第32話 え、失恋?

文字数 684文字

 なるべく考えないようにしていたが、ついに帰りの日がやってきた。祖父は空港まで送っていくといったが、シュンは断った。帰りの切符をバス・飛行機と母が手配してくれていたのもあったが、楽しかった日々を考えると、涙があふれるのを抑える自信がないからだ。来た時のように、宇和島駅までは送ってもらうことにした。
 叔母といとこ二人も来ていた。アンリはシュンが遠くに帰るという意識はないようだった。シュウトは、何となくわかっていて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「蔵、行ってきなよ。カギ開けてあるから」
 叔母が近づいてきて、シュンだけに聞こえるように言った。シュンは、はっとして叔母を見た。叔母は小さくうなづいた。
 センチメンタルな気分で、シュンは蔵の戸を開けた。どうやって別れを告げようか、まとまっていなかった。
「おんどれか、シュン言うんは!」
 いきなり、ドスのきいた女の子の声がした。何が起こったのか、わからなかった。いわゆる、ヤンキーの女の子が目の前にいた。
「シュン君、この子がヒノメ」
 カドマが紹介してくれた。神様にしては、品が悪い。
「品が悪いのは、ヒノメのせいじゃないよ。シュン君のイメージが作ったんだよ」
 ああ、そうか。宇和島藩の火消侍の話を聞いて、こうなったのか。
でも、関西弁って。
「おんどれのイメージやっちゅうとるやろ、シュン!」
「すみません…」
「まあ、ええわい。マドカはおらんで」
「えっ?」
 シュンは絶望の崖っぷちに追いやられた気がした。嫌われた、と言う言葉が頭に渦巻く。これじゃあ、冬休みに来ても会えないんじゃないかと思う。ぼく、いったい何をしたんだろう、と。
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