金閣寺を見て記憶するだけの簡単なお仕事 おまけ収録

文字数 4,464文字

瑞生と碧泉はタクシーを降り、金閣寺の一歩手前の通りに降り立った。あたりは修学旅行生でごった返しており、神聖な雰囲気なんて一切ない。確かに参道に通じる森と道はそれっぽいのだが、あわれ瑞生はパンフレットの営業文句に騙されたな。
2017/09/22 11:13
碧泉、異様に子供が多いな。人間は子供を集めで何をやってるんだろうな?
2017/09/22 11:14
知らないのか瑞生? 修学旅行というやつだ。京都はなあ、高校生とか中学生と呼ばれる人間の子供が、たまに遊びに来る愉快な土地なのだよ。
2017/09/22 11:15
子供は嫌いか?
2017/09/22 11:15
どうにもこうにも、記憶がないんでね。好きか嫌いかわからない。とはいえ、数が増えすぎたら、普通のものもいやないものになっちまうな。100人ぐらいも集まったらさすがに嫌だ。
2017/09/22 11:16
そうか。まあ確かにそうだな。
2017/09/22 11:17
二人は金閣寺の参道を歩く。砂利が敷かれた道に、塀で囲われた寺、庭には木が生えている。紅葉の季節になればきれいだろうが、あいにく今は暖かい時期のようだった。あちこちには観光客向けの出店が出ており、俗世っぽさがあからさまに漂う。瑞生は記憶がないのでそれを珍しそうに眺めるが、他の人たちが普通に見ているところを考えると、あれはたいして珍しいものではないらしい。
2017/09/22 11:18
自分の思うまま、珍しいものにリアクションをしてみたいが、人目があるので、痛い奴と思われたくない。
2017/09/22 11:19
金閣寺周辺の建物が見えてくると、瑞生はがっかりした。さすがにすべて金ぴかというわけではなく、外側の建物は普通だからだ。
2017/09/22 11:19
全部金じゃないのか。まあ、さすがになあ。
2017/09/22 11:22
ん? 何を期待していたんだお前は。全部金? まあ確かにここは金色ではないがな、そういう色を気にするべきではないと思うぞ。ここに入ってくるとき、門の壁に5本の筋が入っていただろう? どちらかといえばあれのほうが興味深いと思うぞ。
2017/09/22 11:22
いいよいいよ、俺、見た目が派手なほうが好きだから。別に線が入ってるとか面白くないし。
2017/09/22 11:24
見た目か。確かに見た目は大切だな。そういう考えだと、金閣寺のデザインはなかなかその点を重視しているな。お前にはぴったりの観光名所だな。しかし、見た目のものに騙されてはいかんぞ。大切なのは精神のほうだからな。
2017/09/22 11:25
見た目ではなくて精神が大切、というのは瑞生も何となくわかるが、かっこいいも一つの精神ということを碧泉は理解していないようだ。お互いの認識の溝は深いが、特に瑞生は碧泉の話を否定せずに聞いた。
2017/09/22 11:31
見た目も大切なのだがなあ、仏作って魂いれずになると、大抵のものは破たんしていく。それに、精神は見た目にも表れてしまうものだ。仏教徒でもないのに仏像を作ると、やはり変なものになる。これは万国共通で、キリスト教徒でもないやつがキリスト教のまねごとをやると変なものになるらしい。
2017/09/22 11:32
ふーん、精神って大切なんだね。
2017/09/22 11:34
瑞生は精神について、気持ちのような何か、程度の認識をしておくことにした。
2017/09/22 11:35
と、長々と碧泉と雑談を楽しむのもいいが、瑞生はそろそろ自分が気になっていることを話すことにした。とどのつまり、伏美についてだ。
2017/09/22 11:36
目の前に金閣寺が現れて、その黄金の構造が瑞生の視界を圧倒するが、精神のほうはとらわれず、夢に現れた少女に向けられている。
2017/09/22 11:40
伏美、あいつ、何が目的なんだろうな。確かに700年眠っていてそろそろ目を覚まそう、っていうのはわかるけど、あいつ尾張の国の出身なんだろう。700年の時代の変化に対応できるんですかね?
2017/09/22 11:41
難しい話だな。あの様子だと、伏美は世界なんて変わらない、そう思っているかもしれない。とはいえ、心とはそういうものだ。何事も変化しないことを望んでしまう。
2017/09/22 11:42
変化しないことを望む、か。面白いなあ。いくらなんでもそれはない。この世界、永遠なんてなくて常に何もかもが変化にさらされるのに、こだわりみたいなの、無意味じゃないか?
2017/09/22 11:44
無意味、というほどでもないが、伏美は幽霊のようだ。特にこだわりは強いと思う。現実に対応できないタイプだな。
2017/09/22 11:45
え? なんで幽霊だってわかったの?
2017/09/22 11:46
名乗ったとき、名前に寂の字があっただろう。あれは幽霊固有の名前だ。苗字に寂が付いたら幽霊、そう思ってくれ。
2017/09/22 11:46
妖怪世界はディストピアすぎ、といえばわかるだろうか? 自分の種族、家柄、仕えている相手、そういうもので苗字は自動的に決まってしまう。ハンドルネームを変えまくれるネットという存在からしてみれば遠い世界の話かもしれない。
