第21悔 力の穴
文字数 1,688文字
救護係長ナナイ・ティンゲルスがグンダレンコ・イヴァノフにゆっくりと、優しく、制服の上から『黒鉄のコルセット(レプリカ)』を装着してやると、近衛騎士団副長の目に力が宿った。
「フッ……不思議なものだ。いつだってこれを着けると私は……」
そう言ってからイヴァノフは、ファニチャードとナナイの手を借りながらおもむろに立ち上がった。
「私は……何度でも甦 ることが出来る!」
〈ドワーッ〉という割れんばかりの五万人の大歓声が議場内に轟 いた。
少し離れた玉座の前で、エンリケ後悔皇子もひとまず安心といった表情を見せていた。
後悔三銃士の艶 やかなる男ロニーは余程感動したのか、犬のように円卓の周りを駆け回っていた。
「こいつは驚いた……」と、さっきまで興味がなさそうだったフェルディナンド・ボボンが呟く中、司会者にして加害者でもある宮廷道化師ザ・スピナッチは、別の意味で、信じられない! と言った表情で立ちすくんでいた。
「オ、オイラの必殺技『スピナチア』を喰らって……立ち上がる者が居るだと……?!」
手の震えを抑えようと両の掌 を組んだが収まらない。
「しかも、ヤツは女だ……」認めたくなかった。
それほどまでにオイラは衰えているのか? と。
だが、そうではない。
メルモモ・カベルスキーが著した『イヴァノフ/淫靡 な牝狼 』に書かれているように、“黒鉄の狼”が特別な女なのだ――。
《 幼年学校時代の凌辱 はポン・デ・ナイル医師によるものだけでは済まなかった。
初めての“身体検査”から解放されたゾーイー・ストーマーは、係の者の案内に従って寮の部屋に何とかたどり着いたのだが、同室の男子生徒三名に早くも女であることを見抜かれてしまったのだ……。
もはや言及の必要もない地獄が待っていた。
……しかし、本書が彼女の伝記である以上、心苦しいがやはり言及せねばならない。
三人の男どもは一晩中、代わる代わる彼女をおもちゃにし続けた。時には、三人同時にそれぞれの猛り狂った“反社会的精力”をゾーイーの“三つの穴”に突撃させた。
一つは口穴 、その喉奥 に。
一つは終穴 、強気な抵抗組織に。
一つは女穴 、満身創痍 の女王の住処 に。
……後にゾーイーは私に語った。
男子生徒三人が同時に彼女の中で盛大に果てた時、脳内に(まるでサーカスだな!)という“エリクソン校長”の笑い声が響いたのだという。
それどころか、この幼年学校初日の一昼夜に渡る絶望の中で、ゾーイーを励まし続けたのもまた、すぐ隣に立って一部始終を見ていた空想上の友人“エリクソン”だったと言うのだ。
「大丈夫!」、「むしろ丁度いい!」、「よしよし、そうだ! その角度だ!」
デ・ナイル医師から三人のルームメイトに至るまで、その凌辱のすべてを“エリクソン”への愛で乗り切ったというのだから、彼女の精神力――いや信仰心たるや恐るべきものがある。
彼女の行動原理の中心には、必ずエリクソン・シンバルディがいたのだ。 》
円卓の椅子に改めて着席し一息ついたイヴァノフは、肩を貸してくれた後悔三銃士リーダー・タイタスに尋 ねた。
「それにしても、誰が“コレ”を?」
今や『黒鉄のコルセット(レプリカ)』は希少品で、闇市場ではイヴァノフの伝記と合わせて定価の十倍はした。すぐに手に入るものではなかった。
タイタスは「あちらの方が……」と頭を傾けることにより、イヴァノフの視線を誘導した。玉座の隣にたたずむ後悔研究所所長トスカネリが、こちらを眺 めていた。
「あらかじめ用意していたというのか?」というイヴァノフの小声の問いにタイタスは「それは俺にも分かりませんが……」としか答えることが出来なかったが、代わりにトスカネリ本人が笑みを浮かべて頷 いた気がした。
