第90悔 入国管理局部
文字数 2,639文字
「な、何だ、アレは一体……」
後楯のツー・ミン・カスティリョが突如として四階席の欄干の上に現れた不審者を見て言ったひと言が、いみじくもその者の存在を言い当てていたかも知れない。
「……キチガイじゃないか」
不審者が広げたマントの内側には、大小様々な陰茎が括 りつけられていたが、それは少女の日のアンナマリアが夜なべして芸術品を生み出そうとした結果だった。
今や、その“無毛猫 ”の陰茎コレクションの中で一番大きな張形は、クリストフのイキり立った“妄夢”を模 ったソレであり、一番古く、また本物の陰茎でもあるのがあのヌードモデルの男から直接切り取った粗末な一物であった。
大観衆は、この女露出狂の登場に沸きに沸いた。
「何だってんだ? この会議は! いろんなお女股 の見本市だ!」、「しかも、このお女股はイサベラ様並みだ!」
そして、その不審者の衣装との類似性から――次の瞬間、観客の誰もが先に登場した変態先生の方を見遣った。
「兄妹か?」、「いや、夫婦かも知れない」、「敵か? 味方か?」
この観客の声に近衛騎士ヒューゴが動いた。
「先生! あちらに御座 す方は一体、何者ですかい? 」
もしかしたら先生の御知 り合いかも、と思えばこそ自然、丁寧な言葉遣いになったがそんな配慮は無用だった。
「気をつけろ、ヤツの前では絶対に露出するな。……根こそぎ刈られるぞ」
変態先生のマスクの額に汗が滲 むのを近衛騎士らは見た。
「あの、いつも冷静沈着な先生が……」と、先ほど知り合ったばかりの変質者の警戒を読み取ったインペリアル・ガードの矛先が、腰に帯びたレイピアに手をかけた。
そんなことより……あの衣装、新品じゃないか?
クリストフが胸中で想いを吐露した。
あのマントの中で一番大きいのは相変わらず僕の“妄夢”から型を取った張形だな! それは当然として……新しいのも増えてないか? 気のせいかな? あれが、誰かのホンモノじゃなきゃいいんだけど……。それにしても、前の赤い衣装も良かったけど……見てみろ、新コスチュームを! 全身白を基調にしたおかげでより一層、アンナマリアの弾けるようなピンクの“城門”が栄えて輝いている! こうして下から見るとよくわかる! まるでマグアインブルグ門、そのものを象徴しているかのような見事な意匠 だ! 腕を上げたな、アンナマリア!
英雄活動だけではなく、デザイナーとしてもライバルである愛妻の意匠センスにクリストフは心底感心し、それを声にして彼女に伝えた。
「久しぶりだな、“無毛猫 ”。その衣装によって貴様の“城門”の輝き――さらに増しておるわ!」
この意見には辺りの者たちも、ため息をもって同意せざるを得なかった。
これに対し、“無毛猫”もやはり黙ってはいなかった。
「うぬのその“妄夢”とかいう見事な“罪棒 ”も、心なしか以前より猛っておるな? ならば、今日こそ吾輩のヴァギーナイフで魔羅刈 せねばなるまい!」
これには、幾分の嫉妬じみた物言いがあった事をアンナマリア自身も判ってはいた。
クリストフのバカバカバカ! 誰の“城門”を見てあんなに魔羅を起ててるの?! 絶対に他人の“城門”に入るなんて許さないんだから!
そうして、背中からいかにも陰茎を去勢しやすそうな湾曲したナイフを二本抜いた。
そんなアンナマリアの想いを知ってか知らずか、クリストフは脳内で今後の策略を巡らしていた。
そういえば、アンナマリアも出会った頃は淡い桃色の“城門”だった気がするけど、僕との“闘い”で使い込んだせいかすっかり朱色に近くなったな。ま、磨きがかかった、と言ってあげた方が適切だろう。とにかく、やっぱり僕にとっては最高の“城門”だな! ……いや、待てよ。とすると、あの異常なまでに薄い桃色としか言いようのない“美麗門”の持ち主は、もしかして……まだ……処女なのか? ということは今後、誰かが最初にイサベラ様の“美麗門”をこじ開けて城内に入城することになるな。誰だ? もしかして……僕か? いやいやいや、今はそれどころじゃない。とにかくこの窮地をアンナマリアと共に抜け出して、円卓に戻らないと! やっぱり、僕たちは運命的な夫婦だな。アンナマリアには僕の遭難信号が届いたんだ。あ……でもその前に『反英雄・妄夢』に変身してしまった事を怒られるだろうな……。まぁ、仕方ない。イサベラ様の『皇女股光』のせいだもんな。あの後悔三銃士の女の人とは我慢できたし……。ま、それはここで一戦交えることによって無実を証明しよう!
