隣の部屋

文字数 2,689文字

瑞生はオールドの屋敷にやってきた。相変わらず豪華な作りだが、ところどころ質素なたたずまいのその屋敷は、住んでいる者の優雅さを表している。
2017/12/19 09:41
入り口にはセキュリティがなく、どうぞ入ってくださいと言わんばかりだ。まるで遠野のマヨイガのようにすんなり入ることができる。
2017/12/19 09:42
とはいえ、オールドには今日来ると連絡を入れてあるので、不審に思われることはないだろう。
2017/12/19 09:42
瑞生と碧泉は特におしゃべりもなく、オールドが待っているであろう客間へと足を運ぶ。
2017/12/19 09:43
いらっしゃい。
2017/12/19 21:34
客間は普通の部屋よりも豪華で、お客さんに気を使っていることがよくわかる。とはいえ、国会議事堂にある天皇の待合室、のような豪華さではなく、畳が敷いてあって、襖に和風な絵が描いてあるだけの空間だ。
2017/12/19 21:35
凄いなあ。誰が描いた絵だろう?
2017/12/19 21:37
それがわからないのよね。ある人物にお願いしたのは覚えているんだけれど、その人がゴーストライターを雇っていたらしくて、その人が描いたとしか考えられないわ。ごめんなさいね。
2017/12/19 21:37
え? それでいいの?
2017/12/19 21:43
なんかこう、由緒正しいというか、そういう系のルーツがあるはずでは?
2017/12/19 21:43
あるはずなのだけれど、平等院鳳凰堂の木像だって複数の人が作ってるから。やっぱりルーツといういい方はしっくりこないわね。
2017/12/19 21:43
それでいいのか、という疑問もあるだろうがな。世の中には技術だけあって埋もれている芸術家があまりにも多い。どうせ偉い人とはいえ個人の家以上のところには出てこない絵なのだから、その程度で問題ないのだよ。
2017/12/19 21:45
死後評価される画家が多いように、死後評価すらされない画家も多いからな。
2017/12/19 21:47
ごめん碧泉。この画家まだ生きてるはずよ。
2017/12/19 21:47
そうか? この前はあの世で制作された絵を購入した、と聞いたことがあるのだがなあ。そもそも生き死にが絵に関係あるのか、と思うのだが。
2017/12/19 21:47
じゃあルナちゃんの安否を確認する意味もないよね。こういう寿命が長い奴らの元も子もない話に付き合わされたくないよなあ。
2017/12/19 21:49
それはさておき、久遠寺ルナの行方を捜してたりしませんかね?
2017/12/19 21:49
それは気になるけれど、子供が行方不明になるのはよくあることよ。愛宕山の天狗はさらったと言っていなしい、あまり大きく考えなくても大丈夫よ。
2017/12/19 21:50
そうか、じゃあ安心だな。というとでも思ってるのか?
2017/12/19 21:51
思ってはいないけれど、そもそもあなたが詳しいのでしょう? あなたに探してもらおうと考えているのだけれど、あなたが安心しても困るといえば困るわね。
2017/12/19 21:53
探す? まあ、いいけど。
2017/12/19 21:54
本当にいいのか? 誰かの役に立ちたい、というのは生物の本能かもしれないが、怠けたい、というのも生物の本能だ。今日は日曜日ではないが、誰とも知らない相手を探すというのは結構骨が折れる。
2017/12/19 21:54
しかしながら、瑞生の種族ゆえなのか、あるいは考え方ゆえなのか、この問題を快く引き受けてしまう。
2017/12/19 21:56
面白いなあ。どうやって探すんだろう? 相手の場所がわからないんだろう?
2017/12/19 21:59
簡単だ。スマホがあるだろう? それにアプリをインストールして、相手のスマホの位置を探知すればいい。ルナちゃんは電話をかけてきたのだから、当然スマホは持っているだろう?
2017/12/19 23:51
やめろおお! お願いだやめてくれ! ミステリーが崩壊する!
2017/12/19 23:53
しかし瑞生は、何のためらいもなく、碧泉に言われたアプリをインストールし、そして何のためらいもなく、ルナのスマホの位置を検索した。
2017/12/19 23:53
どうやら、ここから南に5メートル位のところだな。
2017/12/19 23:55
隣の部屋だ!
2017/12/19 23:55
ここまでくると、別に急ぐ必要を感じないわね。
2017/12/19 23:55
この会話聞かれてるんじゃ?
2017/12/19 23:56
瑞生がそう言ったとたん、隣の部屋から何かが動く音が……。
2017/12/19 23:57
探知されたな。とはいえ、スマホで探知されているのがばれたなら、スマホを放置して逃げると思うが? スマホの位置はもう使えないんじゃないか?
2017/12/19 23:57
あれ? なんか普通にスマホもって移動してるみたいだけど? ここからの距離伸びてるし。
2017/12/19 23:59
あら、面白いわね。ルナちゃん、時速にして40キロくらいで逃げてるわ。
2017/12/19 23:59
なんか、緊張感なくて申し訳ないけど、それってどれくらいすごいの?
2017/12/20 00:00
まず、人間は時速40キロ以上で何かに衝突することを前提に作られていないわ。自動車も時速40キロを超えたあたりで死亡率が上がるの。だから40キロ以上で走ることはありえないわ。
2017/12/20 00:01
オリンピック選手が秒速10メートルくらいだから、それよりも素早いな。
2017/12/20 00:02
あ、ルナちゃん陸上が得意なのか。
2017/12/20 00:03
違うよ。全然違うよ。ルナちゃん、人間よりも早く動いてるってことだよ。そういう小学生しか引っかからないボケをやめてくれよ、本当に。
2017/12/20 00:04
追いかけようか? なんか、追い付く自信ないんだけど。
2017/12/20 00:06
追い付けるわよ。そんな全速力で走っていたら、短距離で息が切れるわ。そのうち追いつけるでしょうね。
2017/12/20 00:06
ああ、なるほど。
2017/12/20 00:08
ちなみに、逃げたところでスマホを手放さない以上、また探知すればいいので、ここで追いつく必要もない。
2017/12/21 11:08
瑞生は隣の部屋に移動した。確かに外へ通じる襖が開いており、誰かが逃げたのは明らかだった。そしてルナが逃げた方向を瑞生は見る。
2017/12/20 00:08
妙だ。時速40キロで走ったならば、足跡が当然残るだろう。歩幅は当然長くなる。
2017/12/20 00:11
しかしながら、瑞生が見ている地面には、普通のスニーカーの足跡でしかも歩幅が狭いものしかない。
2017/12/20 00:12
しかも、途中で消えている。
2017/12/20 00:13
オールド宅の自然の庭に足跡が続いているかと思えば、まるで途中から空でも飛んだかのように足跡がなくなっている。
2017/12/20 00:13
瑞生はここで、張り込み用のアンパンが室内に残されているのに気づいた。
2017/12/20 00:14
恐らく、ルナちゃん以外にも人がいたな。今どきこんなネタやる女の子、いる筈がない。誰かほかにいたんだろうな。ネタの年代的に40代か。
2017/12/20 00:18
芸風で推理をしていく芸人の鏡。
2017/12/20 00:20
しかし、行方不明になっている相手が誰かを連れて歩いている、ということは、誘拐された可能性が少しくらいある。しかし、それがどうして瑞生の会話を盗み聞きするだろうか? 謎は深まるばかり。
2017/12/21 11:09
瑞生はスマホをもう一度見る。
2017/12/21 11:10
ルナちゃんのスマホの位置は京都の住宅街のど真ん中で止まっており、それ以上動かなくなった。恐らくはそこに潜伏しているのだろう。
2017/12/21 11:11
悩めるお年頃ねえ。ルナちゃんも。これは素早く見つけるよりも、少し時間を空けたほうがいいんじゃないかしら? 家出なんてそんなものでしょう?
2017/12/21 11:12
隣の部屋から移ってきたオールドはそういう。
2017/12/21 11:13
うーん、そうはいかないと思うなあ。ルナちゃん、1か月前入院してたんだよ。その病気が完治してない状態で家出っていうのは、リスクが大きすぎる。途中で倒れないといいんだけれど。
2017/12/21 11:13
そうねえ、病気の心配はあるけれど、俊敏に動けるならば、心配はないか無理をしているか、どちらかね。
2017/12/29 17:42
積もる話はあるが今回はここまで。

