第42話 もてる男の悩み

文字数 1,052文字

 その朝の愛菜は人が変わったように積極的になっていた。女は一度身体を許すと、タガが緩み、驚くほど変貌する時があるようだ、それが愛菜なのか……。
 若い愛菜は真一郎の上に、ピチピチとした肉体を密着させ迫ってきた。

「凄いな、愛菜ちゃん。どうしたんだい朝から」
「だって……愛菜、真一郎さんを好きになっちゃいました。昨日みたいに狂わせてください」
(俺はこれを喜んで良いのか?)

 昨日、喫茶店で会ったときの彼女とは別人のようだった。彼はこの時から、若いピチピチとした彼女に翻弄(ほんろう)されることになるのだろうか。
 午後から大事な会議が入っているというのに、若い娘に夢中になり、もうそれさえも頭にない。秘書の沙也香は真一郎が来るものと思って、特に告げていなかった。

 真一郎は(だる)い身体で、ホテルからタクシーに乗り会社に向かっていた。いつまでも若いと思っていたが、愛菜とのことでそれを思い知らされた。
 まだ下半身がなんとなく重く、腰の動きも悪い。しかし、彼の身体の四肢と陰茎は、まだ愛菜の身体を憶えている。

 窓の外の景色を見ながら、頭の中では彼女との性の余韻を楽しんでいた。
 昨夜は、自分が積極的に若い愛菜にアタックして彼女を楽しんだつもりだった。しかし、今朝になってその愛菜に逆襲されるとは思ってもみなかった。

 彼が今まで相手にした女たちは、彼の年齢に応じた女達だった。三十代半ばの女性達は、しっとりとして、その肌が吸い付くようであり四十代ともなれば、さらにそれに(つや)やかさが加わる。そうした彼女達とのセックスでは彼のやり方で様々に愛してきた。

 そんな女達のことを彼はタクシーの中で思い出していた。昨日から、かつて愛した鮎川房江の娘の愛菜を愛し、愛人にしてしまった。いつもならば女達から哀願されたのだが、昨日は自分から言い出してしまったのだのだ。

(愛菜を自分から愛人にすると言ってしまった……俺は少し気力と体力が衰えたのかな)と思ってしまう。しかし、自分を心から慕い、尽くしてくれる秘書の沙也香もいるのだが。俺という男は今二人の女を愛人にしている。
 今までならそんな自分を認め、有頂天になっているだろう。
 だが、二人の女を愛人にしていながら、心から素直に喜べない自分がいる。

(俺とはどういう人間なんだろうか? 女なしでは生きていけないのか?)と真一郎は自問していた。
 タクシーは、郊外のラブホテルから、高いビルが建ち並ぶ街中に入っていた。そこでは若い女達がそれぞれに着飾り、流行のファッションを身につけながら颯爽(さっそう)として歩いている。



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