第17話 燃える体育祭

文字数 959文字

「必ずしも運動が得意でない生徒も気合いを見せてください。運動が得意な生徒も手抜き・出し惜しみは許しません。健闘を祈る!」
 ‘おー!’
 校長先生のやたら激しい開会の挨拶に生徒たちが鬨の声を上げる。
 ゆかりは妙子に抱かれて‘何事?’というような顔で興味深そうに年頃の男女共の怒号を聞いている。ピクニックシートに並んで座った萱場と妙子も目を丸くして圧倒されている。
「なんか、凄い盛り上がってるね」
 妙子は十数年振りに触れた高校の雰囲気に少し高揚しているようだ。にこにこと笑い始めた。大振りの保冷バッグの中には張り切って作った4人分の弁当が入っている。
 やたら元気な高校だな、と萱場と妙子が一緒に体育祭のパンフレットを見ると、次のことが分かった。
①運動部、文化部、帰宅部をそれぞれ振り分けた団編成をします。
たとえば野球部・コーラス部・帰宅部A(帰宅部は家のある地区別にA~Dまで振り分け)は赤団。つまり、クラスごとではなく、所属部ごとに、部を変わったり引っ越したりしなければ3年間同じ。
・・・団は赤・白・青・黄と4団ある。日奈は、バドミントン部・化学部・帰宅部Bなどと一緒の‘白団’だ。
②借り物レースは調達が難しい品物ばかりなので、内容を事前に選手に伝えてあります。仕込みの協力依頼があった父兄は連携して勝ちに行ってください。
③最終種目の‘倍々リレー’は、第一走者100M、第二走者200M、第三走者400Mと距離が倍々になり、アンカーの第四走者は800Mを走る過酷なレースです。最終加点が大量で逆転が狙えるので、サヨナラ(bye-bye)リレーとも呼ばれています。

 ・・・なるほど、と萱場は頷いた。つまり、部対抗の要素もある訳だ。高校の頃、萱場のバドミントン部とサッカー部の部室は隣同士だったが、常にいがみあっていたことを懐かしく思い出した。更にそこに文化部も加わってくれば、日ごろから「あの野郎」といびつなライバル同士が複雑に絡み合って、‘燃える体育祭’になる訳だ。‘まぐれで都大会で準優勝できただけなのにいい気になりやがって’などとバスケ部に嫉妬するバレーボール部といういじけた戦いもあるのだろう。面白い、と萱場も高校生に戻ったつもりで楽しみになってきた。
 しかし、②は非常にきな臭い。そして、その不安はすぐに当たった。
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