第18話

文字数 3,758文字

 もしかして、ユリコさんが、関係している?

 ナオキの逮捕に関係している?

 ふと、気付いた…

 ユリコさんが、ナオキの逮捕に関係している可能性は、高い?

 いや、

 高いというか、あのユリコさんが、なんらかの形で、関わっている可能性が、高い…

 あのユリコさんが、陰で暗躍している可能性が、高い…

 いや、

 それだけではない…

 もしかしたら、あのユリコさんの目的は、私?

 私、寿綾乃…

 私の周りの人間たち…

 私を支えている人間たちを、窮地に追い込み、私から、離す…

 結果的に、兵糧攻めではないが、私は、窮地に追い込まれる…

 誰も、私を支援してくれる者が、いなくなるからだ…

 癌の治療には、金がかかる…

 その費用を私は、捻出することが、できなくなるからだ…

 もしかしたら、それが狙い?

 ユリコさんの狙いだと、気付いた…

 もちろん、確証はない…

 ただの推測に過ぎない…

 が、

 まったくないとも、言えない…

 なにしろ、ユリコだ…

 あのユリコだからだ…

 そして、そう考えたとき、昨日、ナオキが、言った…

 …ユリコには、失うものが、ない…

 と、言った言葉を思い出した…

 ジュン君は、刑務所に入った…

 だから、安心した…

 私を轢き殺そうとした刑は、受けた…

 この先、刑務所を出たジュン君が、どうなるかは、わからない…

 ジュン君が、この先、どんな人生を歩むかは、わからない…

 ただ、とりあえず、ユリコは、安心したに違いない…

 ジュン君の未来など、そんな先のことを、考えても仕方がない…

 とりあえず、ジュン君の刑は、決まった…

 だから、今度は、やりたいことを、やる…

 この寿綾乃に、復讐する…

 それを、やる…

 そういうことだ…

 私は、思った…

 そして、そう考えると、肩の力が、抜けたというか…

 むしろ、カラダに力が入った…

 これから、ボクシングの試合をするわけではないが、

 …来るなら、来い!…

 と、いう気分になった…

 いわば、臨戦態勢というか…

 まるで、これから、戦争が始まる気分になった(笑)…

 すると、途端に、カラダが、シャキッとしてきた…

 つい、今の今まで、カラダが、ふらついて、いたのが、ウソのようだった…

 カラダに力が、入らないのが、ウソのようだった…

 …なせば、なる…

 …なさねば、ならぬ何事も…

 …なさぬは、ひとのなさぬなり…

 という上杉鷹山の言葉が、脳裏に浮かんだ(笑)…

 むろん、その言葉通り、何事もいくわけではない…

 とりわけ、病気は、無理…

 病は、気からという言葉があるように、気持ちの持ちようで、どうにか、なるというのは、大した病ではないから…

 たいした、病気ではないからだ…

 昔、ある日本の首相が、原爆の被害者の方たちを、前にして、病は気からと言ったのは、その悪例だろう…

 原爆の被害者たちを前にして、

 …病は、気から…

 と、言っても、気持ちの持ちようで、どうにか、なる話では、ないからだ…

 私は、ふと、それを、思い出した…

 そして、それを、思えば、今、私が、私のカラダに力が、入った気持ちがしたのは。やはり、カラダが、以前から、比べれば、回復したのかも、しれない…

 そう、気付いた…

 いかに、気持ちの持ちようと、言っても、体調が、悪すぎれば、気持ちの持ちようで、どうにかなる話ではないからだ…
 
 私の気持ちが、充実したというのは、やはり、体調が、回復してきたから…

 以前に比べて、多少は、回復してきたから…

 あらためて、その事実に、気付いた…

 そして、そんなことを、考えている間に、テレビでは、別のニュースに移っていた…

 当たり前のことだ…

 私は、すぐに、パソコンで、ナオキのことを、調べようと思った…

 パソコンで、ネットを見れば、ナオキのことは、すぐに、わかる…

 が、

 しなかった…

 急がば、回れではないが、すでに、ナオキは、逮捕された…

 それは、変わらぬ事実だからだ…

 それよりも、なにか、お腹に入れなければ、ならない…

 正直、お腹が空いた…

 まさに、

 …腹が減っては、戦(いくさ)が、できぬ…

 だ…

 私は、思った(笑)…

 そう、思いながら、さっき、冷蔵庫で、見つけたハムと、卵と、パンで、簡単な朝食をとった…

 そして、食べながら、ずっと、ナオキのことを、考えた…

 ユリコのことを、考えた…

 諏訪野伸明のことを、考えた…

 おそらく、今回の黒幕は、ユリコ…

 あのユリコに違いない…

 だが、どうして、ユリコが、融資のことを、知ったのか?

