第40話 17歳(セヴンティーン)
文字数 2,009文字
準決勝の朝。
バドミントン関連でメディアやSNSでの注目ワードは、『17』だった。
ふたりの17歳の少女。
マイク・リーのパートナーであるマーメイ・チェン。
そして、日奈だ。
長身で切れ長の目に長い四肢のモデルのようなマーメイ。
方や南国九州の少女らしい褐色で『コンパクト』な四肢を持つど根性の塊、日奈。
1人目の17歳、マーメイは午前中の準決勝第一試合で世界中を驚愕させた。
「シュッ!」
女子にしてはやや低いハスキーな声で男子に迫るスピードのスマッシュを連射する。そして、パートナーであるマイク・リーは、一打もフォローしない。
一回戦で高瀬・小林組に対してマイク・リーがまるでシングルスのような試合を見せつけたことを、今度はマーメイ・チェンがやっている。
しかも相手は世界ランク3位のペアなのだ。
会場が唖然とする中、あっさりとストレート勝ちで決勝進出を決めた。
試合後のインタビューでマーメイは、
「決勝ではマイクもわたしもリミッターを外します。まず負けるはずがありません」
とコメントすればマイク・リーは、
「マーメイが女子シングルスに出場していれば間違いなく金メダルだったでしょう」
と、同じ中国で女子シングルス金メダルの選手に遠慮することもなく平然とコメントした。
「はあ・・・マーメイはすごいですねえ・・・」
試合前のインタビューで日奈は長閑にコメントしていた。
「同じ17歳。負けたくないという気持ちはありますか?」
という質問に対しては
「わたしは相手が小学生であろうと負けたくありません。17歳だろうが10歳だろうが80歳だろうが、全力で叩きのめすだけです」
この日奈の答えに記者団はほほほ、と和やかな笑いに包まれた。
「日奈、格闘技の選手みたいでなかなかユーモアのある受け答えだったな」
萱場がこういうと日奈は顔をしかめた。
「タイスケさんまで。わたしは本気で言ったんですけど」
「え」
「アスリートである以上、年齢やら身長やらランキングやらぐちゃぐちゃ言う人は尊敬できないです。わたしは差別容赦せずに相手を倒すことだけ考えます」
「そうか」
「この間ホノルルマラソンで日本の川中選手が優勝しましたよね」
「ああ、見事だったな」
「はい。風速15メートルの逆風悪天候だったからタイム的には実績の無い川中選手にも勝機があった、コンディションが良い高速タイムのレース展開だったらどうなったかわからないって書いたメディアもありましたよね」
「確かそうだったな」
「クソ喰らえ、です」
日奈が珍しく汚い言葉を使ったことに萱場はやや驚いた。そして、その後の言葉にも。
「タイスケさん。わたし、聖悟女子に推薦で入学が決まった中3の時、女子バド部3年生の子たちに取り囲まれたんですよ」
「どういうことだ」
「なんでお前なんだ、って。チビで伸びしろの無いお前が行けてどうしてわたしらが聖悟に行けないんだ、って。情けなかったですよ。この子らずっとスポーツやってきててこれか、って。スポーツマンシップのかけらも身につけられなかったのか、って」
「そうか・・・」
「タイスケさん。わたしはタイスケさんを尊敬してます。逆境・逆風・年齢、あらゆることをものともせず知力を尽くして相手に向かう。スポーツマンシップのお手本です」
そう言って、たたっ、と数歩駆け、笑顔でくるっと振り返った。
「だ・か・ら。絶対勝ちましょうねっ!」
・・・・・・・・・
準決勝は苦しい戦いとなった。
イギリスのペアからは試合に臨む覚悟がひしひしと伝わってきた。
当然だろう。
勝てば銀メダル以上が確定する。
オリンピックのメダリストとなれるのだ。
昨日の2連戦のダメージは残っていない。湊や田端、そして妙子の子守唄のお陰で筋肉も脳もフレッシュだ。
しかも決勝は明後日なので明日は回復作業に当てられる。
萱場も日奈もこれが最後の試合のつもりで死力を尽くした。
「日奈、声が出てないぞ!」
「はい! さあ、1本!」
前夜繰り出した体力を削ぐ前衛後衛高速チェンジのフォーメーションを今夜も行う。
日奈も積極的に萱場に指示を出す。
「タイスケさん、叩けっ!」
「ぜおっ!」
敬語抜きで飛び交う一瞬の攻防。
「ショアッ!」
敵ペアも気合いを込めて渾身のスマッシュを打ち込んでくる。
女子選手も美しい容姿を鬼神の形相に変えてシャトルを叩いてくる。
僅差だった。
「21ー19・・・」
結果はもう分かっているのに主審のコールを会場が静寂をもって待つ。
「マッチ・ウォン・バイ・カヤバ、サクラ!」
拍手と歓声の中、萱場と日奈はイギリスペアと握手を交わす。男子選手も女子選手も泣いていた。
「カヤバ、サクラ。金メダル、獲ってください」
「はい。必ず」
インタビューで日奈が言った。
「決勝で見栄えのいい試合なんかしません。ドロドロになって石にかじりついてでもリー・チェン組を倒します。ホノルルマラソンで勝った川中選手のように」
