妖怪同士のジミに高度な茶話会

文字数 2,792文字

男は自分が誰なのかわからないまま、怪しげな茶話会の会場に案内された。
2017/08/26 10:06
茶話会をする場所は日本庭園だった。
2017/08/26 10:25
まだ青い紅葉が一面に広がる庭には、小さな稲荷が無数に配置されて、池もあり、川もあり、枯山水の庭ありの不思議空間だった。
2017/08/26 10:26
その庭の片隅に3つの椅子とテーブル。この場の全員がそこに座り、お茶会をやっていた。
2017/08/26 10:27
(この高級感、俺はここにいるのにふさわしい生き物なのか?)
2017/08/26 14:09
嫌なら出ていけ、ということも可能だが、山奥すぎるその庭園は、無計画に脱出すれば遭難への片道切符が……。
2017/08/26 20:51
しかも自分のこと生き物とか、人間と自称しちゃいけない背景見え透いてますよねえ!
2017/08/31 10:13
さておき、ここが山奥という表現は違ううんだよなあ。敷地と山が一体というか、山自体が敷地なのか。広大すぎて庭の定義が乱れてしまう。
2017/08/26 20:52
オールド、実はな、今日は面白い奴を連れてきたんだ。
2017/08/26 20:58
大自然の恐ろしさを肌で感じていた男だったが、謎の女に面白い奴呼ばわりされた。
2017/08/26 20:58
オールドと呼ばれた女性が、のんきそうにお茶へ白い粉を入れながら言う。
2017/08/26 20:59
面白い?

私は何も起こらなくても面白いけれどねえ。

2017/08/26 21:00
碧泉(あいぜん)、あなたはこの人が面白いというの?
2017/08/26 21:01
ああ、街中の喫茶店に現れる落語家よりもはるかに面白いぞ。
2017/08/26 21:01
ここは京都、言うまでもなく、京都の山奥の立派なお屋敷。

しかしこの地にも関西の業はおよび、人々は面白さというものに敏感なのだ。

2017/08/26 21:02
オールドと呼ばれた女性も、碧泉と呼ばれた謎の女も例外ではなく、暇なときに大阪までお笑いを見に行ったりいかなかったり。
2017/08/26 21:06
あなた、首は伸びるの?
2017/08/26 21:07
首伸びないですね。
2017/08/26 21:07
首を長くして待つことはできますが……。
2017/08/26 21:09
じゃあこれを飲んでみて。
2017/08/26 21:09
そういってオールドは先ほどの白い粉を入れたお茶を男に差し出す。男の渾身のボケはスルーされた。
2017/08/26 21:09
男はそれを飲んでみるが、
2017/08/26 21:10
(うそだろ、まずすぎる。何だこれ、俺がおかしいのか?)
2017/08/26 21:10
そのお茶、私の女中が淹れたものなんだけど、お味はどうかしら?
2017/08/26 21:11
さっきあなた白い粉入れてましたよね?

それと何か関係が?

2017/08/26 21:12
あれは塩よ。でも、高級品は甘言われてるからから試してみたかったんだけど、自分でやる勇気がなくてね。試されてくれてありがとう。
2017/08/26 21:12
それ誰に言われたんですか?
2017/08/26 21:13
私だ。だが、あれは嘘だ。
2017/08/26 21:14
まさか信じるとは思っていなくてな。軽いウソだったが、被害者が出てしまった。
2017/08/26 21:14
さて、冷静になってほしい。甘い塩に塩としての価値がどれほどあるだろう? ネタとしてはありかもしれないが、ネタの域を出そうにない。
2017/08/26 21:15
あの、甘い塩って意味あるんですか?
2017/08/26 21:16
意味ならあるわよ。

