第18話 手際

文字数 767文字

 二人は家に入った。先に入った三人は居間にはいなかった。祖父母の寝室に行ったらしい。祖父は台所に入り、お盆の上にオレンジジュースとコップ二つに菓子鉢、それと小皿の上にいかの塩辛のようなものと七味をのせてきた。
 シュンが祖父のコップにジュースをつごうとした。
「わしは、こっち」
 祖父は部屋の隅から焼酎の瓶を手に取った。小皿を見つめながら、シュンは祖父に聞いた。
「それ、なんですか?」
「お、これは酒を盗むと書いて、酒盗。鰹の内臓の塩辛や。食べてみるか?」
「いえ、いいです」
「まあ、読んで字のごとく酒飲みの食いもんやな、これは。お菓子でも食べな」
 そうこうしているうちに、祖母が台所に入ってから居間に戻ってきた。手には急須と湯呑を持っている。
「あー、疲れちゃった」
「二人は?」
「もうぐっすりよ。アンリの方が、寝ないってぐずっちゃって」
「本当に足はどうもないんか?シュウトのサンダル見たけど、あれだけ燃えとって無傷はありえん」
「とっさに脱いだんやないの」
「でも、サンダルが花火の火花ごときであんなに燃えるか。」
「さっき、バケツを取りにガレージに行ったとき、シュウト君がすべったんだけど、そのとき油の臭いがして」
「ああ、わし今日あそこで機械の油を抜いたんよ。あちゃあ、油受けを片付けてなかったか!」
「ひょっとしたら、足をつっこんだのかも」
「かー、孫に大けがさせるとこぞ。まったく」
「気を付けてよ、お父さん」
「まあ、何も無くて本当によかった。明日、念のために医者に診せとけよ」
「そうしましょ」
 シュンはマドカとカドマのことを話そうか迷った。でも、あのタイミングで二人とも見ていない訳がない。ということは、見えていなかったと言うことになる。それに、あの火を消して薬を塗って立ち去るまでの手早さを、話したところで信じてもらえるだろうか。きっと無理だ。
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