第3話 鬼北町に着いた 

文字数 912文字

 十五分位で祖父の家に着き、自動車から降りた。大きな蔵のある、立派な家だ。周りは田んぼだらけで、祖父の家以外に数軒、同じような家があり、後は何軒かずつがかたまっている。祖父母は毎年横浜までシュンに会いに来るけれど、祖父の家に来るのは小学校一年生の時以来だ。こんなに大きな家だったっけ、と考えながら門を入っていくと広い庭があった。蔵の横には屋根付きのガレージがあり、祖父の車の他に軽自動車一台と、蔵側にトラクターとかの農業用の機械が並んでいる。庭の隅に大きな犬小屋があり、小屋の前に大きな犬が寝そべっていた。祖父の姿を見ると、ゆっくりと起き上がり、尻尾を振って祖父が近づくのを待っていた。
「おお、今帰ったよ。シュン、ベンじゃ」
「大きな犬ですねえ」
「ベンはグレートデンという種類だよ。犬の中でもトップクラスの大きさやけん」
「こんにちは、ベン」
 シュンはおっかなびっくりでベンに話しかけた。ベンは特に吠えもせずにシュンをちらっと見て、祖父の足元のにおいを嗅いだ。
「ベンは賢いけん、すぐに仲良くなるやろ。後で散歩に行くけん、ついておいで。まずは荷物を置かなのう、シュン、玄関から上がりな。母さんや、シュンつれてきたで」
 そう言うと祖父は、庭から直接家の中に入っていった。シュンは玄関に回り、靴を脱ごうとした。
「まあまあ、よう来たねえ」
 玄関には祖母が待っていた。ニコニコとした祖母は、祖父と対照的に日焼けをしていない。祖父も祖母もまだ六十歳位だけれど、祖母は特に若々しく見えた。母が少し年をとったら、こんな感じかな、とチラッと思った。
「この部屋使うといいけん」
 祖母の後をついていくと、二階の一部屋に入った。
「あなたのお母さんが使っとった部屋やけん、遠慮せんといて。シュンちゃん、好き嫌いはある?お刺身とか大丈夫?」
「はい、お刺身は大丈夫です」
「あら、嫌いなものは?」
「トマトがちょっと…、野菜は全体的に」
「あらあら、おじいちゃんちは農家なのにねえ。田舎のトマトはおいしいけどねえ、まあいいわ」
 祖母はそう言うと部屋を出て行った。シュンは母に着いたことをメールし、下に下りていった。下では、祖父がベンの散歩に行くため待ち構えていた。
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