第2話 宇和島駅

文字数 881文字

 午後三時半、卯之町というバス停に停車した。母からは、このバス停に着いたら祖父に電話するようにと言われていた。スマホを取り出して、祖父に電話した。祖父からは、JR宇和島駅の前で待っているように言われた。
 ちらっと横の席を見ると、女の子と男の子がいなくなっていた。空港を出発してから、たしかここが最初のバス停だったから、降りたのか、日差しがまぶしくて席を替えたのかなとシュンは思った。
「でも、かわいい子だったよな」
そう考えて、また頬が熱くなったような気がした。あらためてライトノベルに目を落とした。
 三十分ほどで宇和島駅に着いた。本を読んでいたせいか、松山からあっという間のように感じた。バスが止まり、大勢の人が宇和島駅で降りた。
「あっ、あの子達…」
 バスから降りてみると、横の席から消えたあの二人も降りてきた。やっぱり席を移っていただけなのか、とシュンは思った。そして、少しうれしいような気がした。
「おおい、シュン」
 祖父の声がした。農家で、広い田んぼといくつかの山を持っている祖父は、こげ茶色に日焼けをしていて、がっちりとしていた。顔中をしわにして、うれしそうに近寄ってきた。
「早う着いたな。疲れたろ」
「ううん、バスでそのまま来れたから、疲れてないです」
「ばあちゃんも待っとるけん、早う行こか」
 シュンは頷いて、祖父の後ろを付いていった。バス停の椅子を見ると、あの二人がちょこんと座っていた。女の子はシュンに向かって、またにっこりと笑いかけた。またもや頬が熱くなり、今度は心臓までもがドキドキしてきた。あわてて、祖父の後を追っていく。そして、ちょっと立派な車に乗った。
 祖父の家までは、山の中の道を通った。本当にひと山越えていく道だった。駅を出発してすぐに、そう長くないトンネルを三つ通ると、もう山の登り口だ。横浜ではありえない、街からいきなり自然の中へのダイブだった。ちょっとした、いやかなりのサプライズだ。
道中、祖父は色々なことを聞いてきた。父のこと、母のこと、学校のこと。シュンが答えると祖父はニコニコとしながら、ときどきほうほうといいながら聞いていた。
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