第115悔 悔と甲斐の公会議
文字数 1,770文字
大きな口を開けながら滑り台に突入したせいで――
「んぐふっ」
照明などの光もなく、一気に暗くなった通路に、ふたりの安否を確認するオマンジュースの声がコダマした。
「大丈夫か? スピナッチ! ロニー?」
意外にもこの問いかけにロニーの方が先に答えた。
「
「了解! 先で待つ!」
オマンジュースがノギナギータを背負いながら通路を歩みだした。
スピナッチが神妙な面持ちでロニーに確認する。
「……いいのか? 先に
「ふぉーぞ!
ロニーが元気に答えるや否や、スピナッチのそれなりに立派な一物が
イサベラのたっての願いで工期の最終盤に強引に設けられたせいか――もともと円形協議場自体が突貫工事であったわけだが――緊急避難用地下通路は完成とは程遠い状況だった。支柱が張り巡らされ、工事用具もまだ置かれたままだった。
しかし、それでも――滑り台を降りた先は人が中腰で通れるくらいの余裕があったので、十分に事足りた。
「姉上には恐れ入る……。まるで未来を見越していたかのようだ……」
ファニチャードを負んぶし身を屈めながら通路を歩くエンリケがそう独り言ちると、後ろに従うトスカネリが答えた。
「まさにそれこそがイサベラ様の能力――『
そう言うと、失神から目を覚ましたばかりの二代目家庭教師は悔しそうに首を横に振った。
「……私には出来ぬことでした。皇子、申し訳ございません」
「何をおっしゃいますか! 先生のおかげで、誰もが“後悔”する会議を開くことが出来たのです! 先生はこのエンリケの誇りです」
「これは……! ありがたきお言葉」
トスカネリは立ち止まってから深々と頭を下げた。
「ところで、ボボンさん。恥ずかしながら、ボクはこの通路の存在を知らなかったのです。これは……どこに出るのでしょうか?」
エンリケが、ランプを掲げて暗い地下道を照らしながら先頭を歩くフェルディナンドに尋ねたとき――彼は脳内で思考を巡らしていた。
イサベラ様の『温故知新』……か。『
「やっぱり、マンコだな! マンコ!」
口に出して言うには
最後の文は、思わず口に出してしまっていたとしても。
「えっ?! どこに出るんですって? マン……?」
エンリケがフェルディナンドの突然の卑猥な言葉に驚いて聞き返した。
「あっ、いや、その……真ん前の――公園!
フェルディナンドが慌てて訂正したとき――エンリケに負ぶさっているファニチャードがうっすらと目を覚まして、皇子にだけ聞こえる小さな声で寝言を口走った。
「エンリケさまぁ……わたしの
これには、背中に“禁断の果実”と“オアシス”の熱を感じていたエンリケの“記念碑”が反応した。
滑り台の下でシャツ以外の上着を脱いで先生にあずけた甲斐があった! いや、まさに! “
晴れやかな表情のエンリケに、天然の光が差し始めていた。
「おお、そろそろ出口ですか?」
こうして――リゴッド皇国が後世の歴史家から「全ての論理が破綻した国」と呼ばれる切っ掛けとなる『第一悔 皇国後悔会議』こと『ルーム後悔議』が幕を閉じたのだった。
第115悔 『悔と甲斐の公会議』
第3章 『雌伏の後悔議』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