幼いころの約束に束縛され続ける現在

文字数 2,490文字

やっぱり、高級な屋敷だ。
2017/09/04 22:17
カップチーノに案内されたのは、オールドの屋敷の応接室だった。
2017/09/04 22:18
応接室の広さは4畳半だが、狭い空間だとかえって落ち着くので、男にはちょうど良かった。
2017/09/04 22:28
床には4枚と半分の畳が敷かれ、そこに座布団2つ。壁の色は白であたりさわりがなく、しかし調度品はキティーちゃんのぬいぐるみと世間の女の子が好きそうなものが詰まっていた。
2017/09/04 22:18
屋敷と言われて身構える読者も多い中、作りそのものは高級なのだが、オブジェクトが今風の女の子一直線で、よく見てみるとすべてプラスチックでできたタンスまであった。
2017/09/04 22:19
このお屋敷に中途半端なモダンというのは、あの緩いあの世と似通ったものがある。
2017/09/04 22:21
(一貫性がないというか、オールドの現代に合わせよう、という感覚が見えてくるね。古代生まれらしいけど、こういう時代に対応するって高度な精神的テクニックだよな)
2017/09/04 22:23
小さなノックの音の後襖が開き、部屋にオールドが入ってきた。
2017/09/04 22:23
お待たせ。どうだった? まあ、カップチーノから聞いているのだけれど、一応聞いておくわ。
2017/09/04 22:30
これで150回目らしいですね。ダメでしたよ。
2017/09/04 22:30
これからあと何回通うつもりですか?
2017/09/04 22:31
あなたはこれから食べるごはんの量を気にしたりするかしら?
2017/09/04 22:31
いやいや、気にしますって。ある程度の計算はしますけど。まあ正確な数値は……。
2017/09/04 22:32
ふむ、そういう考え方もあるわね。
2017/09/04 22:33
で、皇子について、いくつか聞きたいことがあるんですけど。
2017/09/04 22:33
オールドは少しだけ嫌そうな顔をした。実際問題皇子との関係を探られるのは嫌なのだろう。
2017/09/04 22:35
男は無理やり聞き出すのもあれなので、あくまでもオールドが望んだタイミングで言えばいいや、と一瞬考えたが、ここで一手うつのもありだった。
2017/09/04 22:35
1500年も保留の関係って、少しあほらしくありませんかね?
2017/09/04 22:36
保留、そうね。保留よ。
2017/09/04 22:37
オールドは温厚な性格で、怒りなど知らない。だからこそ、あらゆる問題を保留にしても動じない。逆に、あらゆる問題へ勝負に出られない。オールドはこの問題を放っておけば、死ぬまで保留にするだろう。
2017/09/04 22:38
争うことを知らない、という性格の欠点、短所が見事に表面化している局面だ。
2017/09/04 22:41
ここまで言えば、性格の問題から発生する複雑な戦況に見えなくもないが、残念、ただ押しが弱いから状況が硬直してしまっただけのしょぼい、あまりにもショボい問題だ。
2017/09/04 22:43
(わたし……もっと気が強ければねえ)
2017/09/04 22:45
オールド、皇子と何があったんですか? 問い詰めてしまってすみませんが、ここで聞いておきます。
2017/09/04 22:47
どうしても言わなくてはダメ?
2017/09/04 22:47
言いたい時に言えばいい、と言いたいのですが、俺も切羽詰まっているんでね。
2017/09/04 22:48
そうね、実はね、皇子から聞いているでしょうけど、私、昔日本のお姫様だったのよ。政治の頂点に立っている存在。だけど、政治の実権を握っていたのは厩戸皇子だったの。天皇と執政官は違う。
2017/09/04 22:48
皇子は、天から遣わされた天子だったの。彼の政治はうまくいったわ。改革も次々と成し遂げられて、執政官は臣民から愛される理想的な執政官だったの。
2017/09/04 22:50
だけど彼は、天子だから人の愛を理解しない。だから臣民から愛されてもそれをどう受け止めていいのかわからなかった。そのうち彼は年老いて、死んでしまう直前までになった。
2017/09/04 22:51
でも私、皇子に幼いころ約束したわ。彼に人の幸を味合わせるって。人の世界の住人なのだから、人として生きてほしかったの。かなわない話だったのだけれど、約束を果たせないまま彼は死んでしまった。私が殺してしまった。あの人は、約束を果たせなかった私を憎んでいるのかしら?
2017/09/04 22:52
幼いころの約束は絶対。1500年たっても果たされ続ける。死んでも無効にならない。尊いような気もするが、心が不器用なんですねえ。
2017/09/04 22:54
(スケールだけが無駄にでかいぞ)
2017/09/04 22:58
男はあほ。今の思考は何も理解していないやつの考え。心ゆえの問題は、心ゆえの特性をもって、果てしなく続いてゆく。スケールは関係ない。
2017/09/04 23:04
人の幸せを味わってほしい、ですか。人以外に……。
2017/09/04 23:05
わがままかしら?
2017/09/04 23:07
そうかもしれませんが、皇子に気を使っているんですね。
2017/09/05 21:14
本音を言えば人外に人の幸せというのは論点がずれている。しかしオールドのいう人の幸せというのも本心だろう。
2017/09/05 21:16
(別々の種族どうして幸せが共有できるのか? そういう疑問は邪道か?)
2017/09/05 21:21
別種族以前の問題として、幸せって人それぞれ違うと思うんだよね。そういうものを共有するのは難しくて当たり前。そういう意味だとオールドはまっとうな悩みを持っている。
2017/09/05 21:22
(私が思う幸せを、あの人に理解させることはできない。あくまでも、私が思う幸せは、私自身だけのもの)
2017/09/05 21:29
あなたは、幸せとは何だと思うのかしら?
2017/09/05 21:30
答えられません。が、自分一人で幸せを味わえるなら、俺はとっくに幸せでしょうね。すべては無理ですが、ある程度他者と共有できるものが幸せだと思います。寂しい奴の理論かもしれませんが。
2017/09/05 21:31
なんだこいつ、個性を大切にする時代に、あってはならない発言を……。心が綺麗なんですねえ。なんか、話が進んだら真っ先に穢れて闇落ちする人に見えてきた。
2017/09/05 21:33
皇子の幸せは私が想像するものではない。それはわかるわ。でも、それだと割り切れなくて。
2017/09/05 21:40
割り切れるわけがありませんよ。だって他人じゃないでしょう?
2017/09/05 21:41
そうね、他人ではない。あの人が幸せになれば、私は今より幸せになれると思うの。
2017/09/05 21:42
(お願いなんだけど、次に冥界に行くとき、私も一緒に行ってもいいかしら?)
2017/09/07 23:12
皇子にいくつか話したいことがあるわ。
2017/09/07 23:15
えっ、なんで俺もいくこと前提に?
2017/09/07 23:15
だって、この問題が解決したらあなた、皇子から名前をもらうんでしょう? あなたも一緒じゃないと、明日からも名無しのままよ。
2017/09/07 23:16
名前、そうだね、大切だね。って言いたいところなんですけど、皇子との約束は割と軽い約束ですよ?
2017/09/07 23:17
いいえ、大切なことよ。私はようやく今、自分の気持ちに整理がついたの。それができたのはあなたがいたからよ。名前ぐらい、受け取ってちょうだい。
2017/09/07 23:18
そうですか。じゃあせっかくなので。
2017/09/07 23:20
なんか軽いノリで話が進行しているが、男は自分の名前が手に入りそうだったので、とりあえず内心喜んだ。
2017/09/07 23:20
今回は以上になります。

