第7話 自転車で

文字数 935文字

「雉は、鬼北町の特産品だから」
 いきなり声をかけられ、シュンは声の主の方を向いた。そこにはバスで見かけた女の子が、小さい男の子の手を引いて立っていた。やっぱりニコニコと笑っていた。
「ああ、そうなんだ」
「あなた、藤原さんちのシュン君でしょ」
「いや、ぼくは大田シュンです」
「藤原は、あなたのおばあさんとおじいさんの姓です」
(そうだ、ここのおじいちゃんは藤原だ)
 シュンはドキドキしながら、女の子の問いにシドロモドロで答えた。何でぼくの名前まで知っているんだろう、この子は誰なんだろう、いろんな疑問が頭に浮かんできた。とりあえず、相手の名前を聞いてみることにした。
「君は誰?」
「私はマドカ、この子はカドマ」
「へえ、そっくりな名前だね、やっぱ姉弟?」
「まあそんなものね」
 要領を得ない返事だが、まあ姉弟でなければいとこか何かだろうと思った。
「ねえ、マドカちゃん達もよそからここに遊びに来たの?」
「違うわ」
「え、だって空港にいたじゃん。ああ、じゃあカドマ君が遊びに来たのを迎えに来てたのかな?」
「はずれ。まあ、それよりも今からどこへ行くの?」
「ああ、道の駅を見てから総合公園に行ってみようかなって」
「そう。じゃあせっかくお知り合いになったんだから、いやじゃなければ一緒に行ってあげる」
「え、そんな」
「いや?」
「全然、いやじゃないけど」
「じゃあ、ここの案内から」
 そう言うと、マドカは道の駅の中を案内してくれた。案内と言っても、そう広いわけでもないから、いろんなものの説明をしてくれただけだが。
「ここのお野菜は、朝採れ野菜もあって新鮮なのよ」
「ふうん」
「このカレーは雉の肉を使ってるのよ」
「へえ」
「あのバッグの素材は、消防団のユニフォームよ」
「ほう」
 それからおいしいからと勧められたお饅頭を買い、三人で総合公園を目指した。ほとんど平たんだけれど、どちらかと言えば運動の苦手なシュンは、えっちらおっちらと自転車をこいだ。マドカは、カドマを乗せているにもかかわらず、すいすいと自転車をこいでいた。やっぱり体力をつけないとな、と今更のようにシュンは思った。
 総合公園は、思ったよりいいところだった。遊具のある場所へは、自転車をこいで疲れている上に、さらに坂を登らなければならなかったが。
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