第76話

文字数 3,876文字

 意外な展開というのは、FK興産の行方だった…

 私は、FK興産を、五井が、買収するものだとばかリ、考えていた…

 が、

 そうでは、なかった…

 私が、五井記念病院に身を隠していた伸明を訪ねた数日後、突然、発表された…

 それは、業務提携というか…

 とりあえず、五井が、FK興産の株を半分、所有して、今後は、共同経営する形で運営すると、発表された…

 これは、まさに、青天の霹靂(へきれき)というか…

 これまで、考えたことのない展開だった…

 私は、それを、テレビやネットで、知った…

 いきなり、ナオキと伸明が、並んで、記者会見をして、発表したのだ…

 だから、これは、驚き…

 まさに、驚き以外なかった…

 まさに、開いた口が塞がらないとでも、いうべきか?

 唖然として、それを、テレビで、見ていた…

 冒頭で、ナオキが、

 「…世間をお騒がせして、申し訳ありません…」

 と、詫びた…

 そして、

 「…今回、私が、代表取締役を務めるFK興産に対してで、ございますが、ここに臨席する、諏訪野伸明氏が、率いる五井グループに、ご融資頂き、FK興産の経営に参加して頂くことになりました…」

 と、説明した…

 …経営に参加って?…

 私は、唖然として、自宅で、テレビを見ながら、考えた…

 そして、当然ながら、臨席した記者から、質問が、飛んだ…

 「…FK興産の経営に参加するということですが…」

 と、記者が、質問した…

 「…それが、五井が、FK興産の株の半分を買収したということですか?…」

 と、質問した…

 「…その通りで、ございます…」

 と、ナオキが、丁寧に回答する…

 ナオキは、週一で、テレビで、キャスターを務めていただけ、あって、こうした場は、馴れたものだった…

 「…しかしながら、現実には、FK興産の株は、公開していますから、私が、所有する個人の株の半分を五井に譲って、その形で、共同経営する形になります…」

 「…共同経営ですか?…」

 記者が、狐につままれたような表情になった…

 「…いわゆる、経営指導という側面もあります…」

 と、ナオキが、補足する…

 「…経営指導っていうのは、一体、どういう意味でしょうか?…」

 「…それは、言葉通りの意味…つまり、ここにいる、五井の方に経営の指導をして頂くということです…」

 ナオキが、続けた…

 そして、その後、伸明が、

 「…実は、私は、以前から、藤原ナオキ氏と親しくさせて頂いて、おりまして、時々、経営のことも、聞き、おこがましいのですが、アドバイスもさせて頂きました…」

 と、口を開いた…

 「…その延長線上で、私も個人的に、藤原氏に、いささかの金額を融資していたのですが、それが、皆さまも、ご承知のように、いわゆる、所得税法違反、すなわち脱税で、藤原氏が、逮捕されることになり、それゆえ、拘置所から出た、藤原氏と今後のことを、話し合いました…その結果、私共も、FK興産の経営に参加することになり、それを了承する形で、藤原氏から、株を譲って頂くことになりました…」

 伸明が、淡々と説明する…

 私は、その会見を見て、

 …だからか?…

 と、気付いた…

 …だから、伸明は、五井記念病院に身を隠していたのか?…

 と、気付いた…

 おそらくは、水面下で、やりとりをしていたに、違いない…

 が、

 自分は、動かなかった…

 いや、

 動いてはいるのだろうが、カラダは、動かない…

 つまりは、五井記念病院の一室で、メールや、携帯で、部下に指示を出していたのだろう…

 今の時代だ…

 直接、会わずとも、パソコン一つで、会議ができる…

 WEBカメラで、顔を合わせて、話すことができる…

 そういうことだろう…

 そして、その方が、疑われずにすむ…

 どうしても、動けば、その動静が、周囲に漏れる…

 だから、伸明は、あえて、あの五井記念病院に閉じこもって、アレコレ、指示を出していたに違いない…

 …食わせ者!…

 …まさに、とんでもない食わせ者だと、気付いた…

 すっかり、裏をかかれた…

 まさに、まさか、だ…

 まさか、こんな展開を迎えるとは、考えもしなかった…

 予想もつかない展開だった…

 が、

 それに、しても、共同経営とは?

 考えもしない形だった…

 が、

 おそらくは、それは、最初だけ…

 最初だけだろう…

 大方は、数年後、FK興産は、五井に飲み込まれる…

 小が大と提携して、対等になるわけではない…

 大方は、飲み込まれる運命…

 そして、もし、飲み込まれないとしたら、それは、FK興産の経営状態が、五井が、思ったより、はるかに、悪い場合だろう…

 むしろ、飲み込めば、自分の不利になる…

 だから、提携は、ご破算…

 早々に、五井は、身を引くに違いない…

 つまりは、この提携という形が、五井にとって、一番良い形…

 五井にとっては、とりあえず、提携という形で、FK興産の内情を調べて、その後、どうするか、考えれば、いい…

 ある意味、猶予期間というか…
 
 仮免許とでも、いうべきか…

 この後、本格的にFK興産を、買収して、五井の傘下に組み込むか、手放すかの、考える時間を得たというべきだろう…

 それを、思うと、この伸明のしたたかさを、見た思いだった…

 いや、

 和子のしたたかさだろうか?

