第41話 優雅な一日をどうぞ

文字数 1,306文字

 一昨日の二・三回戦と同様、体のアフターケアと栄養補給、それから妙子の子守唄で睡眠バッチリの萱場と日奈。
 朝食前のウォーキングと軽い基礎打ちを終えた後、決勝戦前日の今日は休養と疲労抜きだ。

「あー。退屈ですねえ」
「そうか? 俺は明日の試合展開を頭の中で組み立るのに必死だけどな」
「タイスケさーん。そんなんじゃ疲労抜きになりませんよー」
「ふふ。泰助さん、日奈ちゃんの言うとおりよ」
「分かってはいるんだが」
「でも妙子さん。やっぱり体を動かさないと余計なこと考えちゃうんですよ。あー、ランニングでもして来ようかなー」
「我慢しろ、日奈。もう湊さんから指示を受けたメニューはこなしたんだから」
「メニュー・・・ねえ、泰助さん、日奈ちゃん」
「はい」
「トレーニングメニューじゃなくって、お料理のメニューはどうかしら?」

 ・・・・・・・・・・

 妙子を先生にホテルのキッチンで急遽昼食づくりが始まった。食材は田端さんが余ったものを分けてくれていた。

「あまり複雑なメニューだと作るだけで疲れちゃうから簡単なものにしましょう。日奈ちゃん」
「はい」
「このナスとズッキーニを一口大に切ってくれる? それとマッシュルームも」
「了解です、先生」
「先生はやめてね。泰助さん」
「うん」
「スパゲティを4人分茹でてね。ゆかりも一応一人前に数えた分量でね」
「分かった」
「妙子さん、切れました」
「ありがとう。じゃあ、この小ぶりの鍋にオリーブオイルを入れて塩コショウして・・・切った具材を煮てくれる? 五分ほどでいいわ」
「あ。アヒージョなんですね」
「そう。さすが女の子ね」
「まあ、一応は」
「妙子、スパゲティはどのぐらいの固さにすればいいんだ」
「後でフライパンも使うから余り長く茹でないでね」

 スパゲティが茹で上がり、アヒージョも完成した。

「じゃあ日奈ちゃん。フライパンにスパゲティとアヒージョを入れて絡めてね。それからこのホールトマトも一緒にね」
「はい・・・あー、すごくいい匂い」
「味見して、必要なら塩で味を整えてね。わたしはその間にコンソメとベーコンでささっとスープを作っておくわ。泰助さん、申し訳ないけど洗い物お願い」
「あ、なんだ・・・俺は作らせてもらえないのか」
「ごめんなさい。でも、お皿洗いや片付けも立派な料理の一工程よ。それに溜め込まずに片付けながら調理した方が気持ち的にも疲れないのよ」
「そうか。確かにそうかもしれんな」
「日奈ちゃんの方ももう完成みたいね・・・スープもちょうどいい感じに温まったわ」

 ささやかだが温かな昼食がテーブルに並べられた。

「ワインていう訳にはいかないからぶどうのジュースを。それとゆかりにはりんごを絞ったジュースね」
「ゆかりちゃんはアヒージョって大丈夫なんですか」
「ええ。小分けにしてコショウ抜きのものを作っておいたから」
「わ。いつの間に」
「ふふ。日奈ちゃんが具材切ってくれた時にね。事前準備が後で役立つのよ」

 いただきます、と合掌してフォークを動かす。

「うん、うまい」
「ゆかりちゃん、あーん」
「泰助さん、フランスパンも切ったわよ」
「ありがとう」
「ひーたん」

 ・・・・・こうして4人の午後はゆっくりと優雅に過ぎていった・・・
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