第17話 正体がチラリ

文字数 771文字

「水、水だ!」
「どうしましょ、バケツ、バケツ!」
 祖父も祖母も大慌てでそこらを探し始め、シュウトにつられてアンリも泣き出した。アンリが泣きながらシュンのそばにかけよってきた。どうにかしなくちゃ、とシュンが思った瞬間、耳元で声が聞こえた。と、同時にアンリが泣き止んだ。
「だから気を付けて、って言ったのに」
 白い布がふわっと降りてきて、シュウトの足にからんだ。すると、火はもう消えていた。それから白い布はふわっと舞い上がり、人の形になった。なんと、それはマドカだった。
「シュン君、シュウト君を持ち上げて。カドマ、薬!」
 マドカの後ろにいつの間にかカドマが立っていた。カドマは素焼きの壺を差し出した。シュンは慌ててシュウトを抱き上げた。マドカはひざをついてシュウトの足に手早く壺の中身を塗った。すると、シュウトが泣き止んだ。
「また明日ね、シュン君。そうね、おばあちゃんに蔵の中を見せてくれ、と頼んどいてね」
 お礼を言う間もなく、マドカとカドマは夜に溶けていった。走り去ったんじゃない、スッと消えた感じだ。そのとき、バケツを持った祖父と薬箱を持った祖母がかけつけた。シュウトはまだしゃくりあげていたが、大丈夫のようだ。
「おおシュウト、大丈夫か?」
「シュウちゃん、痛くない?」
「…大丈夫、…痛くない」
「シュンが消してくれたんか!」
「ありがとうね、シュンちゃん」
「いや、あの」
「足、見せなさい。あら、なんともないわ」
「何言うとるんや、あんだけの火やぞ。あれ、やけどしとらんな」
 二人とも、ほっとしたようだった。それからは花火どころではなく、祖父とシュンは庭の後片付けをし、祖母は幼い二人を連れて家に入った。庭に黒く溶けかけたシュウトのサンダルが落ちていた。
「おかしいの、ここまで溶けとるのにやけど無しとは」
「おじいちゃん、家に入りましょう」
「そうするか」
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