第1話 松山空港

文字数 928文字

 太陽が容赦なく照りつける七月の第三日曜日、一人の少年が羽田発午後一時二十五分着の飛行機で松山にやってきた。中学生だろうか、背は高いが少し線が細く、夏だというのに青白い肌をしていて、誰がどう見ても病弱だとわかりそうだ。
少年の名は、大田シュン。夏休みを母の実家で過ごすために、一人で横浜からやってきた。母の実家は鬼北町というところで、空港から二時間以上かかるらしい。二週間の滞在予定だ。
 大きめのデイバッグを肩にかけ、ものめずらしそうに辺りを見渡しながら、ゆっくりとロビーを歩いてきた。そして、カウンターのお姉さんに何かを聞く。頭を下げてお礼を言うと、上りのエスカレーターに乗り込んだ。
 二階に着くと、一角が大勢の人でにぎわっていた。シュンは目を輝かせながら、そこに近づいていく。
「本当にあるんだ、みかんジュースの蛇口!」
シュンは他の人たちと同じように紙コップをもらい、蛇口の前の列に並んだ。そして自分の順番が来ると、ワクワクしながら「ポンジュース」と書かれたボードの下の蛇口をひねった。濃いオレンジ色のジュースが出てきた。スマホを取り出し、写真も撮った。
「後でみんなにメールしなくちゃ。でも二時までなんて知らなかったよ、危ないとこだった」
 甘酸っぱいジュースに満足したシュンは、バスを探しに一階へと降りていった。宇和島まで直通のバスがあるので、それに乗るように言われていた。夏休みが始まるころだから、混むと大変なので母が予約をしてくれていた。
 そのバスは午後二時五分発で、十人ほどの人が並んでいた。運転手に予約していることを伝えると、バスに乗せてくれた。並んでいる人たちは空席待ちをしているようだ。バスの中は、三分の二位の席が埋まっている。このままなら、並んでいる人たちも乗れるだろうと考えながら左側の窓際に座った。バスは南に向かうので、午後は左側なら日に当たらなくていいと思ったからだ。
 通路を挟んだ横を見ると、同い年位の女の子が小学校低学年位の男の子と一緒に座っていた。目が合うと、女の子はにっこりと笑った。シュンはあわてて目を背けた。頬に血が上ってくるのがわかった。恥ずかしくなって、デイバッグの中からライトノベルを取り出して、一心不乱に読み始めた。
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