この妄夢と“無毛猫”のにらみ合いは、彼女の登場から三十秒ほどだったろうか。
ここで、あと数ミリで“妄夢”を挿入するにまで迫っていたイヴァノフが痺れを切らして行動に出てしまった。クリストフの“妄夢”を〈むんずっ〉と握ると、自身の『常世の国』に“入国”させようとしたのだ。
「さぁ! 今のうちに早く私の“国”に亡命するのだ!」
あるいは、それは妄夢の陰茎を去勢の危機から守ろうとする彼女なりの配慮だったのかも知れない。
しかし、愛妻のすぐ目の前という事もあって、クリストフがイヴァノフの開かれた両膝を押さえて“入国”を拒んだ。
「待たれい! まだ、その時ではない!」
何なんだよ、この人! 近衛騎士団副長なんだろうに、こんな人前で性交しても平気なのか?!
このやり取りを高い位置の四階席の欄干に立ち見ていた“無毛猫”が、胸中で怒りを露にした。
なんなの、あの人! あれはあたしの超必殺技『プッシー・テクノ・ブレイク』の体勢じゃん! そうは刺 せないんだから!
そして、「触れるな! その罪棒は吾輩の獲物よ!」と言うと、四階席欄干から三階席通路のクリストフの顔面めがけて、両の脚を「V」の字に大開きにする得意技を繰り出しながら飛び降りた。
「喰らえい! 『プッシー・スプラッシュ・マウンテン』!」
クリストフ! あたしを受け止めて!
アンナマリアの心の叫びを察したのか、一物をイヴァノフに握られたまま妄夢が膝を突いた状態から起ちあがった。
よぅし! そのまま来い、アンナマリア! その“城門”で僕を窒息させてくれ!
「あの高さから?! 無茶だ!」と、腰のレイピアに手をかけているクリムもさすがに謎の女戦士を心配する中、全裸で取り押さえられている状態の宮廷詩人が、虎視眈々とイヴァノフのお女股を狙っていた……。
第90悔 『入国管理局部』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆
後楯のツー・ミン・カスティリョが突如として四階席の欄干の上に現れた不審者を見て言ったひと言が、いみじくもその者の存在を言い当てていたかも知れない。
「……キチガイじゃないか」
不審者が広げたマントの内側には、大小様々な陰茎が
今や、その“
大観衆は、この女露出狂の登場に沸きに沸いた。
「何だってんだ? この会議は! いろんなお
そして、その不審者の衣装との類似性から――次の瞬間、観客の誰もが先に登場した変態先生の方を見遣った。
「兄妹か?」、「いや、夫婦かも知れない」、「敵か? 味方か?」
この観客の声に近衛騎士ヒューゴが動いた。
「先生! あちらに
もしかしたら先生の
「気をつけろ、ヤツの前では絶対に露出するな。……根こそぎ刈られるぞ」
変態先生のマスクの額に汗が
「あの、いつも冷静沈着な先生が……」と、先ほど知り合ったばかりの変質者の警戒を読み取ったインペリアル・ガードの矛先が、腰に帯びたレイピアに手をかけた。
そんなことより……あの衣装、新品じゃないか?