2017/09/22 11:47
話を戻すと、伏美が現代に対応した生活を送れるのかどうか、というのが課題だった。伏美からしてみれば別世界で生活を始めるようなもので、いわゆる異世界転生にも似たものだ。
2017/09/22 11:48
私としは伏美を迎え入れたいとは思う。しかし、すんなりはいかないぞ。妖怪にだって慣れというものがあるからな。しばらくは介護生活のようなものだぞ? お前もだがな、瑞生。
2017/09/22 11:52
俺も介護生活中か。そう考えるとな。伏美のは誰が面倒を見るんだろうね?
2017/09/22 11:54
お前に任せよう。なぜって、伏美はまずお前を頼ってきたのだろう? 別にお前も忙しくないわけだし、お前も見聞を広めたほうがいいだろう。一人でやるより仲間がいたほうがいい、そう思うだろう?
2017/09/22 11:57
俺が面倒みるのか。まあ、俺も暇だしな。やることも特にないし、相手してやってもいいと思ってるよ。
2017/09/23 09:48
なぁに、そんな大したことじゃない。赤信号は止まれ、青信号は進め、程度のことを教えてやればいいのだ。一般常識というやつだな。そんなもの、すぐに身についてしまうだろう。
2017/09/23 09:50
伏美について面倒を見ることが決まった。瑞生は大きな池に囲まれた金閣寺に目をやった。と見せかけて、青信号と赤信号の認識の違いに戸惑い、目を背けただけの瑞生。
2017/09/23 09:51
見ろよ、黄金だ。建設にいくらかかったんだろうな?
2017/09/23 09:52
実はたいしてかかっていない。金は薄く伸びるからな。それを張り付ければいいだけで、使われている金の量は大したことがない。国家予算から考えてみれば大した出費ではないだろう。それより、建設に従事する宮大工のほうが経費としてかかってしまうだろうな。
2017/09/23 09:52
瑞生は黄金に興味があるか? 一キロ500万円するそうだが?
2017/09/23 09:54
興味ないね。換金の仕方を知らないし。
2017/09/23 09:55
ふむ、無難な回答だな。とはいえ、一般人っぽい回答のしかたでもある。
2017/09/23 09:56
うそだろう、伏美ちゃんに一般常識教えろって言ったのに、俺に一般人っぽい回答以外を期待していたのか?
2017/09/24 22:17
これはこれは、足元をすくわれたな。とはいえ、金を有効活用できないと持っている意味がないぞ。金閣寺をたてた人も、金の使い道がなかったからこんなもの作ったのかもしれん。
2017/09/24 22:20
まあ、物は言いようだけどね、この寺も有効活用という意味じゃ、そこまで大したもんじゃないよな。こうやって観光客が来るけれど、それ以上のものではないし。
2017/09/24 22:22
精神が大事だぞ、精神が。人々が見て、それで満足すれば、いいではないか。
2017/09/24 22:23
碧泉は精神について説明しているのだが、瑞生には伝わりきらないものがあった。確かに瑞生は精神の大切さを理解しないわけではない。しかしながら、胡散臭いお姉さんが説明したところで、やっぱり胡散臭くなるだけ。
2017/09/24 22:23
妖怪だから胡散臭いのは当たり前、とは言ってしまえるが、当たり前になりすぎて瑞生の性格が歪まないかどうか深刻だ。
2017/09/24 22:26
瑞生はなぜ碧泉がここまで胡散臭いのか、真剣になって考えてみた。
2017/09/24 22:27
(そりゃあねえ、金の建物を背景に何か偉そうに話してたら、普通は胡散臭くなるか)
2017/09/24 22:29
圧倒的背景の力。金閣寺をバックにしているのが諸悪の根源。成金がネットの広告で金について解説している感じになってしまう。これは胡散臭いのも納得。
2017/09/24 22:29
な、なあ碧泉、ここに来よう、とは俺が言ったんだけど、別の場所に行かないか? ここだといろいろと都合が悪いんだ。
2017/09/24 22:31
碧泉の真心篭もった精神の話に、一定の関心を示した瑞生だったが、場所が悪いと思ってこんなことを言った。
2017/09/24 22:31
いいだろう。どこへ行く? お前が行きたいところならどこでも行ってやろう。
2017/09/25 20:38
先生に引率された学生が大勢こちらへ向かってくる。ああいう団体が無数に控えていると考えると、金閣寺はゆっくりしていられる場所ではない。もっとゆっくりと話ができる場所、寺らしい寺が必要だ。
2017/09/25 20:42
あほな話、瑞生には話しにくい内容はカラオケボックスで行う、という現代人特有の感覚が全くない。単に時代の流れに逆らっているのかはわからないが、もっと静かな寺を求めてしまった。
2017/09/25 20:45
ここを出よう。
2017/09/25 20:47
碧泉は瑞生に従って金閣寺から出る道を案内した。学生が多すぎてきた道を戻ることはできなかったが、順路を辿って瑞生は金閣寺の敷地の外に出る。
2017/09/25 20:50
本日はここまで。