はちみつ漬けの梅干しが売れているもの。儲かりはするかもね。

2017/08/26 21:17
で、あなたの味覚は働いているのだから、何か食べ物が必要な生き物なのははっきりしたわね。
2017/08/26 21:18
この女、できる! 味覚の有無から、食料が必要かどうかを判断する。次に声が聞こえているから耳も働いているのがわかる。当然見ているので視覚も働いている。
2017/08/26 21:19
どうやらそこまで極端な妖怪でもなさそうだな。日常生活に問題はなさそうだ。
2017/08/26 21:21
あと、こいつが面白い奴だと言ったのはな、積極的にボケてくるからだ。ああいう芸人的なことができるのは心に余裕がある証拠だ。精神にも異常がないのもはっきりしている。
2017/08/26 21:23
妖怪に正常を説かれる哀れな男。正常の基準について誰も突っ込まないのだろうか。
2017/08/26 21:23
あのすいません、碧泉(あいぜん)、と呼べばいいですかね?
2017/08/26 21:24
さっきから俺が何の妖怪なのか、と気にしてますけど、お前らは何の妖怪なの?
2017/08/26 21:26
私はな、人間のそぶりをして国王に近づき、政治を脅かすタイプだ。しかし世の中が民主主義になってしまってな。この後どうしようか悩んでいるんだ。
2017/08/26 21:26
私は元人間の妖怪よ。ちょっと事情があって死ななくなったの。
2017/08/26 21:39
あの、えっと……話を戻そう。そもそも妖怪ってなんだ?
2017/08/26 21:42
改めて定義って言われると難しいわね。人間と動物と、それ以外のことを妖怪って考えてるし。だからその他の生き物かしら?
2017/08/26 21:43
大雑把と言われてしまえばそれまでだが、碧泉とオールドの意見は一致しており、それ以上は答えない。
2017/08/26 21:58
この基準は、俺たちは選ばれた種族だから偉い! 系の思想はおおよそ発達しない優しい基準なのだが、優しすぎて何も説明できていない。
2017/08/26 22:01
あと、種族の壁系の物語も発展しないだろう。そういう意味で救済された世界なんだ、と考えることもできるし、放任主義の世界だ、と考えることもできる。
2017/08/26 22:03
その他、でおおむね当たっているな。私も実はその他の種族で、これと言って種族の名前を持たない。
2017/08/27 16:46
なるほど、その他が妖怪というわけか。じゃあ俺も妖怪みたいだな。
2017/08/27 16:48
アバウトな診断基準だが、この物語は種族の違いの意味がない物語なんだ。ここには突っ込まないでほしい。
2017/08/27 16:48
ん? でもオールドさんは元人間の妖怪なんですよね? 種族を途中で変更できるってありなんですか?
2017/08/27 16:50
男の疑問は自然なもので、しかも的を射ているが、そろそろ空気の読めないやつになってきたな。種族の違いなんてどうでもいいんだよ。
2017/08/27 16:51
あなた、妖怪が何なのか何も知らないのね。
2017/08/27 16:53
おいおい、逆にあのアバウトな基準で納得してもらえると本当に思っていたのか? そこのところ、どうですかね?
2017/08/27 16:53
意味のない問いだな。種族の違いに意味はない。お前は他の生き物の肉を食べないで自分が生きられるとでも思っているのか?
2017/08/27 16:54
そうよ、種族の違いを意識したところで、他の生き物との生態系を考えてしまうと、たいして意味のないことだってわかるわ。
2017/08/27 16:55
この『生態系』という言葉とても重要です。覚えておいて損はないですよ。
2017/08/27 17:02
しかし男には何のことなのかさっぱりわからない。が、オールドと碧泉の話には耳を傾け続ける。
2017/08/27 21:36
(嘘を言っているという風にも見えない。ん? 見えない? 嘘をついていない、というのは本当に目に見える情報なのか? 俺はどういう理由でこの人たちを信頼しているんだ?)
2017/08/27 21:37
(自分が何の妖怪なのかわかれば一発で理解できるんだろうけどな。今は無理そうだ)
2017/08/27 21:38
お前、自分が何の妖怪なのか本当に気になるのか?
2017/08/27 21:39
碧泉、気にするな、で済めば大抵のことはそれで済んでしまうわ。ここはひとつ、彼が何の妖怪なのか調べてあげましょう。
2017/08/27 21:39
それもいいかもなあ……。
2017/08/27 21:40
でも、ただとはい言わないわ。そうねえ、あることを調べてちょうだい。
2017/08/27 21:40
か、金取るの? 通帳にいくら残ってるのか覚えてないんだけど……。
2017/08/27 21:41
安心してね、お金ではないわ。ただ、あなたには私が体験したあることを調べてほしいの。そう、それはねえ……。
2017/08/27 21:41
1500年前の殺人事件について調べてきてね。
2017/08/27 21:42
時効でよくね? と思うだろうが、オールドにはその情報が大事のようだった。当然男は時効でよくね、と言おうとしたが、空気を読まない発言だと思ったのでやめておいた。
2017/08/27 21:42
オールド、それは時効でいいんじゃないか? 過去にこだわりすぎると今を生きられないぞ。
2017/08/27 21:44
男にとっての碧泉の株価は若干落ちた。
2017/08/27 21:45
今回はここまでになります。