次回をお楽しみに。

2017/12/29 17:45
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登場人物紹介

小峠瑞生(ことうげ ずいしょう)

自分が何の妖怪なのか思い出せないかばんちゃんポジション。

人間の特性を使って、謎を解決していく。

碧泉(あいぜん)

謎の女。

瑞生が誰なのか知らないけど、その素質を見抜いて利用している。

浮世離れが非常に深刻で、秋元康はAKBのメンバーだといまだに勘違いしている。

ナレーション。

突っ込み不在の世界に救いを。

地の文に革命を巻き起こすべく生み出された新兵器。

基本的に神視点だが、感情が高ぶると特定のキャラに肩入れする。

オールド

謎の女2

かつて日本の首領(ドン)だったが、部下が有能すぎて出番がなかった。

その部下を愛しさゆえに食べたところ、不死身になったと本人は言うが、大抵の人は信じない。

また、本人にグロ耐性がないので、この話題は避けたがる。

厩戸皇子(うまやどのおうじ)

時代と場所、年代によって呼び方が変わるややこしいひと。

オールドの部下、しかもいつも冷静で取り乱さない。できる人に見えるがただのサイコパスかもしれない。

オールドと1500年くらい前に謎の約束を交わしている。

実は1万円札にその顔が採用されたことがあり、俗世の人間は彼の顔を見ただけで興奮してしまう。年もばれる。

寂推カップチーノ(じゃくすいかっぷちーの)

オールドのメイド。手下。

多分1000年くらい存在しているが、明治維新文明開化後、頭の中お花畑な毎日を過ごしている。名前も常に前時代性を排除して新しいものに改名している。

種族は幽霊。

寂織伏美(じゃくおりふしみ)

種族、幽霊寄りだが例にもれずその他。

出身は尾張の国で相手を馬鹿にするとき『たわけ』という。

何百年も前に封印されて以来、目覚めの時を待っているが、現代の進みすぎた文明を前に、目覚めるに目覚められない。

久遠寺ルナ

種族 ある人は人間だと言い、ある人は死者という。ある人はゾンビだというし、ある人は解脱者だという。答えは藪の中。安定のその他。

作者がさぼっているのではなく、そこが話の主題なので安心してほしい。

天寺結姫(あまでら ゆいき)

種族 ネクロマンサー

ルナちゃんをゾンビに変えた張本人。

しかし、悪意があるわけではないようだ。

また、頭が悪く自然に会話していてもボケに回ってしまう。

伊早坂酒々井(いそざか しすい)

瑞生の過去を知る人物。

瑞生の姉を名乗っているし、瑞生の過去の日記をねつ造して瑞生を都合のいい方向にもっていこうとするが、瑞生の理解が早すぎるため、続きの執筆に追い立てられる。

名前はただのペンネームにすぎず、しかも登録されていないため本名はわからない。

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