第128悔 強情な罪棒
文字数 1,785文字
ギャングとスプリンガーたちが足下で口論を繰り広げているあいだ、アンナマリア・ブーゲンビルは瞑想でもしているかのように黙りこくったテンダ・ライに着目していた。
――何なんだろう? この人。こんな情けない姿で何度も射精に導かれて、しかも去勢の危機にあるというのに、まったく言い訳しようとしない。
オカシくない? 何か守るものでもあるの? それほど大事な狙いがあってこの街に来たってこと?
この男には裏がある、と睨んだ無毛猫の股間がより一層、潤いと熱を帯びて桃色に輝きだしていた。
でも、この男が口を割る前に刈ってしまったら、たったひとつの罪棒が手に入るだけ。真棒は薮の中! この堅物男の裏に潜む巨大な性犯罪組織には、もっとたくさんの罪棒があるはず! 誘導尋問でそいつらの情報を手に入れなきゃ!
そう考えていたところ、ちょうど足下からスプリンガーらの仰ぎ見るような視線を感じることになった。
真相究明への興奮で、プッシー・ハイジーンが泣き始めていた。
「なかなか骨のある奴よ。うぬの情けない罪棒と違ってな」
実際にはもちろん、今までにない幸福な賢者の時間でまどろんでいたため黙っているように見えただけだったのだが、それでも確かにテンダ・ライの後ろに巨悪を見た無毛猫の慧眼さ、というのはあった。
「感じるか? プッシー・ハイジーンの疼きを。聞こえるな? 罪を罰せよ、と泣き喚くモラルコンパスの声が」
ヴァギーナイフによって甘く挟みこまれた“堅物”が、わずかに首を縦に振って答えた。
「……しかし、吾輩とて今宵の一部始終を見ていたわけではない。先程、そこのギャング二人に語弊があったことも確認しているしな」
急に名指しされたロンゾが焦り、若干、語気を荒げた。
「えっ、俺たちに?! この俺たちがミスをした、と?」
それをファミーヴァが横から小声で割って入った。
「兄弟! 何のことかわからねぇが、この際、それでイイんじゃねぇか? 旦那の堅物のことを思えば……」
「なるほどな! それで押し通す!」
機転の利きの早さに定評のあるギャングは、すぐさまその案に飛びついた。それから改めて無毛猫の方を見上げると、毛髪の無い頭を撫でながら釈明した。
「そ、そうなんでさ。俺たちウッカリしちまって、そこの旦那に迷惑をカケちまったのかも知れねぇ」
これに対し、話の流れに納得のいかないブレンダが「カケたのはアンタら自身のキッタねぇ液でしょ」と舌打ちをするも、無毛猫の耳にまでは届いていないようだった。
「――という訳ならば情状酌量の余地があるのかも知れぬ」
そう言ってからヴァギーナイフを“堅物”から引くと、無毛猫はテンダ・ライに最後のチャンスを与えてみせた。
「魔羅刈されたくなければ、改めて申し開きをするがいい」
――申し……開き……! そうだ、確かにギャングは「開き直り」と言っていたんだ、だから私もいささか誤った対応に出てしまったのだ。それをこのお方はちゃんと聞き逃さずにいて下さったのだ。そればかりか、弁解の余地まで下さった! おぉ、何という慈愛深きお方なのだ! もう何を隠すことがあろうか!
無毛猫の正体を皇女股の持ち主だと勘違いしたテンダ・ライは、すっかり観念したのか最後の力を振り絞って自白を始めた。
「そもそも……私がこの街を訪れた理由は二つ……ありました。ひとつは、『とある男』の情報……。それを聞くためにこの街で一番のスプリンガーであるエロイナに会う必要があったのです」
「ウソをつくな! 持ってた小刀は何なのさ、エロイナをヤるためなんだろ!」
ブレンダの声が噴水広場に響き渡ると、ロンゾ&ファミーヴァは目を見合わせた。
「兄弟……どうしたっけ? あの小刀」とファミーヴァが声を潜める。
「ええっと……“天の川”をかける前に……どっかに置いたんだっけか?」とロンゾ。
「わからねぇ、あまりにも“天の川”をかけることに夢中になって」
「だな!」
二人のギャングの屈託のない笑みが、桃色の街灯の下でうっすらと浮き上がっていた……。
第128悔 『強情な罪棒』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