クリストフが胸中で想いを吐露した。
あのマントの中で一番大きいのは相変わらず僕の“妄夢”から型を取った張形だな! それは当然として……新しいのも増えてないか? 気のせいかな? あれが、誰かのホンモノじゃなきゃいいんだけど……。それにしても、前の赤い衣装も良かったけど……見てみろ、新コスチュームを! 全身白を基調にしたおかげでより一層、アンナマリアの弾けるようなピンクの“城門”が栄えて輝いている! こうして下から見るとよくわかる! まるでマグアインブルグ門、そのものを象徴しているかのような見事な
英雄活動だけではなく、デザイナーとしてもライバルである愛妻の意匠センスにクリストフは心底感心し、それを声にして彼女に伝えた。
「久しぶりだな、“
この意見には辺りの者たちも、ため息をもって同意せざるを得なかった。
これに対し、“無毛猫”もやはり黙ってはいなかった。
「うぬのその“妄夢”とかいう見事な“
これには、幾分の嫉妬じみた物言いがあった事をアンナマリア自身も判ってはいた。
クリストフのバカバカバカ! 誰の“城門”を見てあんなに魔羅を起ててるの?! 絶対に他人の“城門”に入るなんて許さないんだから!
そうして、背中からいかにも陰茎を去勢しやすそうな湾曲したナイフを二本抜いた。
そんなアンナマリアの想いを知ってか知らずか、クリストフは脳内で今後の策略を巡らしていた。
そういえば、アンナマリアも出会った頃は淡い桃色の“城門”だった気がするけど、僕との“闘い”で使い込んだせいかすっかり朱色に近くなったな。ま、磨きがかかった、と言ってあげた方が適切だろう。とにかく、やっぱり僕にとっては最高の“城門”だな! ……いや、待てよ。とすると、あの異常なまでに薄い桃色としか言いようのない“美麗門”の持ち主は、もしかして……まだ……処女なのか? ということは今後、誰かが最初にイサベラ様の“美麗門”をこじ開けて城内に入城することになるな。誰だ? もしかして……僕か? いやいやいや、今はそれどころじゃない。とにかくこの窮地をアンナマリアと共に抜け出して、円卓に戻らないと! やっぱり、僕たちは運命的な夫婦だな。アンナマリアには僕の遭難信号が届いたんだ。あ……でもその前に『反英雄・妄夢』に変身してしまった事を怒られるだろうな……。まぁ、仕方ない。イサベラ様の『皇女股光』のせいだもんな。あの後悔三銃士の女の人とは我慢できたし……。ま、それはここで一戦交えることによって無実を証明しよう!
この妄夢と“無毛猫”のにらみ合いは、彼女の登場から三十秒ほどだったろうか。
ここで、あと数ミリで“妄夢”を挿入するにまで迫っていたイヴァノフが痺れを切らして行動に出てしまった。クリストフの“妄夢”を〈むんずっ〉と握ると、自身の『常世の国』に“入国”させようとしたのだ。
「さぁ! 今のうちに早く私の“国”に亡命するのだ!」
あるいは、それは妄夢の陰茎を去勢の危機から守ろうとする彼女なりの配慮だったのかも知れない。
しかし、愛妻のすぐ目の前という事もあって、クリストフがイヴァノフの開かれた両膝を押さえて“入国”を拒んだ。
「待たれい! まだ、その時ではない!」
何なんだよ、この人! 近衛騎士団副長なんだろうに、こんな人前で性交しても平気なのか?!
このやり取りを高い位置の四階席の欄干に立ち見ていた“無毛猫”が、胸中で怒りを露にした。
なんなの、あの人! あれはあたしの超必殺技『プッシー・テクノ・ブレイク』の体勢じゃん! そうは
そして、「触れるな! その罪棒は吾輩の獲物よ!」と言うと、四階席欄干から三階席通路のクリストフの顔面めがけて、両の脚を「V」の字に大開きにする得意技を繰り出しながら飛び降りた。
「喰らえい! 『プッシー・スプラッシュ・マウンテン』!」
クリストフ! あたしを受け止めて!
アンナマリアの心の叫びを察したのか、一物をイヴァノフに握られたまま妄夢が膝を突いた状態から起ちあがった。
よぅし! そのまま来い、アンナマリア! その“城門”で僕を窒息させてくれ!
「あの高さから?! 無茶だ!」と、腰のレイピアに手をかけているクリムもさすがに謎の女戦士を心配する中、全裸で取り押さえられている状態の宮廷詩人が、虎視眈々とイヴァノフのお女股を狙っていた……。
第90悔 『入国管理局部』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