第51話 若い愛人と美人秘書との関係

文字数 2,261文字

 真一郎はその日の午後の会議に何とか間に合った。秘書の沙也香のおかげでなんとか、会議を乗り越えることができた。彼女に頼んでおいた資料は完璧であり、とりあえず無事に終了した。    
 壁にはめ込んだ大画面には、コンピューターを駆使して、プレゼンテーション用に作成した表やグラフを表示させた。それらは色彩鮮やかで、画像は見やすく解りやすいと評判だった。

 実際に形のないものは、簡潔で判りやすくすることに力を注いで完成させた。概ねの指示は真一郎がしたのだが、部下達はそれに創意工夫をした。どうしても視覚だけでは理解しづらい場合には、今はやりの3Dプリンターで立体化したサンプルを造りテーブルの上に置いた。
これは意外にも好評だった。

「さすがですな。事業部長」
「有り難うございます」

 真一郎はプレゼンターとして熱弁を振るい、それが終わったときには盛大な拍手が起こった。後は、資料の通りに計画を実行に移すことになる。会議が終わった後、真一郎は自分の事業部長の部屋の深々とした椅子に座って、今日の会議の成果を反芻(はんすう)していた。思い出し、その余韻に浸っていた。
 しばらくして、沙也香が真一郎の好物のコーヒーを運んでくる。

「お疲れ様でした。部長」
「いや、何から何まで君のおかげだよ。ありがとう」
「いえ。私は部長の言われるままに、仕事をしただけですから」
「そうかい、でもありがとう。助かったよ」
 その時、真一郎の携帯電話がなった。

「部長、お電話ですね。私は失礼します」
「うん、ありがとう」 沙也香は気を利かせて、部屋を出て行った。
 真一郎の携帯電話の相手は、昨夜と朝に愛し合った愛菜からだった。忙しさに忘れていたが、愛菜の声を聞くと昨日と今朝のことが思い出される。

「もしもし、私だ。どうした、愛菜?」
「あ、真一郎さん。あれから家に帰って母と喧嘩して家を出ちゃいました」
「えっ! 喧嘩を、房江さんとなぜ?」
「昨日からのことや、真一郎さんとのことで……」
「そうか、で、どうする、これから?」
「あたし行くところが……」
「部屋でも借りようか?」
「ダメ、それじゃ。時間掛かるし、もう時間が無いの……」
「それは困ったなぁ、友達とかいないのか?」
「いません、真一郎さん。何とかして、愛人なんだから」

 そう言いながら、なぜか愛菜は自分でくすっと笑った。愛人という言葉が自分でも馴れていなくて、可笑しいのだろう。身体は文句ないのだが、愛菜の心はまだ幼い……。
 すっかり愛菜は愛人気取りになっていた、こんなに浮き浮きした気持ちになったのは初めてだった。なぜか甘酸っぱいようで排他的な気持ちが心地よい。それは今までの自分でない新しい愛菜に生まれ変わった気がした。
 真一郎はそんな愛菜を思っていた。

 今までの真一郎の女達には無かったタイプだけに、愛菜は可愛い。童顔で可愛く、プリプリとした身体の愛人も悪くない……愛菜が、かって愛した房江の子供だと思うと、かえって欲情が増して身体が熱くなるのだ。
(愛する愛菜をなんとかしなければ)

「そうだな、少し考えよう。あとで電話するから待っててくれ」
「わかりました。早くお願いします。パパ」
「おいおい。もう私はもうパパかい」
「だって、愛人は男の人にパパって言うでしょ」
「そうだな。わかった」
 
 真一郎は苦笑いした、始め生真面目に見えたあの娘の変わり様を……でも悪くないな、と彼は窓を見つめながら、今朝まで愛し合った若い愛菜の裸身を思い浮かべていた。
 午後からの緊張した会議から解放された真一郎は、若くフレッシュな愛菜に癒されていた。
(今度、いつまた抱こうか)

 そんなことを考えながら真一郎は電話を切って、対応を考えた。自分のことで母親と喧嘩になり、その娘が家を出たとなれば、そのままにしておくことはできない。部屋を借りるのはイヤだと言うし。
 どこかの部屋を借りてそこに彼女をひとまず落ち着かせることもできるが、直ぐにできることではない。物件も探さなくては。これだけは自分でしなければならない。
 また秘書の沙也香にでも頼もうか。

(そうだ!)
彼の頭の中に在るアイディアがひらめいた。そこで彼は秘書の沙也香に電話をした。
「はい。沙也香です。部長、何かご用ですか?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだ。すぐに来てくれないか」
 沙也香は直ぐにやって来た。
「失礼します、部長」
「あ、いや、仕事じゃないのだか、ぜひ君に頼みたいことがあるんだ」
「はい。どんなご用件でしょう」

 真一郎が、プライベートで特別に自分に頼むときはだいたいは分かる。その顔を見れば分かるのだ。これは自分しか分からないことであり、沙也香の自慢でもある。おそらくは女性に絡むことであり、沙也香にはそれが悲しいかな慣れているのだ。

「実はね今日、会議に遅れたのもその娘と一緒にいたんだよ。まだ若い娘さ。お願いと言うのは、その娘が母親と喧嘩して家を飛び出したらしいのだ。その娘を少しの間で良い預かってもらえないだろうか?」

「まぁ、それはまた大変ですね。預かるって言いますと?」
「もちろん、君のマンションでだよ。何とかお願いできないかな?」

 沙也香は、心の中で彼が自分を頼って依頼してくることが嬉しかった。たとえ、それが今の若い彼の愛人だったとしても、それを断る理由がない。
 それに、真一郎が午後の会議を忘れるほど夢中にさせる少女とはどんな娘か、沙也香はその少女を見たくなってきた。

(私とその少女と真一郎さんは、どっちが魅力的かしら……)
また、新たなる女の闘いが始まったようである。



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