第11話 次期社長を決める会議

文字数 1,690文字

 今、株式会社・浦島機器製造の会議室には、社長の慶次が入ってきて、会議は始まった。役員達は、緊張した面持ちで社長の言葉を聞いていた。

「皆さんは、既に聞いてる人もいるかもしれませんが、今日この取締役会で、私は社長を退くことに決め、会長になることに決めようと思う。私はこの会社を立ち上げ、これまでに大きくさせてきましたが、それは皆さんそれぞれ従業員、その家族、更にはここにおられる君たち役員のお陰だと思っています。改めてここで礼を言いたい。ありがとう」

 壇上の中央に座っていた慶次は、豪華な椅子から立ち上がりジロリと周りを見渡して言った。七十にもうすぐ手が届く歳になった彼は、自分が育てたこの会社を誰よりも愛し、執着していた。
 まだまだ社長を続けていく気力はあるのだが、会社を発展させるには、今が潮時と思い決断したのである。この男には、それ以外にも色々とやることがあるらしい。

「今日の議題は、次期の社長をこの場で決めて欲しいと言うことです。それでここにいる蒼井専務には、私から議長をお願いしてあるので、この後の議事を取り仕切って欲しいと思いますが、皆さん、意義はありませんかな?」

 そう言って慶次が大きな眼をギョロリとさせ、皆を見渡した。このワンマン社長に、意義を唱える人など誰もいない。
 誰かがパラパラと拍手をすると、直ぐにそれは大きくなっていった。
「では、承認されたようですな。では蒼井専務、宜しく頼む」

 そう言って、慶次はゆっくりと座った。ここまでは自分の思いどうりになり満足していた。後は人選であり、これも既にきまったようなものであり、この会議もすんなりと決まって形式的なものになるはずだった。

 議事の進行を慶次から任された蒼井専務は、日頃から慶次に眼をかけられており、彼の進行役に反対する者などいない。

 この部屋には、慶次の娘婿の浦島真一郎が前列に座っている、彼は常務取締役にはなっているが、次期社長となると、その器かどうかは、まだ未知数である。他に副社長や専務、他の常務取締役などの歴々が控えており、戦々恐々として、皆この推移を見守っていた。

 しかし、慶次はまだ真一郎を次期社長にしようか迷っていた。真一郎は娘の婿であり、出来れば婿にこの椅子を譲りたいのだ。その迷いを払拭(ふっしょく)してこの会議で決着をしたいと思っている。

 娘婿の真一郎に、この総括事業部のトップとして任せられるか、それなりの能力があるかを見極めるのにはまだ未知数である。
 以前の真一郎の会社は中規模の航空計器という特殊な業種であり、その製造及び修理をしていたが業績は上がっていなかった。しかし、合併されると慶次は人員整理など思い切った改革を断行した。組合との激しい労働争議になったが完遂(かんすい)し、結果的には成功した。今は着実に業績を伸ばしている。

 それは、慶次が経営者の集まりである会合のなかで、或る航空計器の会社の社長と近づきになり意気投合したからである。その日は、お互いに航空機に関する話題で盛り上がっていた。一般的な商業ベースでない航空関係では、この世界で生き残るのは厳しい業界である。当時、その会社はまだ規模は小さく、運営が(かんば)しくない状況だった。
 慶次はその話を聞いて、なんとかその仕事をしたいと思った。彼の持ち前の交渉力で両社は合併し、浦島機器製造が親会社となった。

 当時の真一郎はその会社では第二営業部長をしていた。
 その彼を娘と結婚させ、婿養子としたのは慶次である。彼は、娘婿である真一郎を合併した会社の社長に昇格させたいと思っていた。

 そうして好きな飛行機の会社を傘下にすれば、長年の自分の夢が叶うからである。そのやり方を少し強引だという役員がいたが慶次は問題にしなかった。当然その役員は降格させられた。その後、慶次の進言により、真一郎は合併された子会社の社長となり、慶次の会社では常務取締役を兼務することになった。
 それを(いぶか)る役員達は少なくなかったが、なぜか主立って言うものはいなかった。


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