第32悔 僕と我 ふたりの妄夢

文字数 2,242文字


 し、信じられん……いかにも「わたしは生き別れた妹だ」と言わんばかりの類似性だ!
 クリストフは、“無毛猫(ウー・マオ・マオ)”と名乗るこの何者かの姿を見て、心底、驚愕(きょうがく)していた。
 衣装から露出された股間の肌の色までもが、“妄夢(モゥム)”とよく似ていた。

 そして、何なんだ、アレは!
 
 開かれたマントの裏側には本物なのか造り物なのかはわからないが、切り取られた陰茎(いんけい)のような物がカリ首のところで……何十本と()い付けられていた。
 
 冗談にしては猟奇的(りょうきてき)に過ぎる!
 しかし、心乱れるクリストフを構うことなく、不審者が宣告した。

 「うぬが丁度、百本目の罪棒(ざいほう)よ!」

 この“無毛猫”の異様な痴態に呆気にとられた“妄夢”は、何らかの病気なんじゃないのか? この変質者……、などと思いつつも、マントの下で今までになく極大にクリストフを怒張(どちょう)させていたが、残念ながらそれを(ひるがえ)(スキ)を与えてもらえなかった。

 まさに猫のごとく俊敏(しゅんびん)な動きで“無毛猫”が飛びかかってきたのだ。しかも、その仕方が卑猥(ひわい)すぎた。
 投げ捨てた去勢(きょせい)マントを(おとり)にし“妄夢”の目をくらませると、飛び上がるや否や両足を『V』の字に大開脚させて、プッシー・ハイジーンを見せつけながら“妄夢”の首に太ももを(から)ませに来たのだ。 
 見事な跳躍力だった。
 身長一八五センチメートルの“妄夢”に逆さ吊りになりながらプッシー・ハイジーンを顔面に押し付けようとする。

 「うぬの弱点は調査済みよ!」と魔羅取締官(マーラ・ハンター)
 「一日一度限り! 果てたら終わりの(みじ)めな棒君(ぼうくん)よな?!」

 「な、なんと!」と“妄夢”。見抜かれていた。
 僕は少し前まで自分を異常性欲者だと思っていた。しかし、“妄夢”活動で分かったことは……確かに一日一回で充分な、正常な性欲保持者だった! だからこそ……深夜零時に射精して我に返った……。
 クリストフと“妄夢”の心情が行ったり来たりするほど、彼は慌てていた。 

 香しいプッシー・ハイジーンが“妄夢”の口を(ふさ)ごうと迫る。
 それにしても、見たこともない美しさ! 照明は月明かりだけだというのに、造形、色、香りまでもがビビットに見て感じとれる! ……すべてが絶品だ!
 目前に『花の都』の一番街が広がる。
 クリストフの口からは先走った何かが()れ始めた。

 「(とく)と味わうがいいプッシー・ハイジーンを!」
 そう言うと“無毛猫”は、さらに両足をマンリキのように締め付けに入った。

 「パスリン、最高!」
 そう叫ぼうとした“妄夢”の口をプッシー・ハイジーンが完全に覆った。
 この“無毛猫”! か、感触も至高! と“妄夢”。
 
 さらに“無毛猫”が「喰らえ! 『プッシー・スプラッシュ・マウンテン』!」と叫んでプッシー・ハイジーンから“妄夢”の口の中に大量の水分を噴射した!

 う、美味い!

 その瞬間、“妄夢”のマントの隙間から、膨大な量の白いマグマが〈ドヴュァ!〉と(そら)高く噴き出した!
 喜びで弛緩(しかん)した両膝を地面に突かせる“妄夢”。

 “無毛猫”が足のロックを外し後ろに飛びのくと、今度は背中から湾曲(わんきょく)したナイフ二本を〈ジュビッ〉と抜き出した。 
  
 「フフフ、あっという間よな! 時の流れが速いのか、うぬの棒君が(わび)しいだけなのか」と魔羅取締官。見事、作戦通りに果てさせて、クリストフを行動不能にしたのだ。

 「さぁ、仕上げだ! このヴァギーナイフで去勢して進ぜよう!」と二本のナイフを組み合わせると、とても男根(だんこん)を去勢しやすそうなハサミになった。

 一度果てて“妄夢”とクリストフの人格は入れ替わり、元に戻っていた。……が、いつもと何かが違うことをクリストフは冷静に感じとっていた。
 
 ま、まだ行ける! 早めに()ってしまったのが功を奏したか?! あるいは、皮肉にもプッシー・スプラッシュとかいう神技によって射出されたプッシー液が、“妄夢”にとってはこれ以上ない精力剤となったか?! いずれにしても、やれるぞ! 僕は!

 クリストフの自己分析は正しかった。考えてみれば、強制的に――しかも一物に無接触で――果てたことなんて、今まで生きてきてなかったことだった。
 疲労感が全く残らない……なんという夢のような心地なんだ!
 
 やはり月明かりだけでは暗くてよくわからなかったのだろう。
 クリストフの異変に気づいてない“無毛猫”は、無用心に彼に近づき〈ムンズッ〉と“妄夢”を左手で掴んだ。
 「なにっ⁈ まだ硬い!」
 今度は“無毛猫”が慌てふためいた。意外にも硬度を保っていた“妄夢”に驚き、右手に持っていたヴァギーナイフを落としてしまったのだ!

 さらに悪いことに、先ほどまでクリストフだった“妄夢”が射出(しゃしゅつ)した白い溶岩に足を取られて、プッシー・ハイジーンをおっぴろげて転倒したのだ! 
 「ファンティーゴ!」
 腰を強打した“無毛猫”は下肢(かし)に力が入らない。

 一瞬にして、攻守が逆転した。 

 ゆっくりと立ち上がったクリストフは、ヴァギーナイフを遠くに蹴り飛ばした。

 「我が名は妄夢! マグアインブルグの支配者!」
 そう言うと改めてマントを翻し、人生で最高に怒張した“妄夢”を“無毛猫”に見せつけた!

 いつの間にか、クリストフと“妄夢”の人格は一体化していた。この死闘を経て、彼は完全に己の中の暴君をコントロール出来るようになっていたのだ。
 彼が“妄夢”と名乗る時、もはや「“ ”」を必要としないだろう!
 月夜のマグアインブルグに、(あや)しく光る尖塔が新たに建立された。



 第32悔 『僕と我 ふたりの妄夢』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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