第39悔 フェルディナンド、千載一遇

文字数 2,164文字

 エンリケ後悔皇子が『ファニチャード記念碑』を建立した時はまだ、円卓の下でクリストフとキャスの“永久機関”が完成に向けて動き始めたばかりの頃だった。

 フェルディナンド・ボボンも本来なら、ガザザナの“燃料棒”格納作業に手を貸すべきなのだろうが――誰もオレに頼まないし、第一、やりたくない、と思っていたので椅子に極端に深く腰掛け、顔だけを机の上に出した状態で気配を殺しながら事の成り行きを見守っていた。

 「さて、皇子。此奴(コイツ)の椅子を動かしましょうか」とスピナッチ。
 ファニチャードの果実を凝視(ぎょうし)していたため気勢をそがれる形となったエンリケだったが、自分が言い出した事でもある。
 仕方なく「……う、うむ」と言うと所定の位置に着いた。

 「せーのっ!」
 スピナッチの掛け声で彼が椅子を引き、エンリケがガザザナの左肩のあたりを前から押すも、ビクともしない。

 身長二五九センチメートルのこの男の体重はどのくらいなのだろうか? 三〇〇キロ近くはあるのかも知れない。“大蛇(オロチ)”部分だけでも二〇キロはありそうだった。

 平素、力仕事など全くしないエンリケはすぐに疲れたが、足元にはファニチャードが(ひざまず)いて彼のキュロットを押さえながらこちらを見ている。
 そして、時折、無邪気な表情で禁断の果実をエンリケに(さら)している。

 それを見るだけで“記念碑”は力を取り戻し……はしたのだが、だからと言って格納作業に身が入るわけでもなかった。
 彼の頭の中はもう果実の事でいっぱいだった。
 「うむ、動かん。作戦を立て直そう」と言うとエンリケは「先生! 先生!」と後悔卿トスカネリを呼びつけた。

 「すみませんが先生、急に(イチゴ)が……いや、ラズベリーが良い! とても食べたくなりました! たしか、控え室の果物の盛り合わせのボウルの中にあったと思うのですが……!」と()うた。

 どうやら格納作業じゃない方の違う作戦は思いついたようですな……と、お見通しの後悔研究所所長は「御意(ぎょい)」と(うなず)き、後悔三銃士リーダーを呼びつけ控え室に取りに行くように命じた。 
 
 エンリケやスピナッチらはタイタスが戻るまでの間、一息つくこととなった。そして、ここで改めて“超巨人”を目の当たりにした。

 とにかく巨大だ! これが誰かしらの穴に入るモノなのか?! と直截(ちょくせつ)な思いを抱いたのは、円卓の椅子に座る近衛騎士団副長グンダレンコ・イヴァノフだった。

 過去にあらゆる“反社会的精力(はんしゃ)”が彼女の“満身創痍(まんしんそうい)の女王の住処(すみか)”を荒らしたが、勿論(もちろん)、これほどのモノはなかった。
 彼女は、背骨を折られて格納作業を手伝えないことを悔やんだ。
 そして、いつか必ず試してみたい、と自分に雪辱(せつじょく)を誓った。
 
 スピナッチも(ヒマ)を持て余し、己の一物をポロリと露出しガザザナの“世界蛇”と比べてみた。
 これには大観衆も沸いた。勝敗は言うまでもないが、イヴァノフは「やるじゃない」と道化師を()めた。

 エンリケはファニチャードにガザザナと道化師のモノを見せまいと手で目隠しをしてあげてお茶目な一面を観衆に見せた。
 その実、自分は彼女のタンクトップの隙間から一瞬たりとも目を離さなかった。
 “記念碑”はさらに熱く硬くなっていた。


 存在感を完全に殺そうとさらに深く椅子に腰かけ寝そべる状態になったフェルディナンド・ボボンの頭は、円卓の下に潜り込む形となったのだが、そこで信じられないモノを目撃することとなった。
 
 この会議は一体、何なんだ……!
 フェルディナンドは口を押えて驚いた。

 円卓の下、左側では親友と高身長美人がお互いに〈シャブバシャブバ〉と(みだ)らな音を立て、まさに“永久機関”を形作ろうとしていた。

 また円卓の下、右側では近衛騎士団副長が、制服の股間部分を開き左手首までを“満身創痍の女王の住処”に突っ込み、前後に動かし自慰行為(じいこうい)(ふけ)っていた。
 おそらくガザザナのモノを想定しての事だろう。
 
 あの人、左利きだったのか! とフェルディナンド。
 
 いや、それにしても! さっきアンナマリアに「大丈夫!」と親指を立ててサインを送ったのに、クリストフの何たる痴態(ちたい)! アンナマリアに合わす顔がないよ! と後悔した。 

 しかし、何だってこんな状況になったんだ?
 頭を抱えるフェルディナンドだったが、考えてみればこんなチャンスは今までになかったことに気づいた。千載一遇(せんざいいちぐう)と言えた。

 十代前半の頃からノニー・ボニーの事にしか興味がなかった彼だが、ノニー本人とも何かがあったわけではないので――つまり、一度も実際の『女性の器』を見たことがなかった。

 ノニーが働くルーム図書館で、彼女に隠れて医学書に書かれている性器の図解なら見たことがあった。
 本棚に隠れてそれを見ながら、今度は司書をしているノニーの顔を見る。体を見る。また図解を見てはノニーの下半身を遠くからじっと眺める……。
 そうして、彼女との情事を夢見て己の粗末な一物を握ったり、先走った何かを漏らしてみたり……そういった慎ましやかな青春を送ってきた。

 そんな彼もこの秋、二十四歳の誕生日を迎えることになる。

 ドキドキしていた……。

 あの時の興奮と背徳感を思い出したフェルディナンドは、彼の性生活としては一大冒険と言える行動に打って出た。



 第39悔 『フェルディナンド、千載一遇』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み