第91悔 機転、淫らせて
文字数 1,872文字
一方、円卓の上でのタイタスの『
エンリケ皇子らがようやく三階席通路での珍事に気付いた。
「んん? 何でしょう? 何が起こってるんですか、トスカネリ先生。三階席の柵が邪魔してよく見えませんが……
これに盲目ながら、全ての事象を空気の流れで察知できる異能力者が答えた。
「捕らえ……られたのは、どうやらスピナッチのようですな。私にもそれがなぜだかは分かりませんが――今は、あの露出狂の変質者がイヴァノフと……」と、さすがの後悔卿にも三階席の空気までは完全に読むことは出来なかったのか、あるいは読めていても口に出すことを
代わりに後悔三銃士タイタスに状況を説明させようとしたトスカネリだったが、その三銃士リーダーは今、まさに演説を終え円卓から降りようとした時に足を滑らせて議場の床に背中から転倒し、もがき苦しんでいた。
ふむ。演説の締めに射精して足腰に力が入らなかったからか、それとも円卓に垂れた自身の精液に足を滑らせたのか……、どちらにしても今回は大目に見てやろう。口から出まかせにしては良い演説をした。
トスカネリが心の中でタイタスの労をねぎらう中、円卓の方に視線を向けたエンリケは、また別の事に気付いた。
先ほどまで椅子に座っていたはずの愛しのファニチャードが、そこにいないのだ。
「あれっ! 先生! ボクの――いや、円卓メンバーのファニチャード・デルガド嬢は、どこに行かれたのでしょうか?」
慌てたエンリケが玉座から立ち上がり、円卓の方に飛んでいく。
「さぁ、これは一体、どうしたのでしょう? 私もタイタスの演説と観客の盛り上がりの方に気を取られていて気が付きませんでした」
この意外な事態は、トスカネリに改めて少女ファニチャードの自由奔放さ、
しかし、どういうことなのかの想定と今後の予測はある程度つけていた。
あの小娘、大方三階席での珍事に興味を持って観に行ったのだろう。まさか淫行の輪に加わるわけでも無かろうが、どのみち皇子は黙ってはいまい。となれば、皇子も三階席に向かうだろう。事態は一層、混迷を極め――この会議はいよいよ破綻する!
そのエンリケ皇子は膝を突いて円卓の脇で倒れているタイタスの上半身を抱き起こすと、優しく背中を
「ご苦労であったタイタス。見事な演説でこの大観衆の心を引き留めてくれたこと、礼を言う。ところで、
皇子に抱きかかえられるなんて! 何たる栄誉!
心中で感激しながら、タイタスは少女のことを思い出そうとした。
「光栄です、エンリケ様! 私が知る限りでは……彼女は私の演説中、スピナッチの物と思われる偏光色眼鏡を両手で握りしめていた記憶が……今、私の脳裏にフラッシュバックしてきました! ――が、その後のことは何とも……。申し訳ございません、私がうっかり足を滑らせたばかりに……」
そこまで言うと、タイタスは頭を下げてエンリケに詫びた。
「なぁに、気にすることはない。素晴らしい演説、そして貴重な証言をこのエンリケは得た」
そう言うと後悔皇子は入場ゲートの方に手で合図を送り、救護係長を呼び寄せた。
「少し裏で休むとよい。ナナイさん、この新たなる勇士を頼みます」
「了解いたしました」とナナイがタイタスの脇を抱えて起きあがるのを手伝う。
「あ、ありがたき幸せ!」三銃士のリーダーは顔を紅潮させ――精液が漏れ落ちないように股間を押さえながら――恐縮した。
こうしてエンリケがタイタスの退場を見送ってから立ちあがろうとした時だった。
後悔皇子は、円卓の下に何者かの気配を感じた。
んっ? ハハハッ! ファニチャードだな? 今度は隠れん坊でボクを心配させつつ、いきなり円卓の下から手をのばして『
すると、エンリケは気付かない振りをしながら円卓の司会席に深く腰掛け椅子を引いた。それから、ファニチャードが『
フフフ、さぁ、おいでファニチャード。君の記念碑がまた建立されるよ。
第91悔 『機転、淫らせて』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