閲覧ありがとうございました。

次回更新は9月9日になります。

2017/08/27 21:46
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登場人物紹介

小峠瑞生(ことうげ ずいしょう)

自分が何の妖怪なのか思い出せないかばんちゃんポジション。

人間の特性を使って、謎を解決していく。

碧泉(あいぜん)

謎の女。

瑞生が誰なのか知らないけど、その素質を見抜いて利用している。

浮世離れが非常に深刻で、秋元康はAKBのメンバーだといまだに勘違いしている。

ナレーション。

突っ込み不在の世界に救いを。

地の文に革命を巻き起こすべく生み出された新兵器。

基本的に神視点だが、感情が高ぶると特定のキャラに肩入れする。

オールド

謎の女2

かつて日本の首領(ドン)だったが、部下が有能すぎて出番がなかった。

その部下を愛しさゆえに食べたところ、不死身になったと本人は言うが、大抵の人は信じない。

また、本人にグロ耐性がないので、この話題は避けたがる。

厩戸皇子(うまやどのおうじ)

時代と場所、年代によって呼び方が変わるややこしいひと。

オールドの部下、しかもいつも冷静で取り乱さない。できる人に見えるがただのサイコパスかもしれない。

オールドと1500年くらい前に謎の約束を交わしている。

実は1万円札にその顔が採用されたことがあり、俗世の人間は彼の顔を見ただけで興奮してしまう。年もばれる。

寂推カップチーノ(じゃくすいかっぷちーの)

オールドのメイド。手下。

多分1000年くらい存在しているが、明治維新文明開化後、頭の中お花畑な毎日を過ごしている。名前も常に前時代性を排除して新しいものに改名している。

種族は幽霊。

寂織伏美(じゃくおりふしみ)

種族、幽霊寄りだが例にもれずその他。

出身は尾張の国で相手を馬鹿にするとき『たわけ』という。

何百年も前に封印されて以来、目覚めの時を待っているが、現代の進みすぎた文明を前に、目覚めるに目覚められない。

久遠寺ルナ

種族 ある人は人間だと言い、ある人は死者という。ある人はゾンビだというし、ある人は解脱者だという。答えは藪の中。安定のその他。

作者がさぼっているのではなく、そこが話の主題なので安心してほしい。

天寺結姫(あまでら ゆいき)

種族 ネクロマンサー

ルナちゃんをゾンビに変えた張本人。

しかし、悪意があるわけではないようだ。

また、頭が悪く自然に会話していてもボケに回ってしまう。

伊早坂酒々井(いそざか しすい)

瑞生の過去を知る人物。

瑞生の姉を名乗っているし、瑞生の過去の日記をねつ造して瑞生を都合のいい方向にもっていこうとするが、瑞生の理解が早すぎるため、続きの執筆に追い立てられる。

名前はただのペンネームにすぎず、しかも登録されていないため本名はわからない。

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