私立花蓮花女学院

文字数 2,758文字

 私立花蓮花女学院は由緒正しき女子就学の為の学校である。初代校長は花蓮花(かれんばな)サレリッカである。
 花蓮花サレリッカは生まれた時から大層な美貌の持ち主であり、近所でも評判の大和なでしこであった。余りにも評判過ぎて、他府県からも花蓮花の実家の煙草屋の前に列を成し、或いは近所の塀等から盗み見をしたり、盗撮を積極的にする者共が後を絶たない等、サレリッカの美貌の所為で花蓮花家の生活が脅かされる等、幼少の頃から其の美貌は世間に良くも悪くも轟いていたのだった。だが、当の本人の花蓮花サレリッカは、彼女の性格というものが又、女傑ともいうべき稀有なる性質の持ち主であり、かつ目立つことに人生の全神経を集中していた為、前述した盗撮を積極的にする者共が例え風呂場の中に忍び込んでいたとしても、サレリッカの方から積極的にレンズの前にあられもない姿を現す等していた為、そもそもそういった盗撮等をする者共は、云わば盗撮等をするような輩であるから元々彼奴等(きゃつら)の性質はふんだんにねじ曲がっておった為、あぁ、そういうのなら我々はもう結構である、といった風情で唐突に興味を無くしてしまう等、つまり、サレリッカの暴力的なまでの目立ちたがり屋根性はそんじょ其処らの者共も引いちゃうくらいの半端ない恐ろしさを兼ね備えていた。
 そういうワケであるから、サレリッカは其の美貌が時給換算で1000ドルを優に超えていた。一歩歩くだけで花蓮花の美貌に殺られた奴等がすぐに投げ銭しちまうのである。花蓮花は或る時、一体どれほどにこのあほう共は私に投げ銭をし腐るのかと、とことこと街中を歩いていた際、唐突に道端で地団駄を踏んでみると、そのタイミングで集まった金額の総合計は500億は下らなかったので花蓮花は其のお金を全額ユニセフに募金した。(中略)そこで、クロス山スキニーハウスが暴露したのだ。
「我々は、宇宙人の真似事をしているわけでは、断じてない」
 花蓮花自身は其の時の気持ちを、人生で一番の穏やかな日々だと語っている。
 其のクロス山の提言をきっかけとして、花蓮花は港区に三棟程の猛烈な分譲マンションをぼんぼんと一気に立てたのである。つまり、其の時の体験が無ければ、起業家花蓮花サレリッカは決して生まれなかったと云っても過言はないのであった。脇目もふらず。20歳になっても世の男共を匂い奮い立たせてしまう花蓮花の美貌は、巨万の富と共に世の男を満足させつつ、其れでいて危険ないばらの道を思い起こされる究極の女傑なのであった。今や港区は花蓮花ファミリー系列の会社ばかりになっており、今や大都市の経済圏を一手に引き受ける花蓮花ファミリー、というかサレリッカの美貌には、政治屋も本当にめろめろめろんと舌なめずりをした邪悪な禿げそのものなのであった。油断も隙もあったものではない。
 其れからほどなくして、花蓮花は巨万の富をもった両手の札束で、ジュリアナ東京で踊り狂っていた。扇子の代わりに七千万を体中に孔雀のように張り付けていた。その様は当時それを見た人々は花蓮花の事を「かねやん」と裏であだ名で云っていたが、其れが彼女に洩れると人殺しに頼んで裏で静かに殺される事必至であったので、そういうやりとりは必ずラインを通して悪口を云うのが常であった。しかし、サレリッカはそのように裏で云われているだろうなという事も薄々感じてはいたものの、当時は全く気にするでもなく、またまた愚かな貧民が私の事をいと悪く言っておるよ麗しい、等というように思ったのみであったが、時がたつにつれ、私立花蓮花女学院の校長に就任した後に改めて当時の状況を思い出して考えてみると、確かに札束を孔雀のように身体に張り付けるというのは頭ぱっぱらぱーの行いであったろうな、これは一本取られたな、と思い直していた。
「これは一寸、イタイでごあすな… …」
 誰もいない校長室で、サレリッカは独り言ちた。(中略)此の今つけている鬼の面は、此れまでの物よりも、大層良い事に気が付いた。
「サレリッカ。今日も活かしてるよ」
 同僚のイエス・マリーナに言われた言葉が忘れられないのである。
 イエス。マリーナはもうここにはいない。ありったけのマイラブをくれた彼女の事を、一体サレリッカ以外の誰が思い出せるのだろう。
 今やサレリッカの部隊は残り三人のみとなっており、後は勝負の三日間を過ごすのみであった。
 山中の寺院に籠りながら、お経を唱えつつ作る鬼の面には、心を浄化する効果と、邪気を払う効果、其れから若干のリグレットがある。だからこそ、サレリッカは自身の美貌を抑える唯一の拘束具として、鬼の面をつけているのである。
 サレリッカはいよいよとなったとき、戦地の真ん中で鬼の面を少し顎の辺りからずらすと、其処から後光が零れ出て、其の所為で相手の軍隊は壊滅した。正確には、投げ銭の量が凄かったのである。此方の軍隊と相手の軍隊、そのどちらもが花蓮花の美貌に対して全面降伏をしたのであった。だが、其の時、我々はまだ何も知らなかった。実は全世界では、花蓮花サレリッカのようなとんでもなく物凄い美貌の持ち主がおり、同時多発的に美貌テロが起こっていたようなのであった。所謂美貌のしんくろにしてい、というものであった。其の奴らの御陰で、全世界の男共は頭がぱっぱらぱーとなり、変なニヘラ笑いをしながら一人7億ほどを投げ銭してしまっていたのである。そして彼らが其の悪態に気が付くのが翌日の朝というのだから、同性の男としましては同情を禁じえない。まったくもう、いつまでも気づかないでいた方が良かったのである。だのに、無駄に思い出しちまうものだから。もう。花蓮花は其れから毎日のように。大岩の上で狂ったように踊り続けた。其の姿が全国の軍隊の慰めものとなり、希望となり性欲の魔物となり、そしてオーマイゴットとなるのであった。所謂ゴッドスピードユーである。
 手には鬼の面をもち扇子のように振り回す姿を見たアメリカ人、米の国のアースワン伍長は此の時の事を非常に鮮明に覚えている一人である。
「私は、めちゃめちゃ眼がしょぼしょぼして、踊っている女の人が居るのはなんとなくわかっていた。」
 アースワン伍長の言葉はニューヨークタイムズの記事一面を堂々と占拠した。
 数多くの米の国の人々は、アースワン伍長の、其の気持ち、気概、男気を記事から深読みして、ありもしない虚構を作り上げ、其れをうまくメディアが絡めとり、SNSを使って丁寧に炎上させてカウンターアタック気味に世論を誘導して、其の熟成された思いの矛先を現政権へ向けた。
 其の企みは完璧に上手く行き、長年続いた現政権は一気に陥落してしまった。(中略)喉から手が出るほどのおでんの匂いにサレリッカは悶絶した。此れはまったくもって流行る!
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