第80悔 その流儀、我恥無股

文字数 1,350文字


 《 かつて、剣闘士闘技会には知る人ぞ知る究極の決闘方式があった。それは、剣闘士関係者とその熱狂的応援者(Gladiator Maniacs:剣闘士キチガイ)の間で、こう呼ばれていた。

 『我恥無股(ガチンコ)』――と。

 これは、剣闘士闘技会の最終試合において――剣闘士が一対一で闘い――日没までに決着がつかなかった場合に行われる完全終局決闘方式で、以下のような厳しい規則があった。

一、あらゆる武器と盾を捨てること。※1
二、下半身、()しくは全身を露出すること。
三、己の一物だけを武器とすること。※2
四、己の一物の付け根を両手でしっかり把持(はじ)すること。※3
五、どちらかが戦闘不能になるか、負けを認めるまで続けること。

 ※1.(カブト)と心臓を守る防具の装着は許された。ただし、それらを武器にしてはいけない。
 ※2.拳、肘、膝、足などでの攻撃は一切禁止。ただし、一物から手を放さない体全体を使った体当たりは、ある程度「仕方のない接触」として許される。
 ※3.ただし、転倒などによる体勢の立て直しの際は、片手を放しても良い。

 
 この決闘は、追加料金として入場料の三倍の金額を払った者だけが見ることが出来た。
 このため必然的に『我恥無股』の詳細を知ることが出来たのは、熱狂的応援者(通称:グラマニあるいは剣キチ)に限られることとなった。

 『我恥無股』の舞台は、広い闘技場の中央に造られた。

 九メートル四方の土俵の四隅に篝火(かがりび)が灯され、開始線に剣闘士が己の一物を握って蹲踞(そんきょ)すると、熱狂的応援者(グラマニ)たちは固唾を飲んで――これから始まる究極の決闘に備え――股間を押さえたものだった。 

 闘技会に足しげく通う彼ら剣キチは、スピナッチことスピナシア・オレラシアが、この秘密の決闘方式『我恥無股』においても王者であり続けたことを良く知っていた。
  
 彼は『我恥無股』専用の体当たり『裏スピナチア』という必殺技で対戦相手に止めを刺すことで有名だった。

 これは、転倒した相手にさらに『追いスピナチア』を繰り出すという裏技であり、「結果としてどうなるか?」を端的に説明するのならば、大抵の場合、「スピナッチのそれなりの巨根が、対戦相手のアヌスを貫いて試合終了」となるのであった。

 中には、アヌスを貫かれたあとも抵抗したため、肉剣(にくけん)で腸をかき回され絶命した者や、口で受け止めてしまったため窒息死した戦士もいた。
 そのためスピナッチは『アナル・ブレイカー』、『腸破壊戦士(ちょうはかいせんし)』や『肉剣士イラマチオン』と言った異名で呼ばれることも少なくなかった。
 
 あまりに無慈悲な肉剣捌(にくけんさば)きのため、「スピナッチは対戦相手を徹底的に痛めつけ、凌辱したいがために、ワザと日没まで試合の決着をつけず『我恥無股』に持ち込む」という話が、まことしやかに(ささや)かれたりもした。
 
 今回、この評伝を執筆するにあたり、取材を通して本人にその真相を直撃したところ、彼は「そんな時代もあったね……」と言って遠くを見るばかりであった。 》

 ~メルモモ・カベルスキー著 『評伝 スピナッチ:それなりの人物』より抜粋~
 

 ――『我恥無股(ガチンコ)』に関する以上のような概要の内、立会人を買って出た近衛騎士ヒューゴが、試合規則だけを妄夢に軽く説明した。



 第80悔 『その流儀(りゅうぎ)我恥無股(ガチンコ)』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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