第13話 真紅のリンゴ

文字数 933文字

 少しほっとしていると、風呂場から祖母の声がした。どうやら一人出るからシュンを呼んでいるようだ。風呂場の前まで来ると、シュウトが上がるらしい。
「シュンちゃん、悪いけどシュウトの着替え頼むわ。バスタオルにくるんで出すけんね、着替えは居間のソファの上。冷蔵庫の麦茶をあげてね」
 脱衣場から出ると、シュウトはペットボトルロケットのように、ものすごい勢いで居間に走っていく。シュンは迎えに来たのが無駄じゃんと思いながら、後を追っかけた。
「ほら、シュウト君、じっとして。早く着替えないと遊ぶ時間が無くなっちゃうぞ」
 真っ赤な体をシュンに拭いてもらいながら、シュウトは目をキラキラさせている。キラキラの目の下は、真紅のリンゴほっぺだ。お泊りができるのと、花火ができるのと、いとこの新しいお兄さんがいるのと、シュウトの胸はワクワクで一杯だ。シュンは丁寧にシュウトの体を拭いてあげた。
「お兄ちゃん、ぼくも行く」
麦茶を取りに行こうとすると、台所まで付いてくる。シュンも、ここまで慕われると悪い気はしなかった。麦茶を持って台所から戻ると、祖父が帰ってきていた。大きな袋に入った花火が目の前に置いてある。シュウトの瞳のキラキラは、更に輝きを増した。
 祖母がアンリを連れて居間に入ってきた。こちらも真っ赤な顔をしている。ここにも真紅のリンゴが二個。ソファに座ると、麦茶をおいしそうに飲み始めた。
「シュンは、お風呂は花火のあとでええやろ。二人が寝てしまうといけんけん」
「いいですよ、おじいちゃん」
「ぼくは、今日お兄ちゃんと寝る」
「えー、アンリがお兄ちゃんと寝る」
「こらこら、シュウトもアンリもいけんよ」
「だって、いいやん」
「シュウトもアンリもおねしょしたら恥ずかしいやろ。お兄ちゃんに笑われるで」
「ぼく、おねしょせんもん」
「アンリも」
「さあさ遅くなるけん、花火をしよや。庭に出さいや」
 祖母の一言で、とりあえず誰がシュンと寝るか問題は先送りされた。正直、小さな子と寝るなんて、恐ろしい以外のなんでもない。
 庭に出て、空を見上げると、きれいな星空だ。余計な光がないから星がきれいに見えるのかな、と考えてみた。たしかに周りは人家の明かりがぽつんぽつんと見えるだけだ。少し明るく見えるところがある。
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