第14話 田舎の夜

文字数 913文字

「おじいちゃん、あの明るいところは何ですか?ショッピングセンターとか」
「あははは、面白いことを言うな、シュンは。こんな田舎にショッピングセンターを造ってもあかん、あかん。せいぜいスーパーや。あの灯りはな、小学校のグランドや」
「小学校で何をしてるんです?」
「社会人のソフトボールや。仕事が終わってからみんな集まって、夕方から練習したり、試合したりするんよ」
庭では虫が鳴いていた。でも、思ったよりも静かだ。それよりも、カエルの声がうるさい。まさに大合唱だ。昨日はまったく気が付かなかった。周りが田んぼだらけだからかもしれない。
「おじいちゃん、あまり虫が鳴いていないですね」
「ああ、虫が鳴くのはシュンが帰るころからやけん。それよりカエルがうるさかろう」
「はい。あと、虫が…」
 これも昨日は気が付かなかったが、灯りに群がる虫の多さにシュンはびっくりした。ちょっと気の弱い、虫嫌いの人なら失神してしまいそうな位、灯り目指して飛んでくる。ホラー映画のワンシーンのようだ。
「ははは、都会にはおらんわな、こんだけの虫は。でも、気持ち悪い虫ばかりやないぞ。ほれ、そこ」
 祖父が指差したところに、三センチ位の黒い虫がいる。何だろうと見てみると短い牙のようなものが生えている。
「コクワガタの雌やな。うちは山がすぐそこやろ、よう飛んでくるんや」
 そう言って祖父はコクワガタの雌をつまみあげ、シュウトの手のひらに乗せた。シュウトもアンリも別に怖がりもしない。もぞもぞと動いているのをじっと見ている。
「雌が多いけどな、時にはコクワガタやヒラタクワガタ、スイギュウ言うてな、ノコギリクワガタのことやけど、そんなんも飛んでくる。あと、カブトムシもな」
「カブトやクワガタがですか?」
「ほうや」
「電灯をつけてるだけで?」
「ほうよ。まあ、必ず飛んでくるわけではないけんど、カブトもクワガタも雌はよう飛んで来るで」
 信じられないことだった。シュンが小さいとき、昆虫ブームがおきたことがある。かなりの数のカードを手に入れ、実物にも興味を持った覚えがある。今はブームではないけれど、カブトやクワガタなんて、横浜ではお店でしか見られない。ここにもまた、サプライズがあった。
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