あの男……。一体、どの章まで私の伝記を読んだのか。最後まで読了していると言うのであれば、場合によっては……。
背骨を折ったことから来る発熱なのか、あるいは別の理由があるのか……。
イヴァノフの体の一部が火照 りだしていた。
第21悔 『力 の穴 』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆
「フッ……不思議なものだ。いつだってこれを着けると私は……」
そう言ってからイヴァノフは、ファニチャードとナナイの手を借りながらおもむろに立ち上がった。
「私は……何度でも
〈ドワーッ〉という割れんばかりの五万人の大歓声が議場内に
少し離れた玉座の前で、エンリケ後悔皇子もひとまず安心といった表情を見せていた。
後悔三銃士の
「こいつは驚いた……」と、さっきまで興味がなさそうだったフェルディナンド・ボボンが呟く中、司会者にして加害者でもある宮廷道化師ザ・スピナッチは、別の意味で、信じられない! と言った表情で立ちすくんでいた。
「オ、オイラの必殺技『スピナチア』を喰らって……立ち上がる者が居るだと……?!」
手の震えを抑えようと両の
「しかも、ヤツは女だ……」認めたくなかった。
それほどまでにオイラは衰えているのか? と。
だが、そうではない。
メルモモ・カベルスキーが著した『イヴァノフ/
《 幼年学校時代の
初めての“身体検査”から解放されたゾーイー・ストーマーは、係の者の案内に従って寮の部屋に何とかたどり着いたのだが、同室の男子生徒三名に早くも女であることを見抜かれてしまったのだ……。
もはや言及の必要もない地獄が待っていた。
……しかし、本書が彼女の伝記である以上、心苦しいがやはり言及せねばならない。
三人の男どもは一晩中、代わる代わる彼女をおもちゃにし続けた。時には、三人同時にそれぞれの猛り狂った“反社会的精力”をゾーイーの“三つの穴”に突撃させた。
一つは
一つは
一つは
……後にゾーイーは私に語った。
男子生徒三人が同時に彼女の中で盛大に果てた時、脳内に(まるでサーカスだな!)という“エリクソン校長”の笑い声が響いたのだという。
それどころか、この幼年学校初日の一昼夜に渡る絶望の中で、ゾーイーを励まし続けたのもまた、すぐ隣に立って一部始終を見ていた空想上の友人“エリクソン”だったと言うのだ。
「大丈夫!」、「むしろ丁度いい!」、「よしよし、そうだ! その角度だ!」
デ・ナイル医師から三人のルームメイトに至るまで、その凌辱のすべてを“エリクソン”への愛で乗り切ったというのだから、彼女の精神力――いや信仰心たるや恐るべきものがある。
彼女の行動原理の中心には、必ずエリクソン・シンバルディがいたのだ。 》
円卓の椅子に改めて着席し一息ついたイヴァノフは、肩を貸してくれた後悔三銃士リーダー・タイタスに
「それにしても、誰が“コレ”を?」
今や『黒鉄のコルセット(レプリカ)』は希少品で、闇市場ではイヴァノフの伝記と合わせて定価の十倍はした。すぐに手に入るものではなかった。
タイタスは「あちらの方が……」と頭を傾けることにより、イヴァノフの視線を誘導した。玉座の隣にたたずむ後悔研究所所長トスカネリが、こちらを
「あらかじめ用意していたというのか?」というイヴァノフの小声の問いにタイタスは「それは俺にも分かりませんが……」としか答えることが出来なかったが、代わりにトスカネリ本人が笑みを浮かべて
あの男……。一体、どの章まで私の伝記を読んだのか。最後まで読了していると言うのであれば、場合によっては……。
背骨を折ったことから来る発熱なのか、あるいは別の理由があるのか……。
イヴァノフの体の一部が
第21悔 『