第12話 いないいない・・・・いたー!

文字数 1,103文字

「まあ、知らずの内に父親の言葉が残ってるんだろうな。高校選ぶ時もそうだったし、仕事も陸と海の違いで同じ会社で似たようなことやってるしな。
 死んだのは病院のベッドでだけど、やっぱり海で生きて海で死んだ、って俺は思ってるし」
 ふっ、と見ると日奈が涙をぽろぽろこぼしている。
「おい、どうした?」
 萱場が声を掛けると、日奈はしくしくした声で泣いたまま普通に喋ろうとする。
「タイスケさんのお父さんって、かっこよかったんですね」
 本当に分かりやすい奴だな、とちょっとだけ嬉しい気持ちで萱場は日奈の泣き顔を見た。
「タイスケさんのお母さんはどうしてるんですか?」
 ああ、と萱場は何気なく普通に答える。
「父親が死んだ後、生命保険会社のセールスレディーをやって随分無理したからな・・・
 去年、癌で亡くなったよ。ゆかりを見せてやれなかったのが残念だったけどな・・・」
 言うなり、日奈は子供のように声を上げてわーっと泣き出した。
 おいおい、と萱場がうろたえる脇で、妙子が日奈の背中をよしよしと撫でてやる。
「日奈ちゃんは優しい子なんだね・・・」
 泣きじゃくる日奈の大声でゆかりが目を覚ました。今度はゆかりの方が大声で泣き始める。
 日奈の背中からそっと手を離し、ごめんごめんと言いながら妙子はゆかりの方に向かう。そしてエプロンで自分の顔を隠しながら、
「いないいない・・・・」
とゆかりが不思議そうに妙子を見始めると、ぱっ、とエプロンを下げて顔を見せ、
「いたー!」
とゆかりに満面の笑顔を見せてやる。ゆかりはあっという間に泣き止み、けらけらと声を立てて笑い始めた。
「あ、笑った」
 日奈もあっという間に泣き止んで、母親と赤ちゃんの遣り取りを不思議そうに見ている。
「ゆかりは‘いないいないばあ’が大好きで・・・泣き出して困るといつもこれをやるのよ」
 妙子が笑いながらそう言うと、日奈は、んー、と何かを考えてますよ、というアピールのポーズを取り始めた。しばらくじっと考えていたかと思うと突然、
「浮かびました!」
 萱場は今日一番の日奈の不審な挙動にびくっ、となりながら恐る恐る訊いてみる。
「え、何が?・・・」
 日奈は鬼の首を取ったような顔で自信満々に叫んだ。
「‘ゆかりちゃんフォーメーション’ですよっ!」
「はあ?」
 今日三度目の萱場の‘はあ?’だ。日奈は得意そうに解説を始める。
「‘いないいないばあ’からヒントを得ました。まず、わたしがタイスケさんの背後にすっぽりと隠れるんです。敵が、あ、佐倉が消えた、って思った瞬間にタイスケさんがしゃがみこんで、突然現れたわたしがスマッシュを打ちこむという・・・」
「日奈はいいよな・・・人生、楽しそうで・・・」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み