第35悔 陥落! キャスの門

文字数 1,149文字

 丘の上でも更に何回戦か死闘を繰り広げ、すっかり体力を使い果たして予定日中にルームに戻ることが出来なかったクリストフは、師匠ベルベトーからクビを言い渡された。
 が、もはやそんな小さなことは気にもならなかった。

 無職になったクリストフはすぐさまパスリンに戻り、アンナマリアが一六歳になるのを待って結婚した。

 彼とアンナマリアは、自分たちでデザインしたマグアインブルグ門のロゴマークを、ソレと言わずに密かに使い続けた。
 それは妄夢と無毛猫の活動と共に、二人だけの秘密事項となって結びつきを強めた。

 今や、服や家具、自動馬に至るまでリゴッド皇国には“城門”マークが(あふ)れている。


 こうして『マグアインブルグ門の死闘』以後、クリストフにとって“城門”と言えば無毛猫の『プッシー・ハイジーン』であり、この世界で最も美しい「神による創造物」となった。
 
 ……のだが、そこからいつの間にか独り歩きして「僕が一生涯、求め続けるモノ」とも変換された。

 それは、一流デザイナーのサガとも呼べる性癖であった。

 「常に最高のモノを求めていたい」

 この想いを否定できるクリエイターはいないだろう。それは、妻への愛とはまた別のものなのだ。



.。:*+゜゜+*:.。.*:+☆ 



 と、いうわけで今――彼は、円卓の下でしばらく見ることが出来なかった美しく貴重な“城門”を目にし、夢中でむしゃぶりついていた。

 しかし、クリストフが心の中でアンナマリアに言い訳するとしたら、全然、全然! そんなんじゃないから! プッシー・ハイジーンの方が断然、美しいよ! と言っていた事だろう。


 大観衆は“世界蛇(せかいじゃ)”の方に歓声を上げている。

 観客席のアンナマリアとクリストフの弟バルトロイは、さすがに心配して新進気鋭のデザイナーの方を見遣(みや)ったが、代わりにフェルディナンド・ボボンが親指を立て「大丈夫!」とサインを送ってくれたので安心したところだった。
 
 後悔三銃士キャスは「か、堪忍(かんにん)して……くっ! ……だ…さい、隊! …長……」と快楽の中で夢想しながら声を上擦(うわず)らせた。
 そうなのだ。
 元々、クリストフは『後悔四天王』のリーダーとして、彼女の隊長になるはずだったのだ。           
 彼女にとってタイタスは、あくまで劇団の団長だった。
 
 クリストフの本能は若干、“後悔”した。
 そうか、あの仕事を受けていれば……〈シャブーバシャ!〉もっと、密にこの“城門”に接することが〈ブーシャブシャ!〉出来たのか! と。
 
 十五分間くらい攻め続けられたのだろうか?

 “キャスの門”がキャスなりの『プッシー・スプラッシュ・マウンテン』を繰り出すと、すかさず艶男(あでなん)ロニーが角笛を吹いた。
  


 第35悔 『陥落! キャスの門』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆
  
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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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