね」
「嬉しいです」

 愛菜は今日の為に用意してあった下着を褒められて嬉しかった。お洒落で可愛くて、少し大人でセクシーな下着を探すのに苦労した甲斐があったと思った。ランジェリーのお店を覗きながら、もしこういうことになったら、真一郎さんは喜んでくれるかしら?
 ブラジャーは、ショーツは? 等と考えるのは女にとって楽しい。
(女の子はこういうところに気を遣うのよ。それを褒めてくれて嬉しい。さすが……)

 上着が落ち、ブラジャーのフックを外されやがてエレガントな下着も床に落ち、それらは薄いピンク色に染まり、花のように艶やかに床で花と乱れ舞う。裸にされた愛菜は、美しいビーナスになって夜景の窓の近くで恥じらいながら立っていた。
 真一郎もゆっくりと裸の愛菜を見つめながら服を脱ぎ、愛菜を抱き寄せてキスをする。
(あん、いきなり)

 唇を重ね、彼の舌が愛菜の口の中に忍び込んでくる。愛菜は思わずとろけそうな感覚になった。強く抱きしめられ乳房が潰されそうになる。あの江梨花ママが私に(いっぱい可愛がってもらうのよ)という言葉がようやく理解出来た。
(あたしは今夜、彼の為に尽くす女になるのね……)
「好きだよ。愛菜」

 彼の言うこと全てが愛菜には心地よかった。信頼し愛される男性に心を預け全てに従う嬉しさを感じていた。思わず目頭が熱くなり熱い涙が頬に流れる。まるで魔法に掛かったような不思議な気持ち、不思議な快感が身体の中を走る。

「あの……聞いても良いですか?」
「いいよ。なにをかな?」
「母は、真一郎さんに、こんなこともしたんでしょうか?」
「そうだね。いろいろとね……でもなぜ?」
「いえ。いいんです。でも嬉しいです。キスしてください」
「わかった」

 すでに愛菜と母とのバトルは始まっていた。しかし、娘がそんなことを思っているとは房江はまだ知らない。愛する娘が真一郎と、こんなに激しいことをするなど想像すら出来ないだろう。
「さあ、灯りを消すから、窓際に行こうか」
「はい」
「そこに立ってごらん」
「あぁ、はい」

 薄暗くした部屋の間接照明と、外からキラキラと輝く遠くからのダブル照明で愛菜の裸体は想像以上の美しさだった。
「綺麗だよ。愛菜ちゃん」
「あん。はい、嬉しいです……」

 恥ずかしそうに消え入りそうな声を出し、愛菜は窓際で立っていた。それを暗闇の中でじっと見つめる真一郎の顔。
 愛菜の胸はどきどきと早鐘を打つように高鳴っていた。その音は更に高鳴りこのまま死んでしまいそうな気さえする。身体の芯からの痺れと官能の波がジワジワと押し寄せ、立っていられないほどの目眩を感じてよろけそうになる。
 その愛菜を真一郎が後ろから肩を抱きしめ支える。

「大丈夫だよ、安心しなさい」
「は、はい……」

 そのまま、真一郎は窓のガラスに愛菜を前向きでピタリと押しつけ背後から腰を密着する。
 ガラスの感触は冷たい。しかし、火照った身体の愛菜には気持ちが良かった。もし、その部屋が高層でなかったなら外からガラス窓にへばり付いた愛菜の全裸姿は丸見えになるだろう。
 夕闇の中で、ガラス越しの窓からは淡い月明かりが差し込んでくる。いつも紳士的でダンディな真一郎は、その夜は野獣のようだった。

 キスと真一郎の巧みな愛撫の嵐で愛菜は身も心もとろけていった。火照るような欲情の炎は愛菜の汗となって妖しく光っている。
 その部屋のカーテンを開けた窓際には、ガラス越しに闇が広がっていた。部屋の照明を消してあるために部屋は暗く、外からの光や月の光だけが差し込んでいるだけで幻想的だった。

 吹き荒れた熱い嵐の後の闇の中で、二つの肉塊は重なりながら床に崩れこんでいた。
 その重なり合った上を、白く妖しい月明かりが照らし、いつまでも光っていた。


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