第65話 フライトへの準備

文字数 1,382文字

  機長の名代は、予めディスパッチャー(運航管理者)の金村新太郎から、控え室でその日の飛行に関する情報を得ていた。
 運航管理者からの情報とは主に、天気図や乗客・貨物の重量、トラブルが発生した際に代替えとなる空港等の情報である。
 ディスパッチャーは、これらの情報を元に、航空機の経路や燃料の量などをフライトプランとしてまとめ、機長に報告し、細部の打ち合わせを行ってからフライトとなる。

 この情報をまとめ、機長に伝達するのが運航管理者としての仕事であり、フライトに於ける重要な役目となる。金森は資料を渡し、一通りの説明を終わると更に続けた。

「東京の今日の天気は、快晴ですね名代さん。快適なフライトを楽しんでください」
「はい、ありがとうございます、いつも適切な情報で助かりますよ、金森さん」

 二人は若い時に同じ学校で机を並べた仲である。それぞれに機長とディスパッチャーという別の道を歩んだが、プライベートでは仲がいい。それとなく金森は顔を名代の耳に近づけた。

「それはそうと、ロスアンジェルスに着いたら、又、彼女と……でしょう」
「いやあ、今度はわかりませんよ、どうなるのか、クルーがどの人になるのか、我々にはその時には分かりませんし」
「タイミングとはいえ、彼女にとってラッキーでしょうね」
 名代は苦笑しながら「さあ、どうでしょう」と言った。

「でも、貴方達の噂を同じCAの朝倉真希が知っているようです。気をつけてください」
「えっ……そうなんですか、ご忠告ありがとうございます」
 金城は名代の肩をポンと叩いて出ていった。

 その後、名代はブリーフィングルームの入り口に書いてある行先とフライト番号が書かれている部屋を確認して中に入った。

 
 その日のフライトのために、関係する人達は打ち合わせでブリーフィングルームに集まっていた。そこには副操縦士と、三人のCAが待機していた。

 フライトのメンバーは機長の名代亮太、副操縦者の松倉義之、CAの朝倉真希、深山真優そして葉山佳奈の五名である。

「おはようございます、皆さん。今日はよろしく」
「おはようございます機長。よろしくお願いします」
 一斉に彼等は名代に挨拶をする。

 今、ブリーフィングルームではこの五人のクルーがいる。
 フライト前の打ち合わせでは、初めて顔を合わせる場合が殆どであり、名代と深山真優以外は初めて顔を合わせることになる。

 メンバーを事前に聞かされることはあまりない。
 これは日常的になっている。
 そのとき、クルーの自己紹介や機内での場所の共有などを決め、フライトをスムーズに進めるための必要事項を話し合うのである。

 その他、VIPや手助けが必要な客、そして搭乗者数や目的地の天候などチームで確認する内容等を確認する。

 名代は四人を見つめ、その中には深山真優がいて、チラとさり気なく彼女を見つめた。真優は彼を意識して目で頷いていた。

「今日はこのメンバーで運行すことになります。私は機長の名代と言います、私をサポートしてくれるのは副操縦士の松倉さんです、まずは私から……そして、松倉さん、その後はCAの方、それぞれに自己紹介をしてください、まずは私から、それから今日の状況を説明します」

 名代がそう言うと、CA達は手帳を出して、名代が言うことを真剣な眼で見つめていた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み