長寿連載漫画の真実
文字数 3,589文字
其の超売れっ子連載漫画家は常日頃から或る一点の物事について執心していた。つまり、此の超売れっ子漫画先生は、まだまだ連載を終わらせる気持ちは無いのだった。私はまだまだ此の漫画で稼いでやる。其の為には、此の漫画の登場キャストの皆にも、更なる飛躍を期待しているのであって、まだ大団円を迎えさせる訳には行かない。まだまだ君達には未知なる未開の地に足を踏み入れてもらい、時には生命の危機に瀕し、時には熱い友情に心を滾らせ、時には敵味方の区別なく手をとり世界を我が物にしようとしている魔物に戦いを挑み続けて頂く必要があるのである。そうする事で、読者の皆に於いては、彼らは山あり谷ありの物語に一喜一憂してくれ、其の物語の続きをいち早く知ろうと本屋さんに走り、或いはネット注文をしたりして其れがいずれ単行本の売り上げに反映され私の財産は増加するのである。其のように有名作家先生は考えていた。つまりは金である。
現状、其の超売れ売れ作家先生の思惑は当たっており、1970年初頭から連載していた連載は2020年で50年を迎えているのだった。作家先生も既に老齢を迎えていたが、其れよりも何よりも、当時其の漫画を読んでいた読者の皆様は大体20年も追いかければその頃には良い大人になっているのであり、徐々に漫画から離れていった者も少なくなかったが、其れと当時に後発して生まれてくる子らはまるで吸い込まれるかのように8歳頃から其の超有名作家の漫画を読み始めてしまうのであって、其の循環運動によってファンが減少する事はなかった。そして其れは連載している雑誌の紙面を見れば明らかであって、此の作家先生の漫画は既に大御所、或いは定番、或るいは市民権を獲得していると云っても過言ではない事を象徴するかのように、雑誌の掲載順序については、此れは人気がある漫画から先頭にくるように並んでいるのであるが、此の作家先生の漫画については不動の中盤から少し後ろに定席しているのであった。雑誌会社からしても毎回掲載に当たって10数ページを其の漫画に割く訳であって、其れに対する費用対効果を要求するのは勿論であるが、そういう資本主義がしっかりと成り立っている為掲載しているのであった。読者アンケートでもやはりそれなりに作家先生の漫画は反響があった。
然し、一体此の作家先生は一体何をそんなに駆り立てられているのだろうか。既に此の長期連載について莫大なる富と名声を手に入れているでは無いか。という疑問が一般人がもつ通常であるが、作家先生に云わせれば、其れは甘いのだという。あなたは何も分かっちゃいないのだと。では、一体作家先生は何のために漫画を描いてらっしゃるのですか?と或る時何かの特集でテレビでインタビューを受けた作家先生は、相手のインタビュアーの目を凝っと見てひと呼吸置いた後、ゆっくりと口を動かして云うのだった。
「勿論、金だよ。」
此の発言は大いなる力が働き直ぐにお蔵入りとなった。インタビュアーは後にオフレコで極めて信頼できる友人に対して此の時の印象を語っている。
「食われるかと思った」
インタビュアーは其の時を思い出しながら、身体をガタガタと震わせ始める為、同席していた信頼できる友人は彼の発作を抑え込むのに非常に難儀したという。其れと同時に、其の信頼できる友人は件の真実、つまり、世間で此れほどまでに認知されている超有名長寿漫画が、長寿連載している其の原動力が金であるという事に、だが然し、其の金に対しての執着によって生み出される物語によって自身が陶酔せられている現実に、一読者ファンとしては複雑な心持になるのであった。私はこんなに邪な動機で生み出された創作に、心
だが、そんな事態を静観しているが認識している者は実は他にもいるのだった。其れは一体誰かと申しますと、其れは実は此の超有名作家先生の担当編集者だった。
