第38話 宴のあとで

文字数 1,584文字

 ベッドの中で、真一郎の左腕は愛菜に腕枕をしていた。愛菜は猫のように身体を丸めながら、裸で彼の右手に抱かれている。激しい窓際のセックスの後、疲れてそのまま真一郎に抱かれて眠っていた。その彼女の寝顔をじっと真一郎は見つめている。

(とうとう自分は、この娘とセックスをしてしまった)
 この後、どうすれば良い?  会社の誤算で一人の女性を辞めさせてしまいその謝罪するつもりで来たのに。その女性とセックスをしてしまった自分。しかも、その女性の母親がかつて激しく愛しあい、愛を誓った房江だったとは……。

(俺は母親のその娘まで関係を持ってしまった。自分が独身ならそれも良いだろう。いざとなれば結婚すれば良いのだから。しかし、自分は妻帯者である。そんなことは許されない。妻だっているのだ)
 そんなことを考えていると、真一郎はどうして良いのか分からなくなってきた。俺は彼女を愛してしまった。それは、俺が愛したのは若い彼女の肉体か、それとも自分を慕ってくれる純粋な心か……わからない。

 これからどうする?
 彼女も俺を好きだと言ってくれた。このまま過ちを侘びて、許しを請うべきか……もう合うのは辞めようって言おうか。金で清算して欲しいと。
 いやそんな薄情なことは出来ない。そんな金を受け取る彼女ではない。そういう生き方を俺はしてこなかったはずだ……そんなことを思いながら、疲れて寝込んでいる愛菜を見ていた。彼女は美しい。暗闇の部屋から、今は淡い照明は点けてある。

 薄く淡い光りは裸で背中を向けて寝ている少女の肌を照らしていた。思わず、そっとその背中を撫でてみる。すべすべして温かく肌触りが良い。まるで赤ん坊のように、きめが細かい。
 思わずその背中に、真一郎はキスをした。
 その気配に気が付き、愛菜がゆっくりと目を覚ました。

「あん。くすぐったいです。真一郎さん」
「おや、目を覚ましちゃったかな」
「はい。気持ちが良くて寝てしまいました」
 そう言いながら、愛菜は向きを変え真一郎と向き合った。
「何を考えているんですか?」
 愛菜は真一郎に甘えるように絡んできた。

「いや、君とのことさ」
「これから、どうしようかってことでしょ」
「そうだね」
「だって、さっき言ったでしょ」
「何て言ったっけ?」
「これからも付き合って欲しいって。あの言葉は?」
「あぁ、嘘じゃないさ。私の本当の心だよ」
「あん、嬉しい! ねえねえ今度いつ合って貰えます?」

 真一郎は愛菜が積極的になったので少し驚いていた。たしかに、その言葉を言ったが、深く考えていった言葉ではない。その言葉が、後で真一郎と愛菜の運命を変えることになるかも知れないのだ。

 次の朝、ホテルの窓から少し空いた隙間から朝の光が差し込んでくる。その淡い朝日を浴びながら、真一郎は昨夜の激しいセックスを思い出していた。その相手の愛菜は、今自分に裸の肩を抱かれてうとうとしている。

 背中越しに見える彼女の乳房は光に反射して白く、まるで餅のようだった。その柔らかな乳房に触れてもまだ彼女はすやすやと寝入っている。その横顔は、昨日の激しいセックスの時に見たときの興奮した愛菜ではなく、化粧を落とした素顔はまるで少女のような寝顔だった。

 思わず真一郎は苦笑し、右手の人差し指で頬を撫でると、少し反応したが起きる気配は無い。
(やはり彼女はまだまだ子供だな)と思い、そっと掛けてある毛布を剥がすと、そこに横たわっている身体は子供の身体ではなかった。

 その若い肉体はプリプリとして弾けるようだった。その裸の尻を手で撫でていると(さむいよー)となにやら愛菜が言う。

 慌てて真一郎は毛布を掛けた。
 しかし、愛菜が起きる気配が無い。
 朝方まで激しく抱き合ったセックスで疲れたのだろうか。  
 若くはない真一郎はいつもの時間には目を覚ましてしまう。



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