第10話 タイスケさんって、時代劇みたいですよね?
文字数 676文字
萱場の自宅は都営アパートの一室だった。萱場と妻の妙子、そしてもう1人、生後半年の女の赤ちゃん、‘ゆかり’の三人暮らしだった。
‘ゆかり’が部屋の隅っこの布団でちょこん、と寝入っている顔を覗き込んで日奈は萱場に訊いた。
「男の子ですか?」
「・・・女だ」
萱場に似たのか、ゆかりは半年にしては大柄な赤ちゃんだった。だが、萱場は日奈に社交辞令の鉄則を教える。
「仮に‘男かな?’と思っても‘女の子ですか?’って訊くのが礼儀だ」
「そんなもんですか?」
妙子が作った料理はどれも見た目・味ともに優しく・柔らかく、日奈は本当に幸せな気分になった。そして、妙子の女性らしい容姿と立ち居振舞い、萱場とのやり取りを見て、負けず嫌いな筈の日奈が、‘負けた・・・’と心の中で勝手に納得していることに誰も気づかなかった。
「タイスケさんって、あれですよね。‘時代劇’みたいですよね?」
「はあ?」
誰に向かって、一体何についての同意を求めたのか分からない日奈の頓狂な発言に、萱場は今日二回目の‘はあ?’で答えた。
妙子が笑って、まるで日奈の心が分かるかのように解説する
「日奈ちゃんは、‘侍みたいだ’って言いたかったんでしょ?」
「そうそう、それです!」
さすがに妙子さんはタイスケさんとは違いますねえ、と失礼なことを呟きながらうんうんと頷いている。
萱場は、何だそれ?とぶつぶつ言ってはみたが、そうだな、ちょっと真面目な話をしようかな、と思い直した。
「まあ、俺の父親の影響だろうな。もう、海で死んじゃったけどな」
そう言って、萱場は父親の‘萱場 泰司’(かやば たいじ)の話を始めた。
‘ゆかり’が部屋の隅っこの布団でちょこん、と寝入っている顔を覗き込んで日奈は萱場に訊いた。
「男の子ですか?」
「・・・女だ」
萱場に似たのか、ゆかりは半年にしては大柄な赤ちゃんだった。だが、萱場は日奈に社交辞令の鉄則を教える。
「仮に‘男かな?’と思っても‘女の子ですか?’って訊くのが礼儀だ」
「そんなもんですか?」
妙子が作った料理はどれも見た目・味ともに優しく・柔らかく、日奈は本当に幸せな気分になった。そして、妙子の女性らしい容姿と立ち居振舞い、萱場とのやり取りを見て、負けず嫌いな筈の日奈が、‘負けた・・・’と心の中で勝手に納得していることに誰も気づかなかった。
「タイスケさんって、あれですよね。‘時代劇’みたいですよね?」
「はあ?」
誰に向かって、一体何についての同意を求めたのか分からない日奈の頓狂な発言に、萱場は今日二回目の‘はあ?’で答えた。
妙子が笑って、まるで日奈の心が分かるかのように解説する
「日奈ちゃんは、‘侍みたいだ’って言いたかったんでしょ?」
「そうそう、それです!」
さすがに妙子さんはタイスケさんとは違いますねえ、と失礼なことを呟きながらうんうんと頷いている。
萱場は、何だそれ?とぶつぶつ言ってはみたが、そうだな、ちょっと真面目な話をしようかな、と思い直した。
「まあ、俺の父親の影響だろうな。もう、海で死んじゃったけどな」
そう言って、萱場は父親の‘萱場 泰司’(かやば たいじ)の話を始めた。