 が、

 どちらの仕業だかは、わからない…

 なにしろ、私には、情報がない…

 だから、推測するしかない…

 それゆえ、本当のところは、わからない…

 私は、思った…

 私は、考えた…

 が、

 いずれ、まもなく真相がわかる…

 なぜなら、私が、ナオキと会えば、真相がわかるからだ…

 ナオキとは、ずっと、連絡していない…

 なぜ、連絡しないのか?

 と、問われれば、ナオキから、連絡が、来ないから…

 だとしか、言えない…

 言いようがない…

 おおげさに、言えば、私とナオキは、一心同体というか…

 これまで、ずっと、二人で生きてきた…

 そんな自負がある…

 そんな自信がある…

 たしかに、ナオキは、女癖が悪くて、あっちの女、こっちの女と、次々と、女の間を渡り歩いたが、長続きは、しなかった…

 それは、所詮、カラダ目当てだからだろう…

 そして、相手の女は、金目当て…

 ナオキの持つ財産が目当て…

 これでは、長続きするはずもない(苦笑)…

 出会って、何度か、寝れば、女は、金を要求し、男は、女のカラダに飽きる…

 だから、別れる…

 お互い、うんざりするからだ…

 そして、男は、次に別の女を探す…

 その繰り返し…

 永久に満たされることのない行為の繰り返しだ…

 ナオキは、ルックスも良く、根が真面目だが、女が好きだった…

 そして、女が、好きと、根が真面目とは、一見すると、矛盾するように、考えられる…

 が、

 矛盾はしない…

 それは、変な例えになるが、真面目ならば、酒を飲まないか?

 それと、似ている…

 つまりは、個人の嗜好とでも、呼べば、いいのだろうか?

 男でも、女でも、いろいろな相手と関係してみたいと、夢想する人間は、いるだろうが、それは、あくまで、夢想するだけ…

 実際にできるわけではない…

 が、

 ナオキはできる…

 なぜ、できるのか?

 それは、金があるから、できる…

 そういうことだ…

 男でも女でも、有名になり、金があると、わかると、周囲の反応が、違ってくる…

 無名時代は、モテなかった男女でも、別人のように、モテてくる…

 周囲の見方が、変わって来るからだ…

 仮に、ルックスが、たいして、よくなくても、モテる…

 それは、相手が、ルックスを求めているわけでは、ないからだ…

 相手が有名であることや、金や才能を求めているからだ…

 だから、モテる…

 それゆえ、モテだした男女は、欲望に忠実に行動するようになる…

 が、

 だからといって、幸せでもなんでもないのかも、しれない…

 それは、相手が目まぐるしく変わるから、わかる…

 純粋に相手を好きならば、そんなに簡単に相手が変わるわけがない…

 だから、ナオキにとっては、それは、競馬や競輪に近いものかも、しれない…

 いわば、趣味の世界…

 自分の性欲を満たすだけのもの…

 それだけのことかも、しれない…

 だから、長続きしない…

 が、

 私とは、続いた…

 それは、ナオキは、私に性欲を求めていないからだろう…

 ぶっちゃけ、私になにを求めているかと、言えば、相談相手というか…

 ハッキリ言えば、ただ気が合うのだろう…

 だから、長続きしている…

 そういうことだろう…

 かつては、男女の関係にあったが、最近は、めっきりご無沙汰…

 男女の関係もない…

 にもかかわらず、関係が続いているのは、ただ、気が合うからだろう…

 お金があったり、ルックスが良かったりする人間は、誰もが憧れるものだ…

 これに男女の違いはない…

 が、

 いかにルックスに憧れても、いっしょにいて、気が合わなければ、話にならない…

 お互い、いっしょにいるのが、辛くなる…

 そういうことだ…

 私は、思った…

 だから、そんなナオキと私の間柄だからこそ、私から、連絡をしなかった…

 昔の言葉で言えば、ツーと言えば、カー…

 互いが、相手がなにを、考えているか、わかる…

 だから、連絡が、必要ならば、ナオキから連絡がある…

 連絡がないのは、連絡する必要がないから…

 そう、信じていたからだ…

 だから、私から、連絡をしなかった…

 連絡が、来ないのは、なにかしら、理由があると、思っていたからだ…

 だから、自分から、連絡をしなかった…

 が、

 最後まで、ナオキから連絡はなかった…

 そして、今回の記者会見…

 寂しくもあり、悲しくもあった…

               
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