夢一夜

文字数 2,117文字

こんな夢を見た。
気が付くと私は全裸であったが、不思議と羞恥は無かった。眼の前に広がる空間は広大であり、天井は高く全体的に薄暗かった。何やら所々に岩のような質感も見え、恐らく洞窟のようなところに人工的な此の空間は作られているようであった。
其処には見知らぬ男女が其処彼処に歩いて生活をしていた。同様に、私も何処かしらへ歩いて行こうとしていたが、其の途中不図騒がしい方に眼をやると、其方には私と同じく全裸の男たちが何やら騒いでいる。全裸であるのが私だけでは無いと感じつつ、全裸であるコトが一つの同士のような一体感を身勝手にも感じた私は、直ぐ様其方の方へ方向を変えて歩み寄ったのである。
果たして、全裸の男たちをかき分け最前列迄来た私の眼の前に合ったのは、プレハブ小屋のような建物の前面に壁の無い、解放された共同風呂であった。つまり、男たちが風呂場の近くで全裸であるコトには必然性があったのである。其れから私は、風呂場の壁面に描かれたグラフィティに眼をやりながら、其の場所を離れるコトにした。
引き続き全裸である私にはやはり羞恥は無かった。かと云って、私の身体は人様に見せられるような所謂映えるモノでも無く、骨と皮だけの貧相なシロモノであったが、此処では其の肉体について誰も話題に上げるコトも無く、通り過ぎる女も私の身体等に一瞥も呉れるコトは無かった為、私の方も其のようなコトに一々意識を向ける必要も無かったである。其れで、何処に行辿り着くのかも曖昧な儘、と云うか、何処かに行くと云う目的意識も無い儘、足を順番に前に出す行為を続けて居た私のコトを後方から呼ぶ者が居たので、私は其方の方をぐるりと向いた。
其処には、会社の同僚の女が立っていた。彼女も私の全裸については一瞥も呉れず、只、此の洞窟内の共同体の中で知り合いに出会えたと云う喜びの気持ちを其の儘に、私に声を掛けてきたのであった。私は、此の洞窟内の人々について、誰も知り合い等は居なかったのであるが、其れでも何故か共同体意識を持っていたのであるが、矢張り会社の同僚に出会えたと云うのは、知っている人と云う点で心おおらかに会話をするコトが出来たのである。
其れから会社の同僚は、私に向かって色々な様々な話題を語って呉れていたように思うが、残念ながら私は其の内容が一つも頭に入って来なかったので、只曖昧に相槌を何度も打つばかりであったが、元来において女と云うモノは自分の話をしたいコトを話すコトが出来れば其れでおおけなのであったので、そう云った私の空相槌に対しても一つのお咎めも発生するコト無く、コミュニケイションは円滑に進んで居ったのである。
すると、不思議なコトに其の同僚の会話が終了する頃には、私と同僚は何時の間にか洞窟の集落を出て、河川敷の川沿いについていた。そして、女同僚は、ジャージの女集団の下に私を預け渡したのであった。私は彼等の云うが儘に学生用のジャージの上下を着用した。一体此処で何が行われるのか等と思ってみていると、其のジャージの集団は誰彼構わず突然一斉に川へ飛び込み始めたのであった。そこら中にざぶんざぶんと云う音が飛び交い、しぶきが弾け飛ぶ。河川敷には応援に来ていると思しき学生服を来た女学生たちが、歓声をあげているのであった。ジャージの女集団は皆向こう岸を目指し必死で泳いでいるのであった。私は何か出遅れてしまったような背中に冷や水を浴びせられた気分になり、訳も分からず川へと飛び込んだ。川に入ると、ジャージに水がしみ込んで行き、途轍もなく重く泳ぎにくかった。何故此の者共は態々ジャージで泳いでなぞ居るのだろう、と其の時初めて私は疑念が湧いた。
何とか川岸に渡りきった私は、何処かで休息がとりたいと思ったので、河川敷の方を見た。ジャージの中は水でずっしりと重くなっており、体力も削られていたものの、其れは他の者も同様である。そこら中に休息をとっているジャージの者や、其れを囲う応援者等がおり、何処も満員であった。
私はどうしようか、と思っていたが、其処で眼に入ったのは、一人の女ジャージであった。
其の女は何か河川敷の壁沿いの上部に掛かっている梯子に手を掛けようとしていたが、背が低く梯子迄届かない。私は其の姿を見て、直ぐに閃いたのである。詰まり、あの女よりも先に梯子に上れば、其の上で休息をとるコトができる。女には悪いが、私は先んじさせても貰おう。そう思い至った私は、其の女ジャージの下へと近づいていった。
「もし、どうなされた」
「あすこの梯子に手が、届かないのです」
「分かった。下がって」
そう云いつつ、大人しく下がった女ジャージを横目に見つつ、私は世にも醜いほくそ笑みを行った。其れから、梯子に手を掛けて上ったのである。男の身長からすれば、これくらいの高さ等何んの問題も無かったのであった。此れで、私は休息をとるコトが、出来る!と心で叫んだ所で、女ジャージの隣に男が立っているのが見えた。そして、其の男が何やらチェーンのようなモノを引っ張ると、私の乗った梯子ががしゃがしゃと音を立てて下に移動していき、女ジャージのいる地上迄降りたのであった。そういうからくりだったようであった。
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