クミちゃん

文字数 2,342文字

 まぁそういう訳で、甲斐あってなんとかここまで仲良くなれた。っても、なんでおれみたいな奴の事気にいってくれたんかは、正直よう分からん。彼女に聞いても六な答えが返ってこん。なんでつき合ってくれたんや、ゆうて聞いても、相手は「うーん、よう分からん」ってハグラカしてばっかり。マァ、別にそれでもええねんけどね。おれみたいな奴とつき合ってくれてるし。やいやいゆうても、クミちゃんはあのクラブの売れっコやから、他にも狙てる奴は多い。モチロン金蔓の客と付き合うのなんか、プロってるコやったらありえへんねんけどな。クミちゃんも何考えてんねやろ。おれみたいな金無い奴と付き合ってくれて。でもあんま、このコの悪口聞かへんねんな。ちょっとでもなんかあったら、夜の世界は狭いから、普通はイヤでも速攻話が流れてくるモンやねんけど、クミちゃんの事は皆ええように言いよる。せやけど、このコはほんまにええコやで。根が素直なコや。ほやから皆に愛されるのもしゃーない思う。おれよりええ男なんかゴマンとおるねんから、このコと釣り合ってへんことくらい、自分でもよう分かってる。せやからとりあえず、ええ男がこのコに現れるまで、おれが守ってあげようやないか、ゆうくらいの感じやわ。おれにはそれくらいがお似合いや。ってゆうか、そんくらいに物考えてた方が、気楽でええ。あんま考えすぎたら、しんどいしな。もう昔みたいなんはコリゴリや。マァ、色々ゴタク並べてても、おれも男ですわ。遣りたい事は一つやがな。ちゃんと付き合い始めて、初めてのデートの日に、ミナミで酒飲んで二人ともええ具合に酔うてたから、勢いでラブホ行こうゆうて誘ってみたんやけど、クミちゃんはそれを断固拒否した。おれが、なんでやねん、ゆうて、ちょい半ギレで言い返したら、「ちゃんと検査してきて」、やって。おれ、は?ゆうた。おれはクミちゃんの言ってる事が最初理解できへんかった。いや、なんつーか、正直ゆうと、ものすごい遠回しにおれとすんのがイヤなんかと思った。そりゃそうやん。なんなん検査て。分かりにく!おれ、そんなんゆうてくる女なんか初めて見たわ。そやから、適当な言い訳言いやがって思て、そんときはちょっと最初は切れてもうてんけど、それでもクミちゃんはおれに面と向かってちゃんと言ってくるねん。
「あたしらはこういう世界におるから、どこからどんな病気拾ってくるかは分からへんやろ?あたしは二ヶ月毎に病院行って検査してる。勿論セックスだけじゃないで?いろんなとこから病気もらう可能性があるんよ。あたしらはカタギの人よりも、病気や危険に晒される可能性が高い。ほやから、こういう事はキチッとしとかなあかんの。アンタもちゃんと考えなあかんよ?」
 おれ笑けたがな。いや、馬鹿にしてるんとちゃうで。なんつーか、なんやろなぁ。すごすぎっつーか。偉すぎっつーか。なんてゆうか、メッチャちゃんとしててビックリしてん。見かけによらず。そりゃもう、度肝抜かれたよ。背がちっちゃくて、すげー可愛い顔してて、ケバくて、そんなコのくせに、メチャクチャしっかりしてんねん。なんか、圧倒されてもうた。まぁそりゃ、なんとなくしっかりしてるコやとは思てたけど、まさかここまでとは思わんかった。おれが今まで出会ってきた女のコらも、そりゃ真面目なコもおったけど、どこか危うい所というか、流され易い所があるコばっかりやった。そりゃそうや。夜の仕事なんか、誘惑いっぱいあるがな。流されて行ったら気持ち良い事なんかいっぱいある。勿論、おれみたいな男でもそうや。若い女のコやったら尚更。どんなにしっかりしたコだって、ここまではええやろ、次もここまでやったらええやろ、まぁ、ここまででもええかな、ゆうてズルズル落ちていったコ、今迄いっぱい見たがな。分かっててもそうなってまうんや。気づいたらいつの間にか、自分の領土を侵されてまう。いつの間にか、体の芯まで食われてまう、なんて、この世界ではそれが普通や。なのに、そんなとこで、このコは自分の居場所をしっかり守って生きてんねんなーって思た。背ぇめっちゃ小さいくせに。なんでそんな堂々としてんのやろ。酔うた顔してケラケラ眼の前でえらい笑てるでコイツ。とか思て、そんときは彼女の気合いに圧倒されて、そのままお開きとなったわ。ほんま性欲おさめるん大変やった。んで、それから次のデートの日に、昼間に高島屋の前で待ち合わせやったんやけど、ちょい遅れてもうた。クミちゃんはもう待ち合わせ場所に来てた。ほんでもおれ、朝からもうずっと決めとってん。おれ、クミちゃんの前までぐんぐん歩いていって、ほんでもう、行ってきた陰性の検査結果の紙めーいっぱい、クミちゃんの目の前で開けて見せたったがな。「どや!」ゆうて。クミちゃん、「おー!」ゆうて。合格、ゆうてくれた。その顔バリ可愛い。また惚れたわ。いやね、後から詳しい話聞いたらな、どうやらクミちゃん、昔付き合ってた男と市販の薬でエイズ検査して、陽性反応でた事あるらしくってな。いや、どうやらそれは市販にようある感じで間違いやったらしいねんけどな。それで、一時期、自分は死ぬと思て暮らしてた時期があるらしいわ。そんとき絶望を味わったゆうてな。ほんまに怖かったらしい。そういう事もあって、ほんまに自分の身は自分で守らなあかん、ゆうて決心したらしいんやわ。… ……ほんでな、そういう話を、寝ながら裸でゆうねん。拳握りしめて。ほんでな、うふっ。そのままおれに正拳突きやがな。うふっ、阿呆やろ?… ……え?ハハッ。そりゃー。そりゃー、モチロン、この話はノロケやがな!



                                  初出:2010.01.28
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