第39話

文字数 4,244文字

諏訪野伸明は、この五井記念病院に身を隠している…

 そして、ナオキは、今、逮捕されて、警察の留置場に、勾留されている…

 私は、考えた…

 が、

 それが、なにか、意味があるのか?

 考えた…

 わからない…
 
 いくら、考えても、わからない…

 情報が、少な過ぎるからだ…

 だから、わからない…

 そして、もしかしたら?

 もしかしたら、これは、ヒント?

 わざと、マミさんが、ヒントをくれた?

 そうも、思った…

 私は、マミさんが、好き…

 マミさんも、私が、好きに違いない…

 だから、ヒントをくれた?

 私が、傷つく…

 ナオキも、傷つく…

 そうなるのが、わかっているから、五井とは、関わらない方が、いいと、アドバイスしてくれた?

 そう、思った…

 そして、それは、素直に受け取れば、その通りだろう…

 これ以上、五井と関われば、私もナオキも、傷つくことが、わかっている…

 だから、五井とは、もうこれ以上、関わるな!

 五井とは、距離を置け!

 と、マミさんは、警告してくれたとも、言える…

 が、

 それは、あくまで、素直に受け取れば?

 と、いう前提…

 申し訳ないが、私は、それほど、素直ではない(笑)…

 むしろ、自分でいうのも、なんだが、性格が、結構、ひねくれている(苦笑)…

 素直=簡単に、ひとを信じるからだ…

 私は、そう、簡単に、ひとを信じない…

 私は、そう、簡単に、ひとを信用しない…

 そういうことだ(笑)…

 素直=簡単に、ひとに騙されやすいと、いうことだ…

 簡単に、ひとのついた嘘に騙される…

 あるいは、

 簡単に、その人間を信じて、他人に知られたくない、自分の秘密や他人の悪口をつい、話してしまい、それが、後日、学校や会社で、広まる…

 つまり、そういうことだ…

 極論を言えば、素直=愚か…

 安易に、ひとを信じすぎるということだ…

 だから、性格のひねくれた私は、簡単に、ひとを信用しない…

 表面では、私の体調を気遣い、陰では、

 「…あんな女、さっさと、くたばってしまえ!…」

 と、いう人間は、枚挙にいとまがないからだ…

 これは、別段、私が、性格が悪いわけでも、なんでもない(苦笑)…

 誰もが、そういうものだ…

 以前、ネットの調査で、

 「…アナタには、絶対、許せない人間がいるか?…」

 と、いうアンケートを取ったら、9割の人間が、いると、答えたという…

 これは、驚きだが、少し考えれば、誰もが、聖人君子ではないのだから、当たり前のことだ…

 絶対、許せない人間がいるのは、当たり前のことだ…

 ただ、あまりにも、その数が多ければ、やはり、問題だ…

 要するに、敵を作り過ぎている…

 と、なれば、普通に考えれば、その当人に、なにか、問題があるのでは?

 と、考えるのが、正しいだろう…

 嫌われる人間は、どこにいっても、誰からも、嫌われる…

 そして、そういう人間は、例外なく、我が強く、自分勝手…

 とにかく、どんなときでも、自分が、一番…

 学校でも、会社でも、どこでも、自分を通す…

 だから、嫌われる…

 いわゆる、協調性が、皆無だからだ(笑)…

 だから、嫌われる…

 そういうことだ…

 私は、そこまではいかないが、簡単にひとを信じない…

 お子様では、ないからだ…

 3歳のお子様では、ないからだ…

 だから、簡単に、ひとを信じない…

 簡単に、ひとを信用しない…

 そういうことだ…

 だから、マミさんも、心の底から、信用しているわけでは、決してない…

 マミさんが、悪い人間では、ないことは、わかる…
 
 正直、何度もいうが、私は、マミさんとは、ウマが合う…

 が、

 それと、マミさんを全面的に信用するというのは、違うということだ…

 これは、例えば、家族でも、同じ…

 血を分けた、自分の両親や、自分の子供が、言うことを、全面的に、信じるか?

 と、問われば、素直に首を縦に振る人間は、少ないだろう…

 それと、同じだ…

 だが、全面的に信用しないから、嫌いといっているわけでは、ない…
 
 好きだから、その人間の言うことは、すべて信用するわけではないということだ…

 だから、マミさんは、好きだし、ウマが合うから、全面的に信用するというわけではないということだ…

 なにより、マミさんは、言ったではないか?

 私を部外者と、言ったでは、ないか?

 あれは、警告?

 警告の意味?

 それとも、単なる、言葉…

 言葉通りの意味?

 私も、ナオキも、五井家の人間では、ないのだから、部外者に、決まっている…

 だから、これ以上、五井に関わるな!

 部外者だから、関わるな!

 そういうことかも、しれない…

 要するに、壁を作ったのだ…

 私やナオキと、五井家の人間は、違うと、壁を作ったのだ…

 だから、これ以上、五井と、関わっては、いけないと、警告したのだ…

 そして、それは、どういう意味なのか?

