第19話 会社の不祥事の報告
文字数 1,479文字
浦島真一郎は、義父である社長の浦島慶次と共に、防衛省に出向いていた。用件は、例の真一郎の事業部の不祥事のあった、工数割り増し請求に対する報告書の提出とその説明だった。
「今回の、航空計器の製造並びに修理に関する契約工数の過大請求の背景、その対応と反省、遵守 についてのご報告書」と表題したその内容は、いかにしてそのような行為に及んだのか、という今までの背景を列記し、今後は誠心誠意、コンプライアンスの遵守に務める、等をこと細かく書いてあった。
しかし、担当官はその文章では満足せず、再度検討するように言われ事前に防衛省に呼びつけられていた。ベテランである担当官の冴木 淳三郎は神妙な顔をして座っている社長の浦島慶次と部下の真一郎を横柄な態度でぎょろりとした目で二人を見つめ、とくとくとその説教を始めた。
この部署では熱血漢で名前が知れている冴木の説教は長くて有名である。その冴木は家庭では想像が出来ないが恐妻家でもある。
一年前に、妻の希望で妻の実家の近くで念願のマイホームを購入したのだ。しかし自衛官にはつきものの転勤がいつも気になっていたころであり、苛々 している。
もし転勤になれば自分だけの転勤となるのだ。当然妻は転勤を拒むし、可愛い娘とはしばらく離れなければならない。
その彼の事務机の上には山のような書類が積まれている。会社とは違い一人の自衛官として書類の処理をしなければいけないので、どうしても書類はかさばる。私用で一日休んだだけでも大変である。
ときどき部屋の掃除にくる頭に手拭いを被ったおばさんに云われていた。
「冴木さん。大変ですね。そんなに書類がたまっては。手伝いたいけれど、わたしには無理だし」
「ありがとう。おばさん。昨日は孫の幼稚園の見学会があってね」
「そう。いくつになっても子供は可愛いもんね。でも私にも息子がいるけれど、彼女が出来てから家に寄りつかないわ。寂しい……」
「そうですか。男の子は女の子とは違うからね」
にこりとして可愛い孫のことを思い出していた冴木だが、仕事となると別の顔になる。
分厚い報告書を差し出した浦島慶次と真一郎の親子を前にして、冴木は机を叩きながら説教を始めた。
「あなたたちの会社はどうなっているのかね。国民の大切な血税でもある税金をどう思っているのか……。その税金でこの防衛省も国も成り立っているんですよ。それを姑息 な手段でごまかそうとはどういう気持ちかな。まったく不愉快だね。わたしは!」
「は、はい。申し訳ありません。調査しましたところ、課員による手違いがありまして。工数の集計の時のプログラムにミスがありました……」
浦島真一郎は額に汗を流して恐縮していた。その隣で社長の慶次が下を向き神妙な顔をしていた。社内では天皇のような振る舞いをする慶次にしては珍しい。
「ほんとうにそうなのかな? 故意にしているんじゃないんだね」
「はい、おっしゃるとおりです。報告書にはその旨を詳細に記載してありますので、再度、お目通しをお願い致します」
「まあ、いいでしょう。わかりました。目を通しましょう。書類に不備が見つかればまたご足労願いますからね。一応仮承認ということで」
「はい、有り難うございます」
書類を再提出して、ようやくその日に仮承認された。後は指摘があった箇所を修正するだけである。
しかし、どんなときでも横柄であり、プライドの高い慶次は自分よりも二回りほど歳が下の事務官に叱責され、意気消 沈していた。どんなときでもやり返し、自分の領域に引きずり込んでしまう慶次なのだが、官が相手ではどうすることも出来なかった。
「今回の、航空計器の製造並びに修理に関する契約工数の過大請求の背景、その対応と反省、
しかし、担当官はその文章では満足せず、再度検討するように言われ事前に防衛省に呼びつけられていた。ベテランである担当官の
この部署では熱血漢で名前が知れている冴木の説教は長くて有名である。その冴木は家庭では想像が出来ないが恐妻家でもある。
一年前に、妻の希望で妻の実家の近くで念願のマイホームを購入したのだ。しかし自衛官にはつきものの転勤がいつも気になっていたころであり、
もし転勤になれば自分だけの転勤となるのだ。当然妻は転勤を拒むし、可愛い娘とはしばらく離れなければならない。
その彼の事務机の上には山のような書類が積まれている。会社とは違い一人の自衛官として書類の処理をしなければいけないので、どうしても書類はかさばる。私用で一日休んだだけでも大変である。
ときどき部屋の掃除にくる頭に手拭いを被ったおばさんに云われていた。
「冴木さん。大変ですね。そんなに書類がたまっては。手伝いたいけれど、わたしには無理だし」
「ありがとう。おばさん。昨日は孫の幼稚園の見学会があってね」
「そう。いくつになっても子供は可愛いもんね。でも私にも息子がいるけれど、彼女が出来てから家に寄りつかないわ。寂しい……」
「そうですか。男の子は女の子とは違うからね」
にこりとして可愛い孫のことを思い出していた冴木だが、仕事となると別の顔になる。
分厚い報告書を差し出した浦島慶次と真一郎の親子を前にして、冴木は机を叩きながら説教を始めた。
「あなたたちの会社はどうなっているのかね。国民の大切な血税でもある税金をどう思っているのか……。その税金でこの防衛省も国も成り立っているんですよ。それを
「は、はい。申し訳ありません。調査しましたところ、課員による手違いがありまして。工数の集計の時のプログラムにミスがありました……」
浦島真一郎は額に汗を流して恐縮していた。その隣で社長の慶次が下を向き神妙な顔をしていた。社内では天皇のような振る舞いをする慶次にしては珍しい。
「ほんとうにそうなのかな? 故意にしているんじゃないんだね」
「はい、おっしゃるとおりです。報告書にはその旨を詳細に記載してありますので、再度、お目通しをお願い致します」
「まあ、いいでしょう。わかりました。目を通しましょう。書類に不備が見つかればまたご足労願いますからね。一応仮承認ということで」
「はい、有り難うございます」
書類を再提出して、ようやくその日に仮承認された。後は指摘があった箇所を修正するだけである。
しかし、どんなときでも横柄であり、プライドの高い慶次は自分よりも二回りほど歳が下の事務官に叱責され、