第94悔 噂のイヴァノフ・サーカス

文字数 2,665文字


 “無毛猫(ウー・マオ・マオ)”の秘部技(ひぶぎ)『ウラカン・メコ・インベルティダ(逆さ女股のハリケーン)』により中空に描かれた連なった人間による円――。

 その最後尾にいたグンダレンコ・イヴァノフにかかる遠心力は近衛騎士団副長の実力をもってしても耐えきれるものではなかった。
 「ぬぅあ! 手が――」
 “妄夢”から分泌され続けているイントレランス・リキッドによって、イヴァノフの両手はすでに白濁としていた。
 大回転の円の頂点に来た時、イヴァノフは遂に両手を“妄夢”から完全に滑らせた。

 その勢いによって三メートルほど上空に逆さに舞い上がったイヴァノフの両脚は大開きにされ、『皇女股光(おめこう)』によって新生した彼女の女股(めこ)が四階席の観客にお披露目された。

 「ビショビショじゃねえか!」、「なんて淫らな女股だ!」、「どんだけ見せたがりなんだ!」

 スピナッチから贈られた『君のポケット』により、部分的にではあるが人生に羞恥心を取り戻していたイヴァノフは、観客があげたこの声を聞き、恥ずかしくなって思わず両手で股間を隠した。
 すると、手に付着していた“妄夢”の発したイントレランス・リキッドと自身のプッシー・スプラッシュの残り汁が相俟(あいま)って――中空に放り出された危険な状況だというのに――最高に淫靡(いんび)な気分になってしまった。

 ああ、見える……いつの日か、あの極大の一物が私の子宮の奥底に子種を植え付ける場面が……ハッキリと!

 それは、人間の本性として危機が迫った時ほど起こる性衝動か。あるいは死期が迫った人間の脳内を回る走馬灯の未来版(フラッシュ・フォワード)なのかも知れなかった。

 ところが、この一瞬の性的トリップがイヴァノフに空中での姿勢制御を困難にさせた。
 「しまった! ここからではどう着地しようと骨折は免れない!」
 いつものイヴァノフだったら前回り受け身で事なきを得たことだろうが、今や前方回転するには遅すぎた。淫靡気分で足腰が弛緩し、体が脳からの神経伝達を阻害している今、強行すれば回転しきれずに首の骨を折るだろう。

 足から落ちても足首が、両手と膝を着いてもそれぞれの関節が、背中から受け身を取っても背骨と腰骨を再び骨折し、また『黒鉄のコルセット』を装着する羽目になるだろう。
 そのコルセットのレプリカは、イサベラの(めい)により近衛騎士のふたりがイヴァノフの女股をむき出しにした折、一緒に取り外して今は円卓の席の上にあった。

 ええい、一か八かだ!
 刹那、イヴァノフは近衛騎士のヒューゴとサントーメに視線を投げた。
 
 「まさか、副長! この状況でアレを?!」と救難信号を受け取ったサントーメが驚くと、さっそく僚友がスピナッチの肩から手を放して落下予測地点に向け、まっしぐらに駆け始めた。

 「お、おい!」とクリムが声をかけると、ヒューゴのあとを追って飛び出したサントーメがインペリアル・ガードのふたりに叫んだ。
 「来い! 今こそ俺たちの“本来の仕事”の時だ!」

 「“本来の”? ――そうか、アレだな?!」と後楯(リア・ガード)が言うと、察しの良いクリムと共にスピナッチの両脚に乗せていた腰をあげ走り出した。
 「しかし、この限られた時間で上手く行くものか?」と珍しく弱気になる矛先(フロント・ガード)の頭をカスティリョが叩く。
 「副長の女股がダメになるかどうかなんだ、やってみる価値あるだろうが!」
 「だよ、なっ!」とクリムが言うと制服のズボンのベルトを急いで外し、股間部のボタンを外した。

 「な、なんだ? 何が始まるというんだ?」と、急に重しが無くなった全裸のスピナッチが前方を注視する。
 先行する近衛騎士が落下予測地点に滑り込みながら、やはりズボンを降ろしているのを確認したスピナッチが続けた。
 「まさかとは思うが騎士の奴ら……この場でアレを?!」
 宮廷道化師だった彼も、『イヴァノフ・サーカス』の件は噂には聞いていた。
 「――だったら、ここは僕も手助けをせねば!」
 そういうと新米宮廷詩人は、起き上がりながら“道化”を握り二、三度手首を上下させてからインペリアル・ガードのあとを追った。

 クリムが叫んだ。
 「今までの記録は三人だ! 副長の女股界隈では、三人同時が限界だとされていた! しかし、三人ではあの高さから落下する副長は救えまいよ! ところが奇遇にもここには我ら四人がいる! つまり、不可能は無いのだ!」

 事前にフォーメーションの取り決めをしていた訳ではないのにも関わらず、四騎士の脳内ではどのような態勢で副長を無事着陸させるかのイメージが出来上がり、共有されていた。
 それはまさに『同じ釜飯を食った仲』だからこそ出来る芸当だった。

 位置に着いたヒューゴとサントーメが、対面した状況で勃起した股間の一物を露出しながら仰向けになり、手足を最大限に伸ばして橋を形作る。普段、近衛騎士団でクロニルーマン・レスリングや徒手格闘術の訓練に励む彼らのそれは、見事な高さを誇っていた。

 近衛騎士のふたりが背中を極限まで反り返らせ高さを競えば競うほど、お互いの天頂方向に屹立した一物が近づいた。

 「ほう、やるじゃないか!」と感心しながらカスティリョも落下予測地点に滑り込む。インペリアル・ガード組は、ヒューゴ=サントーメ橋を横から挟み込むように位置取りしたあと一物を露出しクリム=カスティリョ橋を作った。

 四騎士の均整の取れた肉棒が三階席通路に林立した。
 「ほら、もっとだ! もっと背中を反らんと副長を、女股を受け止められねえぞ!」
 ヒューゴが仲間を叱咤すると、彼らはさらに見事なアーチを描いて遂にひとつのドームとなった。
 そして、その天井には密集した四本の肉棒がひとつに塊り、極太の一物を形成していた。それはもはや“山”と言うに相応しかった。
 「ファンガス・ファンティーゴ(ちくしょう、なんてこった)! 悔しいが惚れ惚れするくらい見事な芸当だ!」追いかけてきたスピナッチも目の前に出来上がった“四騎士山”に思わずうっとりした。 

 「よくやった! そこに着陸する!」
 落下するイヴァノフが両脚を「M」の字にし、さらに女股の唇を両手で開いて“四騎士山”への着陸準備に入った。

 「副長! 無事に降りて来てくださいよ! 合体したら、我々は同時に果てて、“常世の国”を精液で満たしに満たします! それによって膣内に真空状態が作られれば、着陸の衝撃にも負けない結合状態を生み出せるはずなんだ!」

 四騎士一の理論家、カスティリョが『イヴァノフ・サーカス』成功への鍵を力説した……。



 第94悔 『噂のイヴァノフ・サーカス』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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