また来週更新します。

おまけを思いついたので少しだけ続きます。

2017/09/26 20:48
おまけ、金の斧と銀の斧の金銭的価値。金閣寺にちなんで。
2017/09/26 20:49
瑞生はとある山奥で林業に従事していた。今どき手入れされた木材なんて、神社建設やお寺建設でしか需要がないのに、昔話にちなむという理由だけで木を切っていた。
2017/09/26 20:50
今や林業はスギ花粉の弊害でのみ世の中に知れることとなり、意味を見いだせない毎日、虚しく過ぎる時間。この閉鎖的空間から抜け出したいと瑞生は思っていた。
2017/09/26 20:51
つらいわー。
2017/09/26 20:53
力のない、素人声優並みの演技力で放たれた言葉。技術の不足が理由か、いいや、本当に気力がないのか。
2017/09/26 20:53
そんな中、瑞生は振り上げた斧を、案の定泉の中に落としてしまった。例のごとく泉から金の斧と銀の斧を持った女神が現れる。
2017/09/26 20:54
あなたが落としたのは、この金の斧? それともこの銀の斧?
2017/09/26 20:55
鉄だよ鉄。ヒッタイト人が長年の研究で生み出した鉄こそ最も貴重な資源なんだ。開発費のために金の斧がどれだけ吹き飛んだと思ってる?
2017/09/26 20:56
たわけ。鉄の斧を使って木を切り倒して、お前の人生それで終わり? 赤さびから鉄を生成するのに炭が必要だから、木を切ったとしてそれが木炭になる。その木炭で鉄の斧が作られる。その鉄の斧は再び木を切り倒す。瑞生さんにはこの意味がわかる?
2017/09/26 20:57
そういう理屈唱えられると言いたくなるけどさ、その金の斧、金属の部分だけが金だから、大体2キログラム、つまり1000万円ぐらいだよな。そんなもののために木こり辞めていいの?
2017/09/26 21:00
コンビニ一つの一日の売り上げが40万円から60万円。それが好調に続いて一か月の売り上げが1000万ぐらいだろう。金の斧の価値はそれに近いかもしれないが、黄金として手元にあるのとコンビニが経営されているのは雲泥の違いだ。
2017/09/26 21:03
子供の夢を徹底的に破壊する瑞生。
2017/09/26 21:10
そういう利益追求したから結果的に鉄の斧、みたいな話だっけ? これ?
2017/09/26 21:11
まだ子供で月々の課金額が制限されている伏美ちゃんには理解できないだろうが、お金なんていくらあっても消し飛ぶのが現実、大人の課金上限額は日本国の国防費よりもはるかに高い。
2017/09/26 21:12
それを知っていた瑞生は金ではなくて利益を生み出し続ける鉄の斧を選んだわけだが、こんな話をされたら鉄の斧を渡すしかない。