担当は、勿論作家先生の金への途轍もない執着については当然ご存知であった。ご存知でありながら、其れでいて其の状況を推奨していた。何故ならやっぱり漫画が売れているからだった。単行本も毎回とはいかずも定期的に重版出来だったからである。其処までしていただければ此れ以上何を求めるだろうか、と思っていた。超有名作家先生が漫画を描いてくれることによって。自身も潤っていき会社も潤うのである。一時期は、此の担当編集者も登り竜だった時期があり、イケイケの時代を過ごした事もあり、女を札束で叩き、其れでもへらへらと寄ってくる女を両脇に抱えタクシーでお持ち帰りさせて頂く事は日常茶飯事だった。そういう時代を過ごしてきて、今はもう担当編集者も一時代を過ぎてきたとき、今まで何も考えてなかった気持ちがふと湧き上がってきたのである。其れは、自分と同様に、超有名作家先生もそろそろ死亡するかもしれない説であった。それはそうだ。物語の中で登場人物は年をとる事なく永遠に文化祭前日を繰り広げる事ができるだろうが、現実に生きている我々はそうは行かない。いつかは命の灯が消えてしまうのである。そうして、そうすると作家先生が或る日突如死亡してしまったならば、作品が未完で終了してしまう。或る日のランチタイムの時間に突如として襲われた猛烈なる腹痛による便所の中で、担当編集者は其の事を強く思った。昔、女を稼いだ札束で右、左と叩き、其れでもへらへらと寄ってくる女を両脇に抱えてタクシーでお持ち帰りをした事があったが、其れでも私は一介の編集者であるのだ。此の超有名作家先生を担当した其の日から、しっかりと大団円まで導く。其れこそがもう余命が見えてきて自身についての唯一のけじめである、そのように担当編集は考えたのだった。
それからというもの、担当編集は超有名作家先生の家に通い、どうやって物語を完結に導こうかという事について、熱く作家先生に問いかける努力を怠る事がなかった。其れは最早鬼気迫る鬼神のごとき雷神の感じでもって行ったのである。だが、其の気持ちが金の亡者たる作家先生に届くことは無く、恐ろしい事に長年やってきた担当編集について酷い悪態をつく等して怒鳴りつけた。
「わたつは、此の編集が嫌いなので、変えとくれ!」
其の一言で、担当編集は島流しにされサイパンに飛ばされた。超有名作家先生の力は間違いなくパワーだったのである。
新しい担当編集は物事の理を速やかに理解できる新人類であるが頭のよい青少年であった。爽やかでフレッシュな見た目と聡明な頭を持っていた。作家先生が語る事を良い感じに語ると
「御意」
と中二病まるだしの返事をしていちびっていた。彼は超有名作家先生の担当なので月収200万は下らないのであった。なので、御意くらいはお手の物だったのだ。勿論、此の新しい担当編集は裏で札束で女性をひっぱたいていたのである。若さゆえそういう時代であった。
だが、近頃小さな変化が有名作家の中で起きていたのである。それは何かといえば、漫画を描いているとき、ふとした瞬間に登場人物が話をまとめようと動きだすのであった。超有名作家はそういう時、おっとこれは不可無いと軌道修正する事により事態を回避するのであるが、少し気を抜けばまた大団円に向かおうとする彼ら。物語を創作する者なら誰しも体験するだろうが、登場人物が確固たる性格を持ったとき、登場人物は物語の中で自分の意思を持って動きだすである。有名作家先生の漫画の登場人物も果たしてそうなのであった。
「これは、前担当編集の呪いか、それとも… …」
全然関係の無い前担当編集を思い出してしまう辺り、実は解任したことを悔やんでいるのかとも思えるが、実際の所はその辺の事は分からない。だが、最近はそういったような状況で、物語を終わらせたくない作家先生と、大団円に向かおうとする登場人物との間で壮絶な綱引きが人知れず行われているのだった。其の近頃のせめぎ合いが、だが然し物語の良い感じのスパイスとなって物語をより面白い物にしていた所もあり、毎回其のネームを楽しみにしているフレッシュ現担当は
