第10話 妖怪のせいだよね?

文字数 1,120文字

 それは、流行の妖怪キャラクターのガシャポンだった。田舎へ行くと当分できないかもしれないので、羽田まで行く前に横浜市内で買ったものだ。五個あるうちの、三個はすでに持っているやつだから、これをプレゼントしよう、と考えた。
「ほら、シュウト君、アンリちゃん。これを上げるから、仲良くしてね」
 二人は大きな目を更に大きくして、シュンの手の上のキャラクターを見つめた。そしてもらっていいかと問いかけるように、おばさんに向かって首をかしげた。
「いいわよ、もらいなさい。お兄ちゃんにちゃんとお礼を言って」
「ありがとう!」
 今度は部屋に入ってきたときのような元気一杯の声だ。これで仲良くなれるきっかけができた、とほっとする間もなく、すわったひざの上にアンリがチョコンと座ってしまった。手のひらを返したような態度に、大人三人は大笑い。
「お兄ちゃん、お名前は?」
「シュンだよ」
「ふうん、アンリのお兄ちゃんはシュウトだよ。似てるね」
「うん、似てるね」
 どうやらなつかれたようだが、シュンは少し体の奥がくすぐられているような、うれしいような恥ずかしいような気分になった。すると、まるで対抗するかのように、シュウトがシュンの前に立った。
「お兄ちゃん、これ集めてるの?たくさん持ってる?」
「うん、持ってるよ。百二十個くらいあるかなあ」
「へえ、すごいねえ」
「同じのも何個かあるから、横浜に帰ったら送ってあげようか?」
「やったあ」
「えー、アンリも、アンリも」
「あっという間にモテモテやなあ、シュンちゃん。さ、おばあちゃんは晩ご飯の支度、してこよ。アケミ、手伝いなさい」
 こうして、居間には祖父とシュン、そして小さないとこたちが残った。一度なれてしまった子供たちは手に負えない。お兄ちゃん、お兄ちゃんの連続で目が回りそうだ。ふと見ると、祖父がさびしげに見える。きっといつもはおじいちゃん、おじいちゃんでやかましいのだろう。シュンは少し気の毒になったが、シュウトもアンリも斟酌なんかしない。ひたすらシュンの周りを跳ね回っている。同じテンションでずっと騒げるんだから、まさにエネルギーの塊だ。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」
「横浜だよ」
「ふうん、横浜って松山より遠い?」
「ずっと遠いんだよ」
「じゃあ、アメリカよりも?」
「アメリカよりは近いかなあ。飛行機で来たんだよ」
「へえー、飛行機かあ、乗ってみたいなあ」
「アンリも!」
 こうして、初対面のいとこたちの波状攻撃にさらされた。かまって、かまってのパワーがすごい。ひとりに話しかけると、ぼくも、わたしも、だ。
そのうち、あれっ、静かになったなと思ったら、アンリが祖父のひざの上で眠っていた。シュウトも夕方の子供番組に見入り始めている。
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