第20話 シュン、薄氷を踏む

文字数 1,094文字

「お兄ちゃん、おはよう!」
「おはよう!」
 二人の元気な声で目が覚めた。いや、起こされた。まだ午前六時過ぎだった。もっとも、シュンも昨日は早く寝たから、そんなにつらくはなかった。
「おはよう」
「ご飯食べよう、お兄ちゃん」
「食べよう、食べよう」
 三人で下に降りていくと、祖母が朝食の用意をしてくれていた。
ご飯に味噌汁、魚の干物と卵焼き、ほうれん草のあえ物と納豆というメニューだ。
「おはようございます、おばあちゃん」
「おはよう」
「おじいちゃんは?」
「今日は道の駅に朝採れ野菜を持っていくから、もう仕事よ」
「早いですね」
「ええ。さあ朝ご飯、おあがり」
「いただきます」
「いっただきまあす!」
 朝ご飯が始まった。二人はしゃべりながら、もりもりとご飯を食べていく。
「シュウト君、なんともないの?」
「うん、平気。昨日はちょっとびっくりしただけ」
「お兄ちゃん、泣いちゃってかっこ悪い」
「アンリも泣いただろ!」
「私はお兄ちゃんがかわいそうって思っただけだもん」
「うそばっかり」
「ほんとだもん」
 そう言えば、あのときアンリは急に泣き止んだな、どうしてだろう、とシュンは考えた。これも、きっと今日わかるんだろうな、と思った。その時、ハッとして祖母を見てこう言った。
「そうだ、おばあちゃん。庭に立派な蔵がありますよね、何が入ってるんです?」
「大したものは入ってないけど、昔から伝わるものが多いわね」
「見せてもらっても構いません?」
「いいけど、何か気になるの?」
「いや、蔵なんて見られる機会、そうないから」
 そう言いながら、祖母の方をふと見ると、祖母が眉間にしわを寄せて考え事をしている。
「あの、だめならべつに」
「ああ、そうじゃないの。いえね、この子たちの母親が蔵で遊ぶの好きだったからね」
「そうなんですか?」
「あと、なんか思い出さなきゃいけんことがあるような気がして。だめね、年とると。いいわ、あとで開けたげる。中のものを説明しようかね」
「あ、ちょっと見てみて、興味がありそうなものがあったらおばあちゃんに聞きます」
「そうかい。ゆっくり見たいのやったら、九時前に二人連れて病院行ってくるけん、そのときにしたら」
「ぼく、病院やだ!」
「わたしも!」
「大丈夫、シュウトの足、ちょっと診てもらうだけやから」
「じゃあ、私お兄ちゃんと留守番する」
「うーん、昨日みたいに何かあるといけないから、ダァメ」
「ちぇっ」
「すぐ帰ってくるから。言うこと聞いたら帰りにアイスかな?」
「ふうん、じゃあ行く」
 祖父母には見えなくても、おそらくアンリにはマドカたちの姿が見えるはずだ。そうなると、少しややこしくなりそうだ。シュンは正直、ほっとした。
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