最終話 春休みにはきっと来る 

文字数 1,026文字

「早合点すんなや、マドカは宇和島駅で待っとる」
「え?」
「お前を松山空港まで送るために、待っとるちゅうこっちゃ」
「マドカにシュン君を送らせるために、ヒノメを呼んだんだよ。何か大事があったとき、ひとりじゃ対処できないからねえ。アケミがアドバイスしてくれたんだよ(送ってくことも)」
「へっ、まったく忙しいのに」
「暇だろ」
二人は口論を始めた。そんなことより、シュンは天にも舞い上がる気分だった。マドカが松山まで送ってくれる!ダッシュしたいくらいの気分だ。
「ほったらかしかーい」
「早くいくといいよ、シュン君」
「うん、ありがとうカドマ君。それと、ヒノメさん。冬、また来るから」
「待ってるよ、シュン君」
「ふん、見回ってやらんこともあらへんで、冬に」
 じーんと胸に来た。シュンは鼻みずをすすり上げながら、急いで居間に戻った。叔母はこちらを向いて、右手の親指を立てた。シュンは思わず頭を下げた。
「さあ、もう時間やけん。行こか」
「シュンちゃん、元気でねえ」
「シュン兄ちゃん、行ったらいけん!」
「シュン兄ちゃんどこ行くの?」
 むずかるシュウトの頭を撫でて、妖怪のガシャポンを送るから楽しみにしてな、とシュンは言った。祖母と叔母には、お世話になりました、と声をかけた。アンリにはまた来るね、と声をかけた。アンリは、どうぞ、と応えてくれた。
 祖父の車に乗り、後ろを振り向いた。みんな手を振ってくれている。シュウトがかけだそうとした。叔母が両手で包んで止めた。シュウトの大きな泣き声が、聞こえる気がした。シュンも涙をこらえながら、見えなくなるまで手を振った。
「楽しかったか?」
「ええ、とても」
「また来たらええ」
「はい、冬休みに来ます」
 夏の体験の話をしながら、宇和島駅に向かった。祖父はほうか、ほうかとニコニコと話を聞いてくれた。山を登り、山を下った。下りきったところに、トンネルの入り口が待ち構えていた。あれを越えると、宇和島駅だ。
 どんなことを話しながら、松山空港までいこうかな。いや、照れてあんまり話せないよな、きっと。でも、これだけは決めている。ぼくはアケミおばさんのようになるよ、絶対!と。
 駅が近づいてきた。停留所の椅子に、もうすっかり見慣れた女の子が座っている。その時ぼくは思ったんだ。冬休みに来るのはもちろんだけれど、少年式を過ぎた春休みにはきっと来る。次の夏休みにも、絶対。
                                         (了)
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