「今回もいっすねぇ、センセ」
というと、作家先生はフレッシュ現担当の腹に深々と拳をお見舞いし、口の利き方に気をつけろ若造、と耳元で鋭く囁くのであった。
現状、其の超売れ売れ作家先生の思惑は当たっており、1970年初頭から連載していた連載は2020年で50年を迎えているのだった。作家先生も既に老齢を迎えていたが、其れよりも何よりも、当時其の漫画を読んでいた読者の皆様は大体20年も追いかければその頃には良い大人になっているのであり、徐々に漫画から離れていった者も少なくなかったが、其れと当時に後発して生まれてくる子らはまるで吸い込まれるかのように8歳頃から其の超有名作家の漫画を読み始めてしまうのであって、其の循環運動によってファンが減少する事はなかった。そして其れは連載している雑誌の紙面を見れば明らかであって、此の作家先生の漫画は既に大御所、或いは定番、或るいは市民権を獲得していると云っても過言ではない事を象徴するかのように、雑誌の掲載順序については、此れは人気がある漫画から先頭にくるように並んでいるのであるが、此の作家先生の漫画については不動の中盤から少し後ろに定席しているのであった。雑誌会社からしても毎回掲載に当たって10数ページを其の漫画に割く訳であって、其れに対する費用対効果を要求するのは勿論であるが、そういう資本主義がしっかりと成り立っている為掲載しているのであった。読者アンケートでもやはりそれなりに作家先生の漫画は反響があった。
然し、一体此の作家先生は一体何をそんなに駆り立てられているのだろうか。既に此の長期連載について莫大なる富と名声を手に入れているでは無いか。という疑問が一般人がもつ通常であるが、作家先生に云わせれば、其れは甘いのだという。あなたは何も分かっちゃいないのだと。では、一体作家先生は何のために漫画を描いてらっしゃるのですか?と或る時何かの特集でテレビでインタビューを受けた作家先生は、相手のインタビュアーの目を凝っと見てひと呼吸置いた後、ゆっくりと口を動かして云うのだった。
「勿論、金だよ。」
此の発言は大いなる力が働き直ぐにお蔵入りとなった。インタビュアーは後にオフレコで極めて信頼できる友人に対して此の時の印象を語っている。
「食われるかと思った」
インタビュアーは其の時を思い出しながら、身体をガタガタと震わせ始める為、同席していた信頼できる友人は彼の発作を抑え込むのに非常に難儀したという。其れと同時に、其の信頼できる友人は件の真実、つまり、世間で此れほどまでに認知されている超有名長寿漫画が、長寿連載している其の原動力が金であるという事に、だが然し、其の金に対しての執着によって生み出される物語によって自身が陶酔せられている現実に、一読者ファンとしては複雑な心持になるのであった。私はこんなに邪な動機で生み出された創作に、心
ときめかされている
のであろうか、と。こんなこと、本当は知らない方が良かったのかもしれない。知りさえしなければ、今でも自分は純粋に此の長寿漫画に対して心躍りながら物語の主人公の動向について一喜一憂する事ができたはずだ。なのに、知ってしまった事によって、自分は今後そういう気持ちで楽しむ事ができないのではないか。そう考えた所で此の信頼できる友人は信頼できない友人へと変貌を遂げるのであった。今後、此の信頼できない友人が何かコトを起こす可能性は… …其れは神のみぞ知るのである。だが、そんな事態を静観しているが認識している者は実は他にもいるのだった。其れは一体誰かと申しますと、其れは実は此の超有名作家先生の担当編集者だった。