 それが、わからない…

 たしかに、ユリコは、五井記念病院に入院した私に、見舞いにやって来て、五井家の人間たちの知己を得た…

 いや、

 知己を得たのではない…

 ユリコ自身は、諏訪野伸明や、伸明の母、昭子や、叔母の和子と、面識があったか、どうかは、忘れた…

 ユリコが、あの五井記念病院で、五井家の面々と知り合ったか、否かは、忘れた…

 覚えていない…

 後で、五井の女帝、諏訪野和子と、対立して、ユリコが、負けたのは、覚えている(笑)…

 それ以前に、ユリコが、あの五井記念病院で、五井家の人間と知り合ったのは、おそらく、長谷川センセイのみ…

 私の担当医である、長谷川センセイのみだ…

 ということは、どうだ?

 やはり、ユリコは、長谷川センセイを通じて、五井の内部情報を手に入れたのか?

 いや、

 そうとも限らない…

 ユリコは、以前、五井関連の株を買い占めて、五井本家に対して、その株を3倍で、買い取れと迫った…

 そのときの、株の入手先は、五井の末端の支家…

 五井十三家のうち、本家と東西南北の四家を除いた支家…

 その支家から株を買い取り、五井本家に株の買い取りを迫った…

 つまりは、あのとき、ユリコは、株を買い取った五井家の支家の面々と繋がりを持ったということだ…

 その五井家の支家と、今も繋がっている可能性は高い…

 そう、気付いた…

 そして、仮に、その支家の面々とユリコが、繋がっていたとしても、私には、わからない…

 なにより、その支家の面々の顔を私は、誰一人知らない…

 仮に、ユリコが、その支家の面々と話しているのや、歩いているのを、偶然、見かけても、私には、わからない…

 相手の顔を、誰一人知らないからだ…

 これでは、お手上げ…

 万事休すだ…

 私は、苦笑した…

 そして、そんなことを、考えながら、食事を続けた…

 考えながらだったが、思ったよりも、食欲が旺盛だった…

 これには、自分でも、自分に驚いた…

 さっき、ベッドから、起きたときに、足が、ふらついて、床に倒れそうになったのが、ウソのようだった…

 食欲旺盛…

 自分でも、思った以上に、食欲があった…

 そして、食事を済ませ、食器をキッチンで洗った…

 それから、パソコンを立ち上げ、ニュースを調べた…

 今さっき、テレビで見た、藤原ナオキに関するニュースを調べた…

 そして、それは、すぐに見つかった…

 …藤原ナオキ氏、逮捕?…

 と、大げさに出ていたからだ…

 ナオキは、その端正なルックスから、週に一度、ニュース番組のコメンテーターを務めていた…

 ニュース番組は、ルックス重視…

 それは、ずっと前から変わらない…

 いや、

 大昔は、違ったのかもしれない…

 半世紀前は、違ったのかも、しれない…

 が、

 テレビのニュース番組は、当然、その姿が、目に映る…

 だから、いつのまにか、ルックス重視になった…

 テレビに出る女性キャスターは、陰で、一部の者から電波芸者と、呼ばれるようになった…

 もちろん、誉め言葉ではない…

 悪口だ…

 そして、いつのまにか、男も同じになった…

 ルックス重視になった…

 やはり、映像では、無理からぬことなのかも、しれない…

 それゆえ、藤原ナオキは、コメンテーターに選ばれた…

 ルックスが、いいからだ…

 だから、さっき女性キャスターが、ナオキと面識があると、言ったのは、ウソではないだろう…

 きっと、ナオキと、どこかのテレビ局で、知り合ったのだろう…

 そう、思った…

 思いながら、見つかった、ネットの記事を読んだ…

 そこに書いてあるのは、おおむね、さっき、テレビで、ちらりと見た、ニュースと同じだった…

 FK興産の社長である、藤原ナオキ氏が、今日、10月30日に、東京地検より、告発されました…容疑は、有価証券虚偽記載の疑い…

 と、あった…

 東京地検に告発された?

 逮捕ではなかった?

 あらためて、気付いた…

 藤原ナオキは、まだ、逮捕されていない…

 私は、その記事を見て、自分の迂闊さに、思わず、苦笑した…

 テレビに映ったナオキの姿を、見て、早とちりしたのだ…

 相変わらず、トロい…

 自分で、自分を、笑った…

 肝心なことを、間違える…

 一番、大切なことを、間違える…

 が、

 結果は、同じ…

 似たようなものだ…

 私は、思った…

 それから、FK興産を思った…

 FK興産の株価を思った…

 この件が、わかった以上に、市場は、FK興産の株を猛烈に、売りに出すだろう…

 そして、今日は、おそらく、株は、売り一色…

 もしかしたら、買い手がつかないかも、しれない…

 そう、思った…

 そして、もしかしたら?

 もしかしたら、それが、ユリコの狙い?

 ナオキに、FK興産を手放させるのが、狙いかも、しれない、と、気付いた…

               
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