次回をお楽しみに。

次回でプロローグが完結します。

更新日は10月7日です。

2017/09/07 23:21
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登場人物紹介

小峠瑞生(ことうげ ずいしょう)

自分が何の妖怪なのか思い出せないかばんちゃんポジション。

人間の特性を使って、謎を解決していく。

碧泉(あいぜん)

謎の女。

瑞生が誰なのか知らないけど、その素質を見抜いて利用している。

浮世離れが非常に深刻で、秋元康はAKBのメンバーだといまだに勘違いしている。

ナレーション。

突っ込み不在の世界に救いを。

地の文に革命を巻き起こすべく生み出された新兵器。

基本的に神視点だが、感情が高ぶると特定のキャラに肩入れする。

オールド

謎の女2

かつて日本の首領(ドン)だったが、部下が有能すぎて出番がなかった。

その部下を愛しさゆえに食べたところ、不死身になったと本人は言うが、大抵の人は信じない。

また、本人にグロ耐性がないので、この話題は避けたがる。

厩戸皇子(うまやどのおうじ)

時代と場所、年代によって呼び方が変わるややこしいひと。

オールドの部下、しかもいつも冷静で取り乱さない。できる人に見えるがただのサイコパスかもしれない。

オールドと1500年くらい前に謎の約束を交わしている。

実は1万円札にその顔が採用されたことがあり、俗世の人間は彼の顔を見ただけで興奮してしまう。年もばれる。

寂推カップチーノ(じゃくすいかっぷちーの)

オールドのメイド。手下。

多分1000年くらい存在しているが、明治維新文明開化後、頭の中お花畑な毎日を過ごしている。名前も常に前時代性を排除して新しいものに改名している。

種族は幽霊。

寂織伏美(じゃくおりふしみ)

種族、幽霊寄りだが例にもれずその他。

出身は尾張の国で相手を馬鹿にするとき『たわけ』という。

何百年も前に封印されて以来、目覚めの時を待っているが、現代の進みすぎた文明を前に、目覚めるに目覚められない。

久遠寺ルナ

種族 ある人は人間だと言い、ある人は死者という。ある人はゾンビだというし、ある人は解脱者だという。答えは藪の中。安定のその他。

作者がさぼっているのではなく、そこが話の主題なので安心してほしい。

天寺結姫(あまでら ゆいき)

種族 ネクロマンサー

ルナちゃんをゾンビに変えた張本人。

しかし、悪意があるわけではないようだ。

また、頭が悪く自然に会話していてもボケに回ってしまう。

伊早坂酒々井(いそざか しすい)

瑞生の過去を知る人物。

瑞生の姉を名乗っているし、瑞生の過去の日記をねつ造して瑞生を都合のいい方向にもっていこうとするが、瑞生の理解が早すぎるため、続きの執筆に追い立てられる。

名前はただのペンネームにすぎず、しかも登録されていないため本名はわからない。

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