担当は、勿論作家先生の金への途轍もない執着については当然ご存知であった。ご存知でありながら、其れでいて其の状況を推奨していた。何故ならやっぱり漫画が売れているからだった。単行本も毎回とはいかずも定期的に重版出来だったからである。其処までしていただければ此れ以上何を求めるだろうか、と思っていた。超有名作家先生が漫画を描いてくれることによって。自身も潤っていき会社も潤うのである。一時期は、此の担当編集者も登り竜だった時期があり、イケイケの時代を過ごした事もあり、女を札束で叩き、其れでもへらへらと寄ってくる女を両脇に抱えタクシーでお持ち帰りさせて頂く事は日常茶飯事だった。そういう時代を過ごしてきて、今はもう担当編集者も一時代を過ぎてきたとき、今まで何も考えてなかった気持ちがふと湧き上がってきたのである。其れは、自分と同様に、超有名作家先生もそろそろ死亡するかもしれない説であった。それはそうだ。物語の中で登場人物は年をとる事なく永遠に文化祭前日を繰り広げる事ができるだろうが、現実に生きている我々はそうは行かない。いつかは命の灯が消えてしまうのである。そうして、そうすると作家先生が或る日突如死亡してしまったならば、作品が未完で終了してしまう。或る日のランチタイムの時間に突如として襲われた猛烈なる腹痛による便所の中で、担当編集者は其の事を強く思った。昔、女を稼いだ札束で右、左と叩き、其れでもへらへらと寄ってくる女を両脇に抱えてタクシーでお持ち帰りをした事があったが、其れでも私は一介の編集者であるのだ。此の超有名作家先生を担当した其の日から、しっかりと大団円まで導く。其れこそがもう余命が見えてきて自身についての唯一のけじめである、そのように担当編集は考えたのだった。
それからというもの、担当編集は超有名作家先生の家に通い、どうやって物語を完結に導こうかという事について、熱く作家先生に問いかける努力を怠る事がなかった。其れは最早鬼気迫る鬼神のごとき雷神の感じでもって行ったのである。だが、其の気持ちが金の亡者たる作家先生に届くことは無く、恐ろしい事に長年やってきた担当編集について酷い悪態をつく等して怒鳴りつけた。
「わたつは、此の編集が嫌いなので、変えとくれ!」
其の一言で、担当編集は島流しにされサイパンに飛ばされた。超有名作家先生の力は間違いなくパワーだったのである。
新しい担当編集は物事の理を速やかに理解できる新人類であるが頭のよい青少年であった。爽やかでフレッシュな見た目と聡明な頭を持っていた。作家先生が語る事を良い感じに語ると
「御意」
と中二病まるだしの返事をしていちびっていた。彼は超有名作家先生の担当なので月収200万は下らないのであった。なので、御意くらいはお手の物だったのだ。勿論、此の新しい担当編集は裏で札束で女性をひっぱたいていたのである。若さゆえそういう時代であった。
だが、近頃小さな変化が有名作家の中で起きていたのである。それは何かといえば、漫画を描いているとき、ふとした瞬間に登場人物が話をまとめようと動きだすのであった。超有名作家はそういう時、おっとこれは不可無いと軌道修正する事により事態を回避するのであるが、少し気を抜けばまた大団円に向かおうとする彼ら。物語を創作する者なら誰しも体験するだろうが、登場人物が確固たる性格を持ったとき、登場人物は物語の中で自分の意思を持って動きだすである。有名作家先生の漫画の登場人物も果たしてそうなのであった。
「これは、前担当編集の呪いか、それとも… …」
全然関係の無い前担当編集を思い出してしまう辺り、実は解任したことを悔やんでいるのかとも思えるが、実際の所はその辺の事は分からない。だが、最近はそういったような状況で、物語を終わらせたくない作家先生と、大団円に向かおうとする登場人物との間で壮絶な綱引きが人知れず行われているのだった。其の近頃のせめぎ合いが、だが然し物語の良い感じのスパイスとなって物語をより面白い物にしていた所もあり、毎回其のネームを楽しみにしているフレッシュ現担当は
「今回もいっすねぇ、センセ」
というと、作家先生はフレッシュ現担当の腹に深々と拳をお見舞いし、口の利き方に気をつけろ若造、と耳元で鋭く囁くのであった。