第62悔 御女股様万々歳!

文字数 1,398文字


 「おめでとー!」、「キレイになって良かったねー!」、「女股長(めこおさ)~!」

 昼下がりの円形協議場内では、大観衆が声をあげてグンダレンコ・イヴァノフの女股が回復したことを喜んでいた。
 

 しかし、「なんてこったのファンティーゴ!」と一瞬、嘆いてみせたのは宮廷道化師だった。
  
 実は、気を失ったまま逆さに抱え上げられ、血だらけの性器を露出することとなったイヴァノフを見て、興奮する者が一人だけいた。

 それが、スピナッチだった。


 《 ところで、宮廷道化師ザ・スピナッチにとって『皇女股(オメコ)』は、それはもう見慣れたものだった。

 しかし、剣闘士として歴戦の勇士であった彼にしてみれば――現役時代は戦利品として数多の淫靡(いんび)女性器(ヴァギナ)を物扱いして楽しんできたため――イサベラ皇女の余りにも美しくまるで骨灰磁器(こっかいじき)で出来たような現実離れした『皇女股(オメコ)』は、そそらなかったようだ。

 逆に“満身創痍の女王の住処”の持ち主に恋をし、のちに求婚した。 》
 
 ~メルモモ・カベルスキー著 『V for Vaginatta (Vは『皇女股』のV)』より抜粋~


 ……とは言え、回復したといっても急に後悔三銃士キャスの“雨上がりのピンクローズ”や『魔羅取締官(マーラ・ハンター)』“無毛猫(ウー・マオ・マオ)”の『プッシー・ハイジーン』、ましてやイサベラの『皇女股(オメコ)』のような極上の女股になった訳ではない。
 
 そこは、それなりの――傷が回復しただけであって、彼女本来の――女性器に戻ったのだ。
 
 なので、スピナッチもすぐに「ま、アレでもいっか」と納得した。
 「オイラの一物でそのうちまた、ボロボロにしてやるさ!」

 しかし、本当に驚くべきはそんなことではなかった。
 
 円卓から音も無く飛び降りたイサベラが、救護係長ナナイに近づき肩に手を置き言う。
 「()れも何かの縁であろう。其方(そなた)がイヴァノフの出産の手助けをしてやるが良い」

 「えっ! 出産……でありますか?」とナナイ。

 「それが()の大観衆の願いなれば、我が皇女股にはそれを実現させる力があるのだ」

 「な、なんと! 恐れ入ります」と改めて(ひざまず)くナナイもまた涙を流していた。

 「姉上……なんと申したら良いでしょう」とエンリケ後悔皇子。

 弟の前まで来ると皇女は静かに伝えた。
 「礼には及ばぬ。ただ、次悔(じかい)は学者を参加させい。この世界には、学術が必要なのだ」 
 そう言ってからエンリケの後ろに立つ後悔卿(こうかいきょう)一瞥(いちべつ)した。皇子と後悔卿は、二人揃って深く(うなず)いた。

 イサベラは弟の隣に立つ少女にも語りかけた。
 「()の者、好奇心が随分と旺盛な様だな。我の幼少期に似ておる」 

 「ありがたきお言葉です」と膝を曲げ礼を言うファニチャード。その前髪は、天頂方向に逆立ったまま固まっていた。

 最後に「手はしっかり洗うようにな」とだけ少女に告げると、イサベラは一行の横を通り過ぎて特別誂(とくえつあつら)えのゲートから場内をあとにした。

 「イサベラ様、バンザーイ!」、「御女股(イザネイミホート)様、バンザーイ!」と観客たちが自発的に声をあげるとそれは、万雷の拍手と重なって独特のリズムを生み出し、いつしか皇女を見送る歌となって協議場内に響き渡った。

 こうして、後世の歴史家から「『完璧な人類』あるいは『人類が目指すべき到達点』」という評価を得ることになる皇女イサベラが、光の衝撃波を巻き起こして『第一悔 皇国後悔会議』の場を去っていった……。



 第62悔 『御女股様万々歳!』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆

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登場人物紹介

フェルディナンド・ボボン


この物語の主人公。

これといった定職には就いていないが、近所では昔から情熱的な男として知られている。

その実体は……。


ノニー・ボニー


皇立ルーム図書館で働く司書で、フェルディナンドの幼なじみ。 

他薦により『ミス・七つの海を知る女』コンテストに出場し優勝。
見聞を広めるための海外留学の旅に出る。

その実体は……。


クリストフ・コンバス

フェルディナンドの竹馬の友。
皇国を代表するファッション・リーダーとして活躍中。

その実体は……。


24歳、185cm。 

エンリケ後悔皇子


リゴッド皇国の第二皇子。

人類の行く末を案じて、後悔することを奨励する。

16歳。13センチ。

トスカネリ・ドゥカートゥス


エンリケの家庭教師であり、「盲目の賢人」、「後悔卿」の異名を持つ後悔研究所所長。

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