バドミントン関連でメディアやSNSでの注目ワードは、『17』だった。
ふたりの17歳の少女。
マイク・リーのパートナーであるマーメイ・チェン。
そして、日奈だ。
長身で切れ長の目に長い四肢のモデルのようなマーメイ。
方や南国九州の少女らしい褐色で『コンパクト』な四肢を持つど根性の塊、日奈。
1人目の17歳、マーメイは午前中の準決勝第一試合で世界中を驚愕させた。
「シュッ!」
女子にしてはやや低いハスキーな声で男子に迫るスピードのスマッシュを連射する。そして、パートナーであるマイク・リーは、一打もフォローしない。
一回戦で高瀬・小林組に対してマイク・リーがまるでシングルスのような試合を見せつけたことを、今度はマーメイ・チェンがやっている。
しかも相手は世界ランク3位のペアなのだ。
会場が唖然とする中、あっさりとストレート勝ちで決勝進出を決めた。
試合後のインタビューでマーメイは、
「決勝ではマイクもわたしもリミッターを外します。まず負けるはずがありません」
とコメントすればマイク・リーは、
「マーメイが女子シングルスに出場していれば間違いなく金メダルだったでしょう」
と、同じ中国で女子シングルス金メダルの選手に遠慮することもなく平然とコメントした。
「はあ・・・マーメイはすごいですねえ・・・」
試合前のインタビューで日奈は長閑にコメントしていた。
「同じ17歳。負けたくないという気持ちはありますか?」
という質問に対しては
「わたしは相手が小学生であろうと負けたくありません。17歳だろうが10歳だろうが80歳だろうが、全力で叩きのめすだけです」
この日奈の答えに記者団はほほほ、と和やかな笑いに包まれた。
「日奈、格闘技の選手みたいでなかなかユーモアのある受け答えだったな」
萱場がこういうと日奈は顔をしかめた。
「タイスケさんまで。わたしは本気で言ったんですけど」
「え」
「アスリートである以上、年齢やら身長やらランキングやらぐちゃぐちゃ言う人は尊敬できないです。わたしは差別容赦せずに相手を倒すことだけ考えます」
「そうか」
「この間ホノルルマラソンで日本の川中選手が優勝しましたよね」
「ああ、見事だったな」
「はい。風速15メートルの逆風悪天候だったからタイム的には実績の無い川中選手にも勝機があった、コンディションが良い高速タイムのレース展開だったらどうなったかわからないって書いたメディアもありましたよね」
「確かそうだったな」
「クソ喰らえ、です」
日奈が珍しく汚い言葉を使ったことに萱場はやや驚いた。そして、その後の言葉にも。
「タイスケさん。わたし、聖悟女子に推薦で入学が決まった中3の時、女子バド部3年生の子たちに取り囲まれたんですよ」
「どういうことだ」
「なんでお前なんだ、って。チビで伸びしろの無いお前が行けてどうしてわたしらが聖悟に行けないんだ、って。情けなかったですよ。この子らずっとスポーツやってきててこれか、って。スポーツマンシップのかけらも身につけられなかったのか、って」
「そうか・・・」
「タイスケさん。わたしはタイスケさんを尊敬してます。逆境・逆風・年齢、あらゆることをものともせず知力を尽くして相手に向かう。スポーツマンシップのお手本です」
そう言って、たたっ、と数歩駆け、笑顔でくるっと振り返った。
「だ・か・ら。絶対勝ちましょうねっ!」
・・・・・・・・・
準決勝は苦しい戦いとなった。
イギリスのペアからは試合に臨む覚悟がひしひしと伝わってきた。
当然だろう。
勝てば銀メダル以上が確定する。
オリンピックのメダリストとなれるのだ。
昨日の2連戦のダメージは残っていない。湊や田端、そして妙子の子守唄のお陰で筋肉も脳もフレッシュだ。
しかも決勝は明後日なので明日は回復作業に当てられる。
萱場も日奈もこれが最後の試合のつもりで死力を尽くした。
「日奈、声が出てないぞ!」
「はい! さあ、1本!」
前夜繰り出した体力を削ぐ前衛後衛高速チェンジのフォーメーションを今夜も行う。
日奈も積極的に萱場に指示を出す。
「タイスケさん、叩けっ!」
「ぜおっ!」
敬語抜きで飛び交う一瞬の攻防。
「ショアッ!」
敵ペアも気合いを込めて渾身のスマッシュを打ち込んでくる。
女子選手も美しい容姿を鬼神の形相に変えてシャトルを叩いてくる。
僅差だった。
「21ー19・・・」
結果はもう分かっているのに主審のコールを会場が静寂をもって待つ。
「マッチ・ウォン・バイ・カヤバ、サクラ!」
拍手と歓声の中、萱場と日奈はイギリスペアと握手を交わす。男子選手も女子選手も泣いていた。
「カヤバ、サクラ。金メダル、獲ってください」
「はい。必ず」
インタビューで日奈が言った。
「決勝で見栄えのいい試合なんかしません。ドロドロになって石にかじりついてでもリー・チェン組を倒します。ホノルルマラソンで勝った川中選手のように」