 考える…

 当たり前だが、五井と関わることで、私にも、ナオキにも、なにか、不利益が、生じるということだ…

 なにが、不利益だか、わからないが、私もナオキも、不利になる状況が、生じるということだ…

 私は、思った…

 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えている最中だった…

 「…あら…奇遇ね?…」

 と、いう声がした…

 私の近くで、声がした…

 その声に、反応して、私は、とっさに、声のする方を見た…

 なんと、ユリコが、そこにいた!…

 私の天敵の藤原ユリコが、そこにいた!…

 藤原ナオキの元の妻である、ユリコが、そこにいた!…

 私は、驚くと、同時に、警戒した…

 まさに、まさか? だ…

 つい、さっきまで、マミさんと話して、ほのぼのとした雰囲気が、一気に、吹き飛んだ…

 きれい、さっぱり、なくなった…

 ユリコが、現れたことで、私は、即座に、警戒態勢に入った…

 戦闘態勢に入った…

 カラダが、一気に、緊張した…

 私が、ユリコを見ると、いつも、こうだ…

 敵が現れた…

 自分が、思うまでもなく、カラダが、緊張する…

 カラダが、勝手に、警戒態勢を取る…

 心ではない、肉体が、無意識に反応する…

 そういうことだ…

 そう考えれば、自分でも、つい、自分の反応に笑ってしまう…

 このユリコが、そんなに、嫌いなのか?

 と、自分でも、自分の反応に、笑ってしまう…

 要するに、それほど、嫌いなのだろう…

 あるいは、

 それほど、苦手なのだろう…

 そして、おそらく、それは、態度に出る…

 私の態度に出る…

 それを、見て、ユリコは、私が、心底、ユリコを嫌っていることに、すぐに、気付く…

 だから、余計に、ユリコは、私が、嫌いになる…

 ユリコにしてみれば、自分が、嫌われていることが、わかるから、自分が、嫌いな人間を、自分が、好きになるはずが、ないからだ…

 だから、余計に、私を嫌いになる…

 そういうことだ…

 だったら、嫌いでも、態度に出さなければ、良いのでは、ないか?

 そう、アドバイスする人間も、いるだろう…

 が、

 それは、無理…

 心底、相手を嫌っていれば、それは、どこかで、態度に出る…

 隠せないからだ…

 だから、相手も、それに、反発して、私を嫌いになる…

 あるいは、

 私に敵愾心を抱く…

 そういうことだ…

 これが、好循環か、悪循環か、わからないが、こうなる…

 これが、私とユリコの関係だ…

 私が、ユリコを見ながら、そんなことを、考えていると、

 「…ここ、いいかしら?…」

 と、ユリコが、言って、私の前の席に座った…

 ちょうど、つい、さっきまで、マミさんが、座っていた席だ…

 私は、反射的に、

 「…ハイ…どうぞ…」

 と、返答した…

 ここで、

 「…嫌です…」

 と、拒否することは、できない…

 30歳を過ぎた、いい大人が、

 「…嫌です…」

 と、いうことは、出来ない…

 だから、

 「…ハイ…どうぞ…」

 と、言った…

 いや、

 言わざるを得なかった…

 が、

 私は、続けて、

 「…もう少しで、私も帰るところですから…」

 と、言って、わざと、ユリコの前で、コーヒーを飲んだ…

 嫌がらせだ…

 ユリコに対する、嫌がらせだ…

 が、

 当然、ユリコも、それが、わかっている…

 私が、ユリコが、嫌いだから、そういう態度を取るのが、わかっている…

 だから、ユリコに反応は、なかった…

 ことさら、私の嫌味に対する反応がなかった…

 「…そう…でも、寿さん…少しだけ、私に時間をくれる?…」

 「…時間を?…」

 「…そう…少しだけ、私に付き合ってくれる? おごるわ…」

 と、言って、勝手に、スタッフに、

 「…コーヒー二つ…」

 と、注文した…

 私の意見も聞かず、勝手に、コーヒーを注文するのは、いかにも、ユリコらしい…

 開いた口が、塞がらなかった…

 と、言いたいが、さにあらず…

 これが、ユリコだった…

 いや、

 これこそが、ユリコだった…

 だから、こんな行動を取るのは、当たり前のこと…

 別段、驚きは、なかった…

 それから、

 「…ねえ、寿さん?…」

 と、私に話しかけてきた…

 「…なんでしょうか?…」

 「…美人に生まれるって、どういうこと?…」

 と、いきなり、聞いてきた…

 これは、フェイント?

 ボクシングで、言えば、ジャブ?…

 軽くジャブを放って、私の反応を見る?

 そう、思った…

 予想外の質問だからだ…

 だから、

 「…どうして、そんなことを?…」

 と、聞いた…

 「…どうしてって? ただ、聞きたいだけ…」

 ユリコが、意味深な笑いを浮かべて、言った…

 「…答えて? …寿さん?…」

 「…私以上の美人は、世の中にたくさん、いますよ…」

 私は、冷静に答えた…

 「…それに、もう、私も、32歳です…世間的には、中年に近いです…若い子には、勝てませんよ…」

 私が、言うと、目の前のユリコが、ニッコリと、微笑んだ…

 実に、楽しそうに、微笑んだ…

 「…さすが、寿さん…」

 「…なにが、さすが、なんですか?…」

 「…自分より、美人を例に挙げて、自分は、たいしたことがないと、謙遜する…そうすれば、嫌味にならないから…」

 「…なにが、嫌味にならないんですか?…」

 「…寿さんが、美人だということ…ちょうど、フリーアナウンサーの近藤サトさんだっけ…彼女の若いときに、似ている…」

 「…」

 私は、なんと、答えていいか、わからなかった…

 ユリコの目的が、読めなかったからだ…

 だから、なんと、答えて、いいか、わからなかった…

 いや、

 それだけではない…

 どうして、いきなり、ここにユリコが現れたのか?

 そもそも、それも、わからなかった…

               

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み