第27話 イカす奴

文字数 797文字

「どんな人だったの?」
「いや、藤原家の当主の弟で、宇和島藩に勤めた源二郎って侍だけど、ヒノメといっつもけんかばかりしてね、小さなころから死ぬまで、四十年も」
「それでいて、いっつもくっついていたのよね」
「うん。それで火事の気配がすると、ヒノメの能力で察知して、真っ先に火事場に駆けつけて、ヒノメに助けてもらって消すんだよ」
「最初のころは、いっつも火事場に一番乗りするものだから、放火魔と間違われたりしてね」
マドカとカドマは、そのころを思い出したように遠い目をしていた。
「最後は町奉行までいったんだよな」
「そうそう、それでも火事と聞くとじっとできなくて飛び出して行って、『お奉行―っ、お待ちを!』『ご、ご裁可が先ですぞーっ!』なんて、他のお侍さんを困らせていたわね。若くして死んだのも、火事場に向かう途中で馬から落っこっちゃって」
「死ぬときはヒノメに『次の奴にはやさしくしてやれよ』なんて言ったっけ」
「ヒノメも『地獄の焦熱の火でも消してやがれ』なんてね」
「ふうん、面白い人だったんだね」
「ふふ、イカす人だったわ」
「でも、次の人って?」
「いや、源二郎の勘違いなんだ。ぼくらを源二郎に憑りついている妖怪かなんかだと思っていてね」
「何度も説明したけど、結局は『ああ、竈の付喪神か』って。私たちは最初に言ったように、竈の神の分身です。だから、一人だけしかいないわけではありません」
「どういう意味?」
「例えば、今アンリが見えるようになるとするでしょ。そうすると、アンリに見える私がいます。多分、三才から六才位の女の子です。でも、シュン君の前には十四才の私がいます。これは、同時にいることもあります」
「分身するってこと?」
「まあ、だいたいそうね。そして、両方で行われたことの記憶を私は持ちます」
「じゃあ、一度に何人もと一緒にいられるの?」
「何人までかは試したことはないけど、今まで一度に五人までは経験あるわね」
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