第56話 愛人二人を前に男の言い訳
文字数 1,535文字
沙也香も愛菜もドキドキしていた。お互いが愛人同士とわかってから、初めてその相手の男性と対面するのだから。場合によっては、三角関係では激しい憎悪の中で己れの優位性を主張し、ライバルを蹴落とすこともある。
しかし、この二人の女には、そう言う生々しい雰囲気はない。それぞれに激しいものは持ってはいるが、このことに関してはあまり心配する必要はないようである。
端的に言えば性格が良いということかもしれない。こういう女達に愛された真一郎は、幸せな男と言えるのかもしれない。だが、これから展開される場合によってはそう安閑 としてはいられない場合も考えられる。
沙也香のマンションの居間で、二人の女はくつろぎながら、真一郎を待っていた。彼が部屋に入ってきた。さすがの彼も目の前にいる愛人の二人に、どう話しかけていいのか戸惑っているようだった。
「こんばんは。二人に駅前の店でケーキを買ってきたよ。私のも含めて三個ね」
「あ、ありがとうございます。でも真一郎さんがケーキなんて珍しいですね。初めてじゃないかしら」
沙也香が緊張をほぐすように、さりげなく言う。
「あら、そうなんですか?」
「そうよ。では紅茶でも入れましょうか?」
「お願いしようかな」
「では、わたしも」
二つのソファーが向き合っており、一つに真一郎が座り、もう一つには、真ん中のクリスタルテーブルを挟んで沙也香と愛菜が座っている。テーブルにはケーキと紅茶が置いてあり、各々それを口に運んでいた。まずは無難な出足で始まったようである。
一息ついて、いよいよ本題に入るようだ。
「さてと、私が改めて二人も紹介する必要がないようだね。まずは沙也香に御礼を言わなければ、ありがとう沙也香。今度の愛菜のことでは」
「いえ。大丈夫です。もう二人とも意気投合しましたから。そうよね。愛菜さん」
「はい。沙也香さん」
「そうかい。それはよかった」
真一郎は、ここに来るまでは心配していた。沙也香が、いくら自分に忠実な女だとしても、別の女を面倒みてくれと言っている自分が、非常識だということがわかっていた。
しかし、沙也香はそんな自分の心もわかってくれて、なんとか対応してくれる女だと思うからこそ頼んだのである。その思惑 は取り敢えず上手くいったようで安心した。
「本当は、こんな形で二人を合わせるつもりはなかったんだ。しかし愛菜が家を出てしまったので仕方なしに……」 真一郎は申し訳なさそうに沙也香を見た。
「すみません。私のわがままで、沙也香さんには迷惑をかけてしまいました」
「いえ、良いのよ。私たちお友達になれそうだし」
「はい」 そう言って二人の女は顔を見つめあい微笑んだ。
「そうか、それはよかった。ところで話と言うのは二人のことで、今更二人にここで言い訳をするつもりはないが、聞いて欲しい」
「はい」
二人の女は少し緊張していた。
「私のことを調子がいい男と思うだろうね。何しろ君たち二人を愛人にしてしまったのだから、沙也香には本当に仕事では世話になっている。それと会社の不祥事の関係では、愛菜に会社をやめさせることになって、その謝罪に行ったつもりが、彼女の虜になってしまった」
ここで真一郎は一息ついたが、二人は黙ってじっと彼の目を見つめていた。
「それで、今私はここで自分の気持ちを言うので、君たちの気持ちを聞かせて欲しい」
真一郎はそのまま話を続ける。
「まず沙也香については、さっきも言ったように、これからもずっと私の仕事の相棒でいてほしい。それから、私は仕事以外でも沙也香は大切な人なんだよ。虫のいい話だと思うだろうが、沙也香にはこれからも、この関係を続けたいと思っているんだ」
沙也香の目は潤んでいる。そんな沙也香の顔を愛菜は横でじっと見ていた。
しかし、この二人の女には、そう言う生々しい雰囲気はない。それぞれに激しいものは持ってはいるが、このことに関してはあまり心配する必要はないようである。
端的に言えば性格が良いということかもしれない。こういう女達に愛された真一郎は、幸せな男と言えるのかもしれない。だが、これから展開される場合によってはそう
沙也香のマンションの居間で、二人の女はくつろぎながら、真一郎を待っていた。彼が部屋に入ってきた。さすがの彼も目の前にいる愛人の二人に、どう話しかけていいのか戸惑っているようだった。
「こんばんは。二人に駅前の店でケーキを買ってきたよ。私のも含めて三個ね」
「あ、ありがとうございます。でも真一郎さんがケーキなんて珍しいですね。初めてじゃないかしら」
沙也香が緊張をほぐすように、さりげなく言う。
「あら、そうなんですか?」
「そうよ。では紅茶でも入れましょうか?」
「お願いしようかな」
「では、わたしも」
二つのソファーが向き合っており、一つに真一郎が座り、もう一つには、真ん中のクリスタルテーブルを挟んで沙也香と愛菜が座っている。テーブルにはケーキと紅茶が置いてあり、各々それを口に運んでいた。まずは無難な出足で始まったようである。
一息ついて、いよいよ本題に入るようだ。
「さてと、私が改めて二人も紹介する必要がないようだね。まずは沙也香に御礼を言わなければ、ありがとう沙也香。今度の愛菜のことでは」
「いえ。大丈夫です。もう二人とも意気投合しましたから。そうよね。愛菜さん」
「はい。沙也香さん」
「そうかい。それはよかった」
真一郎は、ここに来るまでは心配していた。沙也香が、いくら自分に忠実な女だとしても、別の女を面倒みてくれと言っている自分が、非常識だということがわかっていた。
しかし、沙也香はそんな自分の心もわかってくれて、なんとか対応してくれる女だと思うからこそ頼んだのである。その
「本当は、こんな形で二人を合わせるつもりはなかったんだ。しかし愛菜が家を出てしまったので仕方なしに……」 真一郎は申し訳なさそうに沙也香を見た。
「すみません。私のわがままで、沙也香さんには迷惑をかけてしまいました」
「いえ、良いのよ。私たちお友達になれそうだし」
「はい」 そう言って二人の女は顔を見つめあい微笑んだ。
「そうか、それはよかった。ところで話と言うのは二人のことで、今更二人にここで言い訳をするつもりはないが、聞いて欲しい」
「はい」
二人の女は少し緊張していた。
「私のことを調子がいい男と思うだろうね。何しろ君たち二人を愛人にしてしまったのだから、沙也香には本当に仕事では世話になっている。それと会社の不祥事の関係では、愛菜に会社をやめさせることになって、その謝罪に行ったつもりが、彼女の虜になってしまった」
ここで真一郎は一息ついたが、二人は黙ってじっと彼の目を見つめていた。
「それで、今私はここで自分の気持ちを言うので、君たちの気持ちを聞かせて欲しい」
真一郎はそのまま話を続ける。
「まず沙也香については、さっきも言ったように、これからもずっと私の仕事の相棒でいてほしい。それから、私は仕事以外でも沙也香は大切な人なんだよ。虫のいい話だと思うだろうが、沙也香にはこれからも、この関係を続けたいと思っているんだ」
沙也香の目は潤んでいる。そんな沙也香の顔を愛菜は横でじっと見ていた。