正直者がバカを見ない優しい世界に見えるかもしれないが、僕たちが求めていたものとは大きく異なっている。

2017/09/26 21:15
じゃあ鉄の斧かえすね。体、壊さないようにね。
2017/09/26 21:17
泉の精は消えた。
2017/09/26 21:19
(体壊さないようにね、という一言に愛がこもりすぎていて、それがね、金よりも大きな価値があると思うよ。ありがとう)
2017/09/26 21:19
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登場人物紹介

小峠瑞生(ことうげ ずいしょう)

自分が何の妖怪なのか思い出せないかばんちゃんポジション。

人間の特性を使って、謎を解決していく。

碧泉(あいぜん)

謎の女。

瑞生が誰なのか知らないけど、その素質を見抜いて利用している。

浮世離れが非常に深刻で、秋元康はAKBのメンバーだといまだに勘違いしている。

ナレーション。

突っ込み不在の世界に救いを。

地の文に革命を巻き起こすべく生み出された新兵器。

基本的に神視点だが、感情が高ぶると特定のキャラに肩入れする。

オールド

謎の女2

かつて日本の首領(ドン)だったが、部下が有能すぎて出番がなかった。

その部下を愛しさゆえに食べたところ、不死身になったと本人は言うが、大抵の人は信じない。

また、本人にグロ耐性がないので、この話題は避けたがる。

厩戸皇子(うまやどのおうじ)

時代と場所、年代によって呼び方が変わるややこしいひと。

オールドの部下、しかもいつも冷静で取り乱さない。できる人に見えるがただのサイコパスかもしれない。

オールドと1500年くらい前に謎の約束を交わしている。

実は1万円札にその顔が採用されたことがあり、俗世の人間は彼の顔を見ただけで興奮してしまう。年もばれる。

寂推カップチーノ(じゃくすいかっぷちーの)

オールドのメイド。手下。

多分1000年くらい存在しているが、明治維新文明開化後、頭の中お花畑な毎日を過ごしている。名前も常に前時代性を排除して新しいものに改名している。

種族は幽霊。

寂織伏美(じゃくおりふしみ)

種族、幽霊寄りだが例にもれずその他。

出身は尾張の国で相手を馬鹿にするとき『たわけ』という。

何百年も前に封印されて以来、目覚めの時を待っているが、現代の進みすぎた文明を前に、目覚めるに目覚められない。

久遠寺ルナ

種族 ある人は人間だと言い、ある人は死者という。ある人はゾンビだというし、ある人は解脱者だという。答えは藪の中。安定のその他。

作者がさぼっているのではなく、そこが話の主題なので安心してほしい。

天寺結姫(あまでら ゆいき)

種族 ネクロマンサー

ルナちゃんをゾンビに変えた張本人。

しかし、悪意があるわけではないようだ。

また、頭が悪く自然に会話していてもボケに回ってしまう。

伊早坂酒々井(いそざか しすい)

瑞生の過去を知る人物。

瑞生の姉を名乗っているし、瑞生の過去の日記をねつ造して瑞生を都合のいい方向にもっていこうとするが、瑞生の理解が早すぎるため、続きの執筆に追い立てられる。

名前はただのペンネームにすぎず、しかも登録されていないため本名はわからない。

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