第34話:「最終章」実家の秘密と父の死

文字数 1,988文字

 そして、文面を読んでみると驚愕の事実がわかった。書面の最初に、ここに書いてある事は、我が家では、誰も口にしたことがない事であり決して他言してはならない。実は、我が家の本当の姓は、畑山ではなく畠山。能登の守護大名・戦国大名。能登畠山氏の第7代当主。能登畠山氏の末裔。しかし輪島水軍として恐れられ、その当時、随分、暴れまわったのも事実。

 糸魚川周辺でも、その被害に合った者は、多かった。我が家も、その1つで、祖先の女人が、輪島水軍の畠山氏の若侍の子供を産んだ。しかし、それを悟られない様に畑山と名乗り、この地で半農半漁の生活を延々と営んで来た。お宝のありかを見つけるきっかけになった唄を教えてくれた、お婆さんも畑山家から伊藤家へ嫁いだ。あの見つけた財宝は輪島水軍が佐渡金山から金を強奪した物だ。

 しかし、この話は、お前の代で、完全に忘れてくれと書いてあった。これを見て、敏和も母の繁子さんも腰を抜かさんばかりに驚いた。その後、敏和も父の病状が気になり鬼舞の実家にとどまった。やがて12月になり担当医から敏和と繁子さんが呼び出されて病院へ行くと担当の循環器内科の先生が脳神経外科の先生が、脳動脈の血管拡大手術をしないと危険だと言い出したと告げた。

 そのためには新潟大学に移すか首都圏の大学の専門家に手術してもらわないと難しいと言った。これが医者として意見ですと言い、どうするか、患者さんと家族で、検討してくださいと言われた。この話を聞いて、繁子さんは落ち込んだ。敏和は、父の考えを聞こうと言うと了解と答えた。数日後、晴れの日、父病室へ言って、敏和が、大事な話があると伝えた

「他人に聞かれたくないのでノートに文字を書いて筆談を始め先生の意見を伝えた」。
「すると、父が、俺の人生も残り10年もないだろうから故郷で死を迎え、ここに埋葬されたい」。「だから、他人に、迷惑をかけ東京の病院に転院し大きな手術をうける気持ちには、なれない」。「また自分の頭にメスを入れる手術もしたくない、静かに自分の寿命を全うしたい」。

「だから、もし亡くなったら鬼舞のお寺の先祖の墓に埋葬してくれと父が自分の気持ちを書いた」。「それも見ていた母の目には、涙が浮かび、やがて、あふれ、ハンカチで、涙をぬぐった」。
「それでも全文を読み終え、まるで、悟ったように、わかりましたとつぶやいた」。
「敏和も了解と最後にかいて筆談を終えた」。
その後、担当の先生に、その話をすると了解しましたと答えた。

 そして12月も押し迫り、2日に1度のペースで、奥さんと息子の敏和が父の病室を訪ねた。
「やがて、大みそかの晩、電話が入り、父が激しい頭痛を訴え、意識が落ちてると電話が入り、急いで病室に駆けつけた」。
「すると、いくつもの点滴注射を打たれた父がベッドに横たわり目を閉じていた」。
「母が、お父さんと、声をかけても、ピクリともしない」。
「母は、放心状態になり椅子に、へたり込んでしまった」。

「敏和が、担当医に状況を聞くと意識が戻らなければ難しいと言われ、父の死を覚悟した」。
「4時頃になると心電図の波形が乱れてきて、病状の悪化がわかった」。
「そして5時過ぎ、心電図の波形が直線になった」。
「そして担当医が来て、目を見たり、脈をはかったりして、ご臨終ですと告げた」。
「母は、覚悟はできていたようだったが、やはり、父の遺骸に取り付いて泣き崩れた」。

「しばらくして、少し落ち着いたのか、お父さんが、いなくなったと静かに言うと、敏和も、たまらず、声を上げず、大粒の涙を流した」。
「数分して、敏和が、意を決して、近親者だけで、お通夜をして、実家で葬儀をしようと、母に言うと、母は、首を縦に振り、同意した」。
「そして、病室を出て、肉親、近親者に次々と父の死を連絡した」。

「すると先生が来て、お疲れでしょうから暖かい飲み物の自販機がありますから一息ついてきてくださいと言われた」。
「そこで、病室を出て、一休みしていると、あたりが明るくなり始め、窓の向こうの日本海に朝日が上がるのがくっきりと見えた」。
「それを見ていると、父との昔の思い出が走馬灯のように敏和の頭の中を駆け巡った」。

「お宝の箱を見つけた時、結婚式の時、横浜のマンションに遊びに来た時の顔、孫を見た時のうれしそうな顔。まるで、ユーチューブを見ているようにくっきりと映りだされた」。
「母も、その朝日の美しさを見て、こうやって、時は過ぎていくのですねと、しみじみと、悟ったように語った」。

「すると、敏和は、父が、背後に立って、お前が、次の世代を引っ張って行けと、肩をたたいた気がして、振り向いた」。もちろん、振り返っても、誰もいない。
「しかし、肩をたたかれたような、軽い痛みが残って、自分を奮いたたせ、父の葬儀を立派にやるぞと言う気持ちが、ふつふつと湧き上がってくるのを感じた